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水晶動画


「俺は何をやっているんだろう……」


 サイオンジさんは学園長と少し話してから、スミレ先生の元へと向かった。

 俺が奪った魔力を正常にするための特訓をするらしい。

 サイオンジさんと学園長は俺に仲間に会いに行け、とだけ言ってあの部屋から俺を追い出した。


 俺はケロベロス像の前で一人佇む。

 王国民は今回の事件を軽く見ている。王国の剣がいなくなっても、ランカーがいなくなっても、ランキング一位である学園長がいるからだ。


 ……だが、学園長は黒いエルフの計画に気が付かなかった。


 学園長は魔導省に出向したり、他の国とのバランスを保つために奔走していたらしい。

 超大国で起きた事件や、自由都市で起きた事件の処理で忙しかったみたいだ。


 ……それで自分の国をおろそかにするとは。


 学園長は、俺が実験体として奴隷をしていた事を知ると、ひどく驚いていた。

 わからない事はたくさんある。


 ――なぜ今になって正体を現した? 長い間王国に潜伏していた理由はなんだ? 魔神を復活させるためだけか? それに、あの時魔神が王国で暴れたら王国は破壊されていただろう。魔神は厄災の一種。

 それなのにあっさりと帝国に戻ってしまった。


 この地域はお互いの国が争う事がないように条約を結んでいる。

 帝国、自由都市、共和国、王国、超大国――

 争うのは高等学校対抗戦と、国別ランキング戦だけであった。


 俺が奴隷としていた場所は、帝国が管理している元魔族領にあった。

 特殊なスキルの人間を集めて、実験を繰り返す。

 想像空間という最上級の魔法に到達したが、それが目的ではなかった。


 あそこは帝国の兵士を育てるための場所だったんだ。

 王国の剣のギルドメンバーの水晶画像を確認したら、元奴隷が大勢いた。

 死んだと思っていた奴隷が存在していた……。



 俺は自分の胸に手を当てる。

 こうすると仲間たちを感じる事ができる。


 ――必ず復活させる。もう二度とレンの時のように死なせない。


 雨が降ってきた。俺は魔力傘をささずに雨に打たれる。

 姫からケロベロス像の前に呼ばれた思い出が蘇る。


「――強くなる」





 ふと、気がつくと雨が当たらなくなっていた。

 誰かが俺に傘をさしてくれた。


「……迷惑をかけた、セイヤ君。俺は、サトシをぶん殴りに行く」


 カケルが俺の横にいた。魔神の依代として存在していたカケルは一切の魔力を持っていない。無理やり魔神を引き剥がした影響で動くことさえままならない状態のはずだ。やせ細ったカケルから強い意思を感じる。


