本物の学園長
「サトシとは長い付き合いだった。まさか我を裏切っているとは思わなんだ……」
あの事件から数日が経った。
王国調査部がサトシと黒エルフの後を追ったが、捕まえることはできなかった。
ニュースによって王国に衝撃が走った。
トップギルドである王国の剣の裏切り。
王国の剣だけではない、王国の剣のフォロワーギルドやランキング上位勢が軒並み王国を去っていった。
カケルとリオは一命を取り留めたが、教会病院で今も休んでいる。
俺は本物の学園長に呼ばれて、二人だけで話をしている。
うさぎ柄のコップに入った謎の液体を口に運ぶライザ学園長。
そういえば、今は小柄な女子学生みたいな姿だ。俺たちが認識している学園長だ。
「……ん? 我の姿か? あの時は魔力を使ったからな。通常はこの姿で抑えてる。……しかし厄介な事になったの。国力が弱りきっておる。……ギルドに比重をおいたツケが回った――」
軍事国家である帝国とは違い、王国はギルドに力を入れていた。
ギルドに力を与える見返りに、災害時には出兵を求めることができる。
王国の兵士は弱い事で有名であった。
「帝国は今回のテロと関わりがない、そう言ってるんですね」
「うむ、向こうは知らないの一点張りだ。王国の不祥事を帝国のせいにするな、とな――、さて、大人の事情はこちらに任せてもらって本題に入ろう」
俺が訝しむ顔をすると学園長がため息を吐いた。
「……確かにすべて我の責任だ。我がほとんど学園にいなかったから起きた事件だ……、すまない」
俺は学園長を信用できなかった。
黒いエルフは俺だけじゃなく、全ての学園関係者に認識阻害の魔法をかけていた。
おばちゃん先生のフリを何十年もして、みんなから信頼を集めていた。
それは長い長い時間をかけて、浸透させるものであった。
巧妙に隠された魔力を誰も見抜く事ができなかった。
「……もういい、俺は帝国に入り込んでアイツラを探し出す」
俺は懐から休学届を出した。
学園長はそれを一瞥して俺に言った。
「まあまて、帝国に行ってもあいつらを探しだせるとは思えん。あれは……我以上の化け物だ。今のお主が敵う相手ではない」
「そんな事わかってる! だが、俺は友達を救うために――」
学園長は俺の休学届を破り捨てて、書類を出した。
「……高等学校対抗戦。あいつらはこれに出る。今回の開催地は――王国だ。……アイツラが動くのはその時だ。それまでに我とお主たちは準備をしなければならない。ほれ、あとはお主の魔力印だけだ」
書類に書かれてあったのは、対抗戦の選抜届け出あった。
出場選手の項目が一箇所以外すべて埋められている。
見知った名前しかなかった。
「――こ、こんな事をしている場合じゃないだろ! 帝国を――」
「強くなければ結果を残せん。……我が出たいところだが、流石に無理があってな。これが今の魔導学園の最強メンバーだ」
カケル、リオ、それに……ピピンの名前があった。
何故かスミレ先生の名前も記載されてある。ど、どういう事だ?
「ああ、スミレはバツとして先生を首にした。……中卒としてこの学園に再入学することにしたんだ。お主の後輩になる」
「あ、ああ、は、反則じゃないのか?」
「ふん、こんな事は日常茶飯事だ。対抗戦は驚くべき猛者どもの集まり。臨時コーチも雇ったぞ。……まあ本命は対抗戦ではない。……王国を駆逐せんとする帝国の輩たちだ。我が封印した魔神も再び封印せねばならぬ」
扉が開いた。
振り向くと、そこには――
「……セイヤ、しみったれた顔をしてるな。俺が鍛え直してやろう」
あの場所から脱出したときに出会ったサイオンジさんが立っていた。