表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/8

第5話 ファーストキス

第1章の後半のスタートです。

 光に包まれたユウとセーラは、ユウの自宅の部屋へと瞬間移動した。

 

 あたたかい……。先ほどまでは全身に引きちぎれそうな痛みが襲っていたが、口から何か温かく、痛みが和らいでくれるものが流れ込んできて、それが全身を巡って俺の傷を癒してくれているようだ。とても心地よく、俺は眠りについてしまった。


*****************************************

 

 目を開けると、目の前にセーラが座っている。見覚えのある風景だな。


「ユウ、眠ってしまったようね。こちらの世界にお帰りなさい」

「そうか、俺は向こうの世界で眠ってしまったから、こちらの世界に転移してきたのだな」

「その通りだわ。あなたの治療中に、私も急にこちらの世界に転移したからびっくりしているの」

「あちらの世界で、俺たちはどうなっているんだ?」

「今、あなたの部屋に移動して治療中だったの。だから、私たちは二人ともあなたの部屋で寝ていると思うわ」

「そうか、俺を部屋まで連れて行ってくれてありがとう」

「いえ、こちらこそ身を(てい)して、レイさんの攻撃から私を守ってくれてありがとう」

 

 そう言って、俺たちはしばらく黙っていた。

 俺たちの目の前には、二つのミルクセーキがある。さっき、セーラが言っていたように、前回目を覚ましたところで時間が止まっていたようだ。

 とりあえず、俺はミルクセーキを一口飲んだ。意外といける。そして、グラスをテーブルに置き、セーラの美しい青色の瞳を見つめながら言った。

 

「セーラ……。あれは、やっぱりレイだったのだろうか? ずいぶん雰囲気が違っていたし、魔法まで使えるようになっていた」

「ええ、あれはレイさんと考えて間違いなさそうね。魔法が使えるようになっていたのは、あの(よど)んだ空間を作り出した召喚術師の仕業ね。レイさんを洗脳して、私たちに攻撃を仕掛けてきたみたいだわ」

「やっぱり、レイで間違えないのか。あちらの世界に転生したという確証が得られたのは収穫だったな。ただ、連れ戻すには洗脳を解かなければならないな。まあ、何より敵の目的がはっきりしたな」

「ええ、大きな災いの意味が何となく分かりかけて来たわ。あの召喚術師は、私の世界の人々の生命エネルギーを使って、何かを召喚するみたいね。それについては、この世界で少し調べる必要があるけど、とにかく方針は決まったわ」

「ああ、まずは三種の神器集めをする。それを集めた後で、召喚術師からレイを取り戻し、召喚を止める。こんな流れで間違いないか?」

「それだけではなく、まずは、あなたに戦い方の基礎を身に付けてもらわなければならないわ」

「確かに、今のままでは、レイみたいに魔法を使うような相手が出てきたら、ひとたまりもないな」


 セーラもミルクセーキを飲んだ。美味しかったのだろうか、目を少し見開いた。


「このミルクセーキは絶品だわ。さすがに新鮮な卵を使っているだけあるわね」

「こちらの世界の料理も今度食べてみたいな。まあ、せっかくの異世界の冒険だ。セーラのように、俺もこちらの世界について学ばせてもらうよ」

「あなたの世界とはずいぶん違うから、色々と驚くと思うわよ。ところで、あなたに学んでもらわないとならないのは、この世界の戦い方についてね。あなたの世界では科学技術によって、色々な武器や兵器を生み出し、それを使用すると思うのだけれど、この世界では違うわ。物理的な武器みたいなものはないの」

「そうなのか。確かに、さっきのレイは武器らしきものは何も持っていなかったけど、雷?みたいなものを放出していたな」

「その通りよ。あれは魔法だから勇者のあなたには使えない。でも、あなたには勇者しか使えない、とても強力な技があるの。それはーー」


 次の瞬間、俺は意識を失った。


******************************************


 ……っ、身体が重い。なんだ?

 気づいて目を覚ますと、俺の目の前にセーラの顔がある。しかも、彼女の唇は俺の唇と重なり、俺の上に身体を重ねるようにしてベッドの上にいる。どういう事だ?

 すると、セーラも同時に目を覚まし、この状況に気づいた。すぐさま、顔を真っ赤にして唇を外し、俺の身体の上からベッドの下に降りた。


「お……驚かせてしまってごめんなさい。あなたを治療するために、唇を介して私の癒しの術を使うしかなかったの。魔法使いではないから、あなたと直接つながることでしか、回復させることができなかったの……。その……ごめんなさいね」

