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絶望

 身体が魔眼によって蝕まれる。

 だが、そんな痛みは意識の外にある。

 俺の心を埋め尽くしているのは――憎しみと奴隷仲間を思う気持ちであった。


「――――学園長!!!! お前が、俺の仲間を――」


 学園長は不敵に笑う。

 その顔は忘れるはずがない。俺の仲間を殺した時と同じ顔であった。


「あらあら、すごいわね。魔眼の痛みに耐えるの? ふふふ、仇の顔を間違えちゃうなんてうっかりさんね」


 俺はアカネの賢者スキルを発動した。

 身体を蝕む魔眼を消し去る。


「――連続魔法【極大光炎】」


 無詠唱スキルによる高速の連続魔法を学園長に向けて叩き込む。

 だが、空間が歪んで魔法があらぬ方向へと誤爆した。


 レンの身体能力強化スキルを最大限に引き上げる――

 学園長の首めがけて【首刈り】を放つ。


 空間を削りとる俺の爪がサトシによって止められた。

 そのまま後ろに回り込んで、魔法を使って俺を羽交い締めした。


「ふん、なかなか面白いスキルを持っているな。……少しおとなしくしてそこで見てろ」


「なっ!?」


 俺が知っているサトシの実力は俺と同じレベルであったはずだ。

 決して学園長レベルではなかった。

 だが、俺はサトシの魔法による拘束を抜け出せない――

 レベルが桁違いだと?


「実力を隠していたのはお前だけじゃないぞ。――どうしたカケル?」


 カケルは困った顔をしていた。

 悲しみが伝わってくる。


「サ、サトシ……、お、俺はセイヤ君と友達になれそうなんだ。だ、だから乱暴はやめてくれ……。お、お願いだ! い、言うことは何でも聞く。だから――」


 サトシは興味なさげに言った。


「ああ、そうだな。さて、俺も最後の実験をしようか」


 さっきからサトシから血の匂いがする。

 右手が血で濡れていた。


「これか? 俺もスキル持ちでな。まあ、バラしても構わん。――俺は【スキル強奪】を持っている。俺が殺した相手のスキルを奪い取るってことだ」


「サ、サトシ、な、なぜ俺に魔力を向ける? あの場所でサトシだけが俺にとって救いだったんだ。俺はサトシを本当の父親のように――」


「ああ、俺も息子のように純真に育てた。全ては帝国のためにな――」



 サトシが魔力を込めると……数多の魔法陣が宙に浮かんだ。


 召喚術式に似た儀式用の魔法陣であった。

 サトシはそんな魔法を使えないはずだ。あいつは魔法と剣技が得意な最優の魔法剣士なはずだ。

 スキルを奪う? まさか、マツコ先生を――


「部下のものは俺のものだ。――【神降ろし召喚】」




 数多の魔法陣がカケルを取り囲む。

 俺がとっさに魔法障壁を張ったが、一瞬で破壊されてしまった。


「こ、こんなの……、嫌だ……、セイヤ君と東方料理を食べに……、すごく楽しみにしていて――、こんな結末は……、俺の自我は――」


 魔法陣に包まれてしまったカケルは苦悶の表情でサトシを見つめる。

 サトシはカケルに優しく声をかけた。


「……これで仕上げも終わりだ。これで本当の俺の部下になれるのだ」


 俺の身体が震えている。

 学園長と同じレベルの魔力量をたやすく操るサトシ。

 俺はどこで間違えたんだ? 朝礼のときの学園長は一体? 敵を間違えたのか?

 こいつらは何がしたいんだ?


 リオは俺を助けようとするマシマたちを止めていた。

 冷静な判断だ。レベルが違いすぎる。一瞬で殺されてしまう。

 逃げるタイミングを見計らっている。


 俺が全魔力を注いで拘束から逃れようとする前に、サトシは俺を解放した。


 リオが瞬時に俺の身体を引っ張る。


「逃げるよ、セイヤ君!!」


 俺は瞬時に空間を壊そうと試みるが――

 それよりも早く、学園長が想像空間を作り直した。


「ちょっとまってよ。今いいところなんだからさ――」


 逃走は不可能であった……。






 光に包まれて見えなくなったカケルの姿が、徐々に現れた。

 その表情に感情は見えない。

 黒髪だったカケルの髪が金色に変わり、黒目だったのが金眼ヘと変化していた。


 サトシがカケルの肩を叩く。


「神降ろしは成功だ。王国のこの場所で朽ち果てた将軍級魔神……、俺はお前の無念を晴らしてやろう」


 カケルが口を開いた。


「……なるほど、神降ろしか。……帝国の秘術が受け継がれていたか。……ふむ、依代に自我が残っているぞ?」


「しばらくすればなくなるだろう。帝国に案内する、皇帝も喜ぶだろう」


 俺は叫んだ。


「カケル!! 何を言ってるんだ! お前は俺と一緒に選抜メンバーになるんだろ! これからリオたちを一緒に打ち上げをして……、それで――」


 カケルの顔が歪んだのがわかった。


「……おい、何故かこいつが目障りだ。妙に頭が痛む、殺していいのか?」


 サトシが俺を見てから学園長を見た。


「いいのか? どうする?」


 学園長はしばらく考えてからサトシに言った。


「うーん、最後の仕上げになるかな? 魔神君の好きにしていいよ。これで実験体が成長したらそれでいいし、失敗したらそれまでってことね。まあ他にも実験体はたくさんいるからね!」