「セイヤ……、悔しいにゃん、みんなにさよなら言えなかったにゃ。……今度は私も一緒にゃ」


 ピピンが俺に抱きついてきた。懐かしいお日様の匂いを感じる。

 何故か俺の涙腺が弱くなってしまう。


「うん、学園長から話は聞いたよ。……もう二度と暴走しない。セイヤ君、一緒に戦おう」


 気がつくと雨がやんでいた。

 空から日が差して王国を照らす。正直王国がどうなろうと俺には関係ない。貴族である家族たちと縁を切った――

 仲間を取り戻すために俺は前に進むんだ。


 心の奥にいる仲間たちが呼応するかのように、胸が熱くなる。


「対抗戦……その時、帝国の学園長を、魔神を――ぶち殺す」






 **************






 あの事件の後の学園は静かであった。

 王国の第三王女である姫が死んだ。

 騎士団長の娘であるマシマが死んだ。


 騎士団長は怒り狂って単身帝国へと乗り込もうとしたほどであった。

 きっと、騎士団長はマシマの事を愛していたんだ。不器用な武人であったからうまく表せなかったんだ。


 それでも時間が経つと人は感情を忘れる。

 忘れないと自分の心が病んでしまうからだ。


「ていうかさ、この学園に魔神がいたってやばくない?」

「はぁ……、親が転校しろってうるさいのよ」

「マシマって強かったんだな。あの化け物に立ち向かったんだろ……」

「うん、すげえやつだったな。メルティも姫も――」

「選抜メンバーは生き残ったやつらか。もう優勝でいいじゃん」

「おい! この動画見ろよ! 各国の対抗戦のメンバーが出てるぞ!!」



 あの時生き残った三人の見知らぬ生徒が俺たちの事を学園中に広めた。

 誇張するでもなく、悪意ある嘘をいうでもなく、真実だけを伝えた。

 悪い噂は聞こえてこなかった。


「なあ、セイヤ、昼休みは何を食べるんだ? む、弁当の匂いがする……リ、リオ?」


 早弁をしているリオを見ているカケルが俺に声をかけてきた。


 選抜メンバーはチーム力を高めるために同じクラスに集められた。

 カケルはこの学園に編入する時、大学院の試験を解いている。授業にでる必要がなかった。

 クラスメイトは年上であるカケルに遠慮がある。それに、カケルは……不器用だから。


「おっと、そこの令嬢、肩にホコリがついているではないか。どれ――」


「ほわぁ……、ヤバ……」


 ホコリを取りながら長い髪をかきあげて女子生徒を見つめるカケル。女子生徒の顔が真っ赤になってしまった……。


 ピピンもこのクラスにいる。

 クラスメイトの男子はピピンを見て呆けた顔をしていた。


「にゃ? リオとピピンが作った美味しい弁当があるにゃ! ……スミレの分はないにゃ。しゃーっ!! こっち見るにゃ!」


「ふえ!? ご、ごめんなさい。え、えっと、わ、私この年で高等部って……、同窓会で笑い者になっちゃうよ……」


 ピピンも本気で怒っているわけではない。

 どうやらスミレ先生も洗脳されていたんだ。死んだと思われた実験体。ピピンを裏山で廃棄したのがスミレ先生だ。

 俺が半殺しにしたことによって、洗脳が徐々に薄れていったらしい


「まあいいにゃ。スミレには草を用意してるにゃ。いっぱい食べるにゃ」

「く、草……、う、うん、美味しければ……」


 リオが俺の肩を叩く。


「ねえねえ、対抗戦のメンバーみてみない? 帝国……、気になるよね」


 リオと俺はじゃれ合っているピピンを放置して動画を開く。


 そこに映し出されていたのは――


 運営委員のアナウンサーが明るい声で紹介を始めたところであった。





『それじゃあ紹介するね! 魔法の強さで将来が決まっちゃう、超ヤバい文明国家、超大国の魔法学園! なんと男の子は一人! あとは全員女の子! 超カワイイ子ばっかりだってばよ! ワタクシ的には補欠のロリっ子がおすすめだよ! 可愛いだけじゃなくて実績もばっちり!  名実共に勇者である男の子と、女子たちはエンシェントドラゴンキラーとして有名だよ!』


 俺は思わず声を出してしまった。


「な、なんだこれは? ゆ、勇者? なんだそれは?」

「う、うん、ノリが軽いね。……補欠ってありなんだ」


 選抜者が魔物と戦っている姿が映し出されていた。……これは――

 動画はどんどんと紹介を続ける。



『えっと、次は……何でもありの自由都市! 獣人、魔族、人族と多種多様! 超高位冒険者である中途半端なイケメンミハエル君とギルドを取りまとめている超イケメンツヨシ君のツートップ!  それにやばい冒険者がいっぱいいるよ! えっと、ミハエル君からお手紙もらってます! 超大国には絶対負けねーー!! だそうです! はい、次!』




「あっ……帝国だよ」

 俺たちは息を殺して動画を見守った。


『あーー、もうね、なんて最強っしょ? 今回の帝国は気合入ってます! なんと、魔神を転入させて選抜メンバーにしちゃいました! あとあと、妖艶な美女のダークエルフさん! 元王国民で最優の魔法剣士と名高いイケメンサトシ君……え、いいのこれ? あっ、な、なんと現魔王であり結社の幹部も!? さ、最後のメンバーは……ひえ!? きちが――、め、女神教の最高司祭じゃん!!』


 カケルがポツリと呟いた。


「俺以外に依代のスペアを用意していたんだろう……」


 歯ぎしりをしながら悔しそうなカケルの肩を叩いた。

 こんなに感情を見せるなんて……。




「にゃにゃ! ピピンたちだよ!!」


『次は前回準優勝の王国だよ! ……うーん、参考動画がなかったからよくわからんのよ。……ぼっちといじめられっ子と、魔力が使えない陰キャと留年を繰り返したババアと、猫? う、うん、きっと戦ったら……、弱そう! 次――』


 俺たちの紹介は雑に終わった……。


 何故か教室から熱気と魔力を感じた。


「はっ? ふざけんなよ!! 俺たちの選抜が弱いわけねえだろ!!」

「カケル君は陰キャだけど超イケメンじゃん! 見る目ないビッチ死ね」

「マシマたちが死んでも守った奴らだぞ!! こいつらが王国最強だ!!」

「ムカつく……、ていうか、超ムカつく……」


 教室以外からも熱気と魔力が感じられる――

 なんだこれは?


「セイヤ……、ひどい事をした俺たちが言うのもあれだけど……」

「俺たちセイヤの事、本気で応援する」

「俺たちにできる事があったら何でも言ってくれ!」

「ああ、絶対優勝してくれよ! お、おれ……メルティの事……」

「馬鹿野郎、泣くんじゃねえよ! 一番辛いのはセイヤだろ! 俺は土下座くらいしかできねえけど……、すまん……、頼む、あいつらの仇を……」



 俺とカケルは戸惑ってしまった。

 クラスメイトからこんなに話しかけられた事は今までない。


「ま、まて、俺は――」

「む、むう、まだリハビリが終わってな――」


 対抗戦は正直どうでもいいと思っていた。対抗戦のときに動く帝国の方が重要であった。

 そういうわけには行かない雰囲気である。


 ピピンが笑顔で机の上に立ち上がった。

 は、はしたないぞ!?


「王国は絶対負けないにゃ! 帝国ぶっ潰すにゃ!! ピピンは猫じゃないにゃ!! セイヤに任せたら大丈夫にゃ!!」


 ピピンの言葉に呼応して、雄叫びを上げるクラスメイトたち。

 コミュ力の塊であるピピンに畏怖を覚えながら、俺とカケルとリオは困ってしまった。



 だけど、悪い気持ちではなかった。

 誰かからの応援というものが、こんなにも心に響くとは思わなかった――



皆様の応援のおかげで月間ランキング表紙入りました!ありがとうございます!

表紙入ったので本日は頑張って2回目の更新をしました!


励みになりますのでブクマと★の応援をよろしくお願い致します!

ありがとうございます!

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