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第6話 トマスとエマ

ユウの過去が明らかになります。

 母さんはどうしてセーラの事を知っているんだ? しかも、昔から知っているような言い方だ。

 シュウも、セーラもとても驚いた顔で、母さんを見ている。


「ユウ、あなたには話さなければならないことがあるの。そこにいらっしゃる、ローゼリア王国の王女様とも深く関係のある話なの」

「ユウのお母様は、どうして私の事……さらに私の国の事をご存じなのでしょうか? この世界と私の世界には、接点がないはずなのですが」

「セーラ姫、驚かせてしまい申し訳ないわ。実は、ユウも私も、そして、私の夫も、もともとそちらの世界の人間なの」


 俺とシュウ、そして、セーラは唖然としている。


「おばさん、どういうことですか? 僕とユウは幼稚園の頃からの幼馴染なので、異世界から来たなんて実感が湧きません」

「私も、その通りだと思います。私の世界から異世界に移り住んだ、なんていう話は聞いたことがありません」

「俺もだよ、母さん。俺はこの世界での記憶しかないから、急にそんなことを言われても……」


 母さんは、かけている眼鏡を外し、昔の話を始めた。それは、まだ俺が生まれたばかりの話だそうだ。


***********************************


 私たち夫婦は、ユウが生まれた頃、ローゼリア王国の遺跡近くの山奥に暮らしていたの。

 私も夫も学者で、ローゼリア王国の歴史や言い伝えについて研究していたの。

 そんなある日、夫が2枚の金貨を発見してきたの。


「エマ! ついに見つけた! これがこの王国から古くから伝わる金貨だ。これさえあれば、この世界以外にも転移することができるぞ。長年、この世界の様々な遺跡を発掘してきた甲斐があった」

「トマスったら、こんな夜中に大声を出さないで。やっと、ユウが寝付いたところなのに」

「すまんすまん。金貨の発見につい興奮して、お前に報告したくて、急いで帰ってきてしまったんだよ。ユウは起きてしまったかい?」

「いえ、大丈夫よ。ぐっすり寝ているわ。そろそろ、この子も1歳になるわ。これで、この発掘場の近くの山奥から、王都に戻れそうね」

「そうだな。さっそく、王都に戻ったら、王様に報告だ。確か、王女さまがお生まれになったと聞いたが」

「そうよ、来月、お披露目のパレードがあるらしいわ。この国もこれからますます繁栄していきそうだわ」


 遺跡での発掘で、ある程度成果を得ることができたから、私たち夫婦は王都に戻った。

 すぐに、王様に遺跡の調査で得られたもの、その研究結果を報告に王宮に行ったの。


「トマス、今回の調査、大変ご苦労であった。噂では、大きな収穫があったそうではないか」

「はい、王様。(ねぎら)いのお言葉ありがとうございます。今回、私が報告したい内容は2つございます」

「ほう、申してみよ」

「はい。一つは、預言でございます。『この国に大きな災いが起こる時、異世界より勇者とその仲間が現われる。彼らが三種の神器を手にした時、災いを退けてくれる』といった内容でした。こちらがそれが書かれた古文書(こもんじょ)です」

「これは、確かにこの国に昔から伝わるとされる古文書であるな。似たようなものがこの王宮にいくつか存在している。ただ、大きな災いとは何であろうか?」

「はい、王様、この古文書には続きがあります。そこには、災いとは病のようなものと書かれております。ただ、()()()()()()()であって、実際の病ではないので、医師には治せないそうです」

「なるほど。それはとてもやっかいだ。では、その病のようなものを治すというのが、異世界からくる勇者たちの役目であるのか?」

「いえ、その部分ははっきりと分かってはいないのですが、国の半分がその病気のようなものに侵されると、世界を滅ぼしてしまうほどの、大いなる闇が召喚されるらしいのです」

「そういうことか。その預言されている時期はいつ頃なのか?」

「10 ~ 20年後です。その頃になると、まず王様と王妃が病魔に侵されるということです。ただ、これは私の現在の見解ですので、もう少し調査を続ける必要はございますが」

「……私は、トマスの学識の深さには感服し、信用して居る。お前がそういうのであれば、それは信用するに足る情報のはずだ。では、勇者がこの世界に現れるのを待つしかなさそうだな。何か今のうちから打つ手立てはないのか?」

「そこで、もう一つのご報告内容です」


トマスは、王に金貨を差し出した。


「これは? 何かの宝物か?」

「これは異世界に転移できる金貨でございます」

「異世界とは?」

「王家には古くから、王族のみに伝わる召喚術がございますよね? その術で勇者を召喚する時に必要だということです」

「確かに、その技を使える血筋がローゼリア王国の王族の証らしいからな。なるほど、勇者の召喚か……。ただ、私はめっきり役に立たん。元からの才能がないみたいなのでな」

「王様がその力を使う必要が無いからでございます。現在、この国は平和で栄えております。このような時代では、大いなる力は身を滅ぼすものですから、王様の治世では必要のないものだからだと考えられます」

「お前の言う通りかもしれないな。召喚術の力が強い初代の王の時代は、強大な敵と戦っていたと伝え聞いておる。そもそも、わが一族は勇者を補佐する召喚術師であったらしいからな」

「そのように伝え来ていることは知りませんでした。詳しくお聞かせ願えますか?」

「もちろんだ。話が少し長くなるから。場所を変えよう」


 王とトマスは、王務室から応接間へ移動した。

 王の使いの者が紅茶を入れ、それぞれのティーカップに注ぎ入れてくれる。


「さて、お前も遠慮なく飲んでくれ」

「ありがたくいただきます」

「わが王族に伝わるこの国の成り立ちについてなんだが、先ほども言ったように、我が祖先はただの召喚術師の家系だったのだ。この国ができる前に、まだこのあたり一帯の人々は様々なドラゴンに襲われていた。そのドラゴンの中でも、その頂点に君臨したヴリトラには皆、恐怖していた」

