第三問 解答と解説
お見苦しいものをお見せしてしまいました。
……気を取り直して、答え合わせです。
A:1.感染した人の体内
はい。正解は1番でした。正解者に拍手。ぱちぱち。
では解説です。今回の肝はウイルスは生物ではない、という点です。これももうすっかり既知のこととは存じますが、では生物ではなかったら具体的にどう対応が変わるのか、ということを書きます。
まずは生物、分かりやすいように食中毒を引き起こすような病原性微生物を例に挙げようと思います。一応私が今、専門的に取り扱っている相手ですね。
いわゆる食中毒菌と言われるものが何処にいたら食中毒を引き起こすのか、と言ったらそれは食品の上や食器類ですね。
鶏肉なんかに多いカンピロバクターなどは熱に弱い。ので火が通っていない生の鶏肉などを食した際に感染することが多いです。
が、これは別に鶏肉の中に元からいるものではありません。鶏を屠殺し、内臓を処理する際に、どうしても糞便が接触してしまう。その糞便から肉の表面に付着して増えます。これらは肉を食い破って中に侵食していくことはなく、あくまで表面で増えます。これが包丁などで肉を切った際に、その切り口に移動したりするわけですが、今ちらと言ったようにそこでも増えるのです。
何故増えるのか。微生物は生物なので一人でに繁殖し、代謝することができます。具体的には微生物は栄養素と水と温度さえあれば簡単に増殖することができるのです。
なので食品の微生物検査では栄養素と水分とを合わせた培地というものを用意し、それを20〜40℃ほどで放置することで微生物を増やします。
逆に言えばこの三つの要素のうち、一つでも欠ければ微生物は増えることができません。冷蔵庫などで食品を保存することはとても理に適っているわけです。
さて、この三要素は別に食中毒菌に限った話ではなく、結核菌などの病原性微生物にも言えることです。検査の際に培地を使用すると書きましたが、正確には寒天などを使った固形培地で菌の有無を確認します。
微生物は一つでも存在すれば、三要素のある所で自分のクローンを増やして増殖します。検査ではこの特徴を利用します。
菌一つ一つはとても目で見える大きさではありませんが、増殖してある程度増えてくれれば、目視で確認できる大きさまでになります。ちょうど夜景なんかを思い出していただくと分かり良いかもしれません。暗闇に小さい家の灯りがぽつんとあるのと、街一つが光っているのとでは見つけ易さが段違いだと思います。宇宙から人の活動拠点を探す際に夜の灯りを利用しますが、これと似たようなものです。
因みに細菌のクローンが集まって見えるようになった塊をコロニーと言います。これは集落という意味です。そういう意味では今の例も的を射ている気がします。
さて、こいつは何を長々と書いているのか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、そもそもコロナ対策で殺菌、抗菌だと声高に叫んでいる方はこの辺りを混同してしまう可能性があったので、少し詳しく書きました。
もう予想はついていると思いますが、ウイルスはこのようには増えません。いくら栄養を与えても、水があろうと、室温が快適でも、ウイルスは増えません。
ウイルスが増えられるのは生きた細胞の中だけです。この辺りがウイルスの研究でも少しネックになる部分です。今回のコロナウイルスに関しても、その姿を観察するにしても培地では不可能で、生きた検体が必要になる。今回は確かラットが適性があったのかな。私がコロナコロナと慄いている間に、実験動物さんたちはその身を削って病気の研究に貢献しています。本人たちにしてはいい迷惑だと思いますが。
話が逸れましたね。ウイルスが増えられるのは生きた細胞の中だけ。となると、今回用意した選択肢の中では1番だけが適合します。感染した人の中では増殖し続けますが、一旦体外に吐き出されてしまったものはそれ以上増えません。なので、最も数が多いのは体内、ということになります。
この観点はコロナ対策でも役に立つと思います。皆さん日々何かと消毒されていると思います。しかし、一度消毒してしまえば、多少拭き残しがあろうと、それ以上増えることはありません。それどころか減る一方なのです。前問でも書きましたが、太陽光、紫外線に当たれば数分でいなくなります。
空気中に飛散しても、しっかり換気していれば直ぐ様居なくなる。
最近でも少し見渡すと、やれマスクを殺菌だ、空間を除菌だと煽っている広告がありますが、それらはウイルスには何の意味もありません。菌ではない、生物ではないのだから。
そういう文言に振り回されず、冷静に対処すれば、過度に恐れる必要もないものだと、私は思います。何事も適度に、がいいですね。
ps...
牡蠣を生で食べるとノロウイルスに罹るとされていますが、ノロウイルスは牡蠣の中では増えません。牡蠣には感染しないのです。牡蠣はあくまでウイルスの蓄積しているだけ。ではどうして感染しないのに牡蠣の中いるのか。それは…私の口からはとても言えません。