 サトシはカケルだったものに頷いた。


「承知」


 カケルが魔力を込めると、禍々しい力で修練所の空間がひび割れてしまった。

 想像空間の一種であるこの空間が壊され、通常の体育館のような形に戻る。


 俺の中で焦りが生まれた。

 ここでは人が簡単に死んでしまう。




 俺は意識を切り替えた。

 ここを乗り切らないと最悪を迎えることになる。

 カケル……、どうにかしてお前の意識を取り戻して――


 身体に力が湧いてきた。

 俺の後ろにはリオたちがいる。


 絶対に引けない戦いだ。

 意識を高めろ。魔力を循環させろ――





 カケルが構える前に俺は――


「――【装填】【砲撃】!!!」


 これ以上のない速さと威力の一撃。

 加減なんてできなかった――




 *****************








「セイヤーー!!!」


 なに、これ? 私、シーナ・シャルロットは状況を理解できなかった。

 リオの叫び声が聞こえる。私は一歩も動く事ができなかった。

 おばちゃん先生が知らない人になって、サトシが怖くなって……。

 カケル先輩は……魔神になってしまった。


 そのカケル先輩が――セイヤを――


 セイヤの胸に何かが生えていた。

 怖くて見たくないけど、それは剣であった。


 セイヤの攻撃を片手で抑えたカケル先輩が刺した剣。

 現実を理解できなかった。


「ごふっ……」


 セイヤの口から血をこぼしていた。

 し、死んじゃうよ……、セイヤが死んじゃうよ!? や、やっと会えたのに……、やっと素直になれたのに……、わ、私は――


 足が震えて動けない。

 魔神もサトシもあのエルフも、私達では勝てっこない。


 剣を引き抜いた魔神が首をかしげていた。


「――むう? なんだその身体は? 致死の一撃なのになぜ意識がある? しからば、もう一度――」


 セイヤの様子がおかしかった。

 瀕死のハズのセイヤが息を吹き返した。


「……レン? ま、待ってくれ!? レン、どこへ行くんだ!! 俺はまだお前を救っていない!! な、なんだよ、さよならって!! まて、待つんだ!! 俺を残していくな……」



 エルフの女が驚嘆の声をあげていた。

 その声を呼応するかのように魔神の動きが止まった。


「あらあら! これはすごいわ、奴隷の魂を盾にして死を免れちゃうなんて……、ということはあと四回死んでも大丈夫なのね! あ、続けていいわよ。結果を見てみたいからギリギリまで殺していいわ!」


「承知」





 ――だめ!!!


 身体が勝手に動いていた。

 私だけじゃなかった――


 マシマがセイヤの身体を突き飛ばした。



「好きな人を守れずに何が騎士だーー!!! 【身代わりの盾】」



 引き寄せられるように魔神の剣がマシマの身体を貫いた。

 その衝撃でマシマの胸に大きな……大きな穴がぽっかりと空いた……

 何故かマシマの身体は光輝いてセイヤの元へと向かっていった。




 私はメルティと眼が合った。

 メルティは私に向かって頷く。


 そう、ここが私達が本気を出す場所。

 セイヤが生きてさえいれば――


「リオ、セイヤと一緒に逃げて!! すぐに騎士団がくるわ! 私とメルティが――」


「そ、そんな事できないよ!! み、みんなでどうにか――、あぐっ――」


 リオはサトシの魔法によって肩を射抜かれた。

 致命傷ではないけど、かなりの重症だ。


「お前の炎の竜は魔神にも通用する魔法だ。お前も奴隷候補だ。ここで大人しく絶望をみてろ――」



 ――私はもう迷わない。セイヤを、リオを助けるために……。リオ、友達になってくれてありがとう。




 私は突き飛ばされたセイヤの元へと走った。


 魔神の前にメルティが立ちはだかる。


「え、へへ、やっぱ運ないよね? で、でも、これは私の選択だもん……、とっておきの隠蔽魔――」


 魔神の剣がメルティの首を跳ね飛ばした。

 と、思ったら、メルティは魔神の背後に現れてナイフでバックスタブを発動させる。


「あ、あれ? さ、刺さらないよ……、は、はは」


 魔神はメルティのナイフを抑えて――、今度こそメルティの腹を串刺しにした。

 そしてメルティをゴミのように放り投げた。


 メルティも光となってセイヤの元へと向かう――

 優しい力を感じる。きっとあれはセイヤの力になるんだ――





 セイヤは体を小さくして怯えていた。


「い、嫌だ……、も、もう大切な人が死ぬところを見たくない……、マシマ、メルティ……なんで俺の中に入ってきたんだ!? レンはどこに行ったんだ!? お、俺は――」


 私は……震えているセイヤを抱きしめる。

 大丈夫、王女だから切り札あるもん。


 私はセイヤの耳元で囁いた。


「……ケロベロス像の前に来てくれたのに……待ちぼうけにしてごめんなさい。私、自分の本当の気持ちをセイヤに伝えたかったの……。セイヤの力になりたいって……、やっと今言えたよ。セイヤの力になる――」


「ひ、姫? な、何を言っているんだ!?」


 私は立ち上がって、魔神に向かい合った。

 魔神は私を興味なさそうに見ていた。


 大丈夫、リオがいる。セイヤはきっと立ち上がる――




「【サクリファイス】!!!」




 王女だけが使える禁呪。

 生きている味方の傷を完全に癒やし、王国を破壊できる一撃を敵に放つ――

 この身と引き換えに――


 衝撃と閃光とともに私の身体がバラバラに砕け散った――――






 …………目の前が真っ暗になった。死んだはずなのに意識が少しだけある。

 変な気分。


 ゆらゆらと宙に浮いて――大切な人の元へと引き寄せられる。

 なんだろう? 忘れちゃいそうになる。

 あっ、わ、たし――


 セイ、ヤの事――大好き、なんだ……。


 



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