「神喰の巨大竜の事ですね。神話時代の話だと聞いております」

「その通りだ。そのヴリトラを倒したのが、我が王族と共にに戦った勇者と言われている。我が一族は、その勇者によりこの国を(たく)され、また国難の折には救いに来るので、それまで王国の統治をして欲しいと言われたのだ」

「そのような歴史があったのですね。その勇者はどこに行ったのでしょうか?」


 王は、紅茶の入ったティーカップを眺めながら言った。


「異世界に行ったと聞いておる。この王族に伝わる歴史とお前の調査結果を合わせると、つじつまが合いそうだ」

「はい、つまり、再び国難に襲われそうな、今だからこそ、また勇者を金貨を用いて召喚するということですね」

「私も、そのように考えた。しかし、召喚術を行うのは私の娘のようだな」

「どういうことですか?」

「娘、王女セーラは、生まれつきの召喚術の潜在力が高いのだよ。天才だといっていい」

「つまり、セーラ様が勇者を召喚なさるということですね」

「おそらくその通りだろう。ただ、金貨の使い道が全くわからない」

「はい、私もまだこの金貨が大事な役割を持っているということはわかるのですが、どう使うかまでは突き止めておりません」


 王とトマスは紅茶をお互い飲み干した。


「では、私とお前で金貨を一枚ずつ保有し、それぞれ調べてみることとしよう」

「はい、私の方は妻と共にこの金貨の謎を追求していきますので、王様の方もよろしくお願いいたします」

「こちらこそ、今日は良い報告をしてくれてありがとう。ところで、お前にも子供ができたのだろう?」

「はい、王女様とほぼ同じ時期に生まれたはずです」

「なるほど、お互い、かわいい盛りだな。子供たちの未来のために、これからもよろしく頼むぞ、トマス」

「はい、王様。この国のため、子供たちのために頑張ります。では、今日はここで失礼させていただきます」


 そう言ってトマスは、金貨を持ち、エマとユウの待つ自宅に戻った。


*****************************************


 母さんは、そこまで話すと遠い目をした。

 

「私が育った、ローゼリア王国、懐かしいわ……。三人とも喉乾いたでしょう? コーヒーを淹れてくるわね」

 

 そう言って母さんはコーヒーを淹れに行った。さっきもコーヒーを飲んだんだけどな。


「セーラって、そんなに強い召喚術師だったのか? 通りで色々と驚かされるわけだ」

「自覚がなかったわけではないわ。でも、お父様から、王国の昔話は聞いたことがないわね」

「僕は、王様はセーラにプレッシャーをかけたくないから、色々と隠していた部分があるんじゃないかなと思う」

「確かに、俺もシュウの言う通りだと思う。王様は、時期が来たら話をしようと思っていた。でも、病みたいなものに思ったよりも早くかかってしまった。そのせいで、伝え損ねてしまったんじゃないか?」

「そうね、お父様は誰にでも優しい、本当に立派な王様ですもの。何とかして災いを退けないと」

「ただ、ユウがこの世界の人間じゃないのは驚いたな。あちらにいた時の記憶は全くないのかい?」

「そうだな。俺自身驚いているくらいだから、記憶なんてないな。ただ、そちらの世界にいた俺たちが、どうやってこの世界に来たのかが、不思議だ」

「私もその点は疑問だわ。それこそ、レイさんをこちら側に送ってきた術師レベルの召喚術が必要だわ。でも、ユウのお父さんは学者みたいだしーー」


 そんなことを話し合っていると、母さんがコーヒーを淹れてきてくれた。

 セーラは砂糖を沢山入れている。甘くしたコーヒーは気にいっているみたいだ。


「そう、私の夫、トマスは立派な学者だった。それも王国で一番優秀なね。とても聡明で国中の人から慕われ、誰にでもとても優しかった。もちろん、セーラのお父様にもとても信頼され、彼の研究に全面的に協力してくれたわ」

「そういえば、お父様に昔、聞いたことがあるわ。私が幼い頃、とても優秀な学者がいて、この国の歴史の解明、王族に伝わる言い伝えの解明に尽力してくれていた人がいると。でも、その人は…」

「セーラ姫、王様から多少は話をお聞きになっているみたいですね」

「はい…。私の口からユウに伝えるのは、とても心苦しいですが」

「母さん、どういうことだ? 父さんは、俺が幼い頃に亡くなったと言っていたじゃないか? それには、何か複雑な事情があるのか?」


 確かに、母さんは小さい頃から、あまり父さんの話をしようとしなかった。俺は、父さんが亡くなったことで、傷ついているだろうと思っていたから、深く追求することはなかった。でも、母さんが父さんの話をしなかったのは、別の理由があるということだろうか?


「おばさん、もしかして、今回の大きな災いとユウのお父さんの死には、何か関係があるんですか?」

「シュウくんの言うとおりね」

「お母様、それはもしかして、私が幼い頃にあったあの事件(・・・・)と関係あるのではないですか?」

「セーラ、母さん、あの事件って何のことなんだ」

「ユウ、私の幼い頃に、王国中を震撼された大きな事件があったの。その事件のせいで、多くの人が犠牲になったと言われているわ。ということは、ユウのお父様は…」

「セーラ姫の想像している通りです。ユウ、あなたの父、トマスは生きている。しかも、セーラ姫のおっしゃっている大事件、さらに、大きな災いを起こそうとしている犯人なの」



次回は、ユウの父親と、ある事件についてです。

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