「い……いや。こちらこそ、治療をしてくれてありがと……う……」


 お互い目を合わせることができずに、おどおどしている。


「あの……誰かと……キスをした……ことはあるのかしら?」

「え、いや。……誰とも……ないかな……。セーラこそ……どう……なんだ?……」

「わ……私も…は……じめてなの。ごめんなさいね、本来はレイさんとあなたが…」

「あいつとは、そんな関係じゃないから。気にしなくてもいいんだけど……。こちらこそ、一国の王女さまの大事なファーストキスを奪ってしまったみたいで……申し訳ない」

「いえ、私はーー」


 ~~~~~♪

 チャイムの音がした。

 そうか、シュウが泊まりに来るという約束をしているのだった。


「セーラ、今日はシュウが俺の家に泊まりに来ることになっているんだ」

「そうだったのね。彼にもレイさんの関連の話を聞いて欲しいから、ちょうど良かったわ」

「今連れてくるから、少し待っててくれ」

「わかったわ、よろしくね」


 俺は下の階に降り、モニターでシュウが写っていることを確認して、玄関の扉を開けた。


「ユウ、何度か連絡したんだけど返事がなかったから、直接押しかけてしまったけれど大丈夫だったかな?」

「ちょっと色々あってな。後でゆっくり話すよ。ちょうどセーラもいるんだ、上がってくれ」

「セーラも来ているんだ。それなら話はしやすい。じゃあ、今日は泊まらせてもらうからよろしくね」


 外はすっかり暗くなっている。数時間くらいは寝てしまっていたのだろう。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なるほど。では、僕たちの幼馴染のレイが、セーラの世界の召喚術師によって無理やり召喚された。その術によって、ユウとセーラ以外はレイの存在を忘れてしまった、ということだね」

「そうね。だいたいその通りだと考えてくれて構わないわ」

「さらに、敵の目的はセーラの世界の破壊。大きな災いと呼ばれるものの召喚。そして、セーラの命といったところだね」

「シュウの言うとおりだ。俺も大体そのように理解している」


 俺たちは、出前で頼んだデリバリーのピザを食べながら、今までの出来事を話し合っている。

 今回もセーラは、いちいち、ピザについて分析し、感動している。

 先程の街を案内した時もそうだったが、好奇心が旺盛のようだ


「セーラ、僕をそちらの世界に召喚するということはできないのかい?」


 シュウは突然言い出した。


「……気持ちはとてもうれしいわ。でも……レイさんの件もあるし、これ以上この世界の人を巻き込むわけには……」

「セーラ、僕はレイの事を全く覚えていないんだ。僕はユウの事を幼馴染として、とても大切に思っている。きっと、レイに対してもそうだ。そんな大事な記憶を奪われて、何もしないというのはとてもつらい。」

「シュウ、お前……」

「それだけじゃない、セーラ、君はあちらの世界には仲間がいないのでしょ? 確かに僕は向こうの世界の事は何も知らないし、役に立てないかもしれない。でも、僕の親友であるユウが、君の仲間になっている。その君が仲間を求めているのなら、僕が仲間になるのは当たり前だと思っている」


 セーラは、肩を震わせ、その青い瞳いっぱいに涙を浮かべている。


「……シュウ。ありがとう……頼らさせてもらうわ」


 そういうと、ピザを食べ終わったばかりの取り皿の上に、ぽろぽろと涙が落ちる。


「シュウ、お前がいてくれると、俺もとても心強い。知力も体力も圧倒的に俺よりも優れているからな」

「親友だから当たり前だよ。そんなに褒めなくても、僕もユウもそんなに大差ないよ。ただ、問題は僕がどうやってセーラの世界に転生するかなんだよ。セーラの世界と僕の間には縁となるものがない」


 セーラは涙をぬぐいながら、しばらく考えている。


「……シュウの言うとおりなのよ。私の術式では二つの世界を結ぶものがないと召喚ができないわ。何か良い方法はないかしら?」

「セーラ、敵はあちらの世界にこちらの世界のものを召喚したり、その逆も自由にやっているみたいだけど、似たような技がないのかな」


 セーラは、しばらく考え込んでいる。その間に、三人ともピザを全て食べ終えた。

 食後のコーヒーを作っていると、急にセーラが立ち上がった。


「あっ!」

「セーラ、僕が召喚できるいい方法が見つかったかい?」

「推測でしかないけれど、ユウが縁となって召喚ができるかもしれないわ!」

「ん、俺が縁? どういうことだ?」


 俺は二人に作りたてのコーヒーを持って行った。

 

「シュウはあなたの幼馴染で、昔からあなたと親しかったのわけよね? だから当然、二人は深い絆で結ばれていると思うの」

「確かに僕たちは、深い絆で結ばれているといえる」

「つまり、ユウがあちらに召喚されている状態では、シュウはユウを介してあちらの世界に縁ができるというわけなの」


 そう言うと、セーラはコーヒーを一口すすった。苦かったのか、びっくりしている。 


「なるほど、確かに理屈は通るな。つまり、俺をあちらに召喚した状態で、シュウを召喚すれば良いという事か」

「その通りよ。ただユウがいない時にシュウが召喚されることがないし。ユウがこちらに戻る時はシュウも同時に戻ることになるわね」

「それは、僕とユウが、セーラの世界での行動を共にできるという点では、むしろ便利ですらあるね」


 セーラはもう一度コーヒーを口に含むが、やっぱり苦手そうにしている。俺は、砂糖とミルクを進めた。


「甘くなった! 本当にこの世界のものは不思議ね。ところで、今の話は推測でしかないから、今夜、実験的にシュウの召喚を実行してみるしかないわね」

「俺は、構わないが、シュウは?」

「僕も、もちろん構わないよ」

「じゃあ、そうと分かれば打ち合わせをしましょうーー」


 玄関の方で鍵が開く音がした。母さんが帰ってきた。しまった、セーラの事をそどう説明しよう。

 

「ユウ、ただいま。あら、シュウ君もいるのね。あと…あなたはもしかして、セーラ姫?」


 さすがセーラの術だ。自然に俺の母さんの記憶にも存在しているみたいだ。しかし、姫? 母さんに、そこまで情報を与えているのであろうか。


「おばさん、お久しぶりです。僕は今夜泊まらせてもらうことにしましたが、よろしいでしょうか?」

「シュウ君、狭い家だけど遠慮なく泊まっていいわよ」


 セーラは母さんを見て呆然としている。何かあるのか?


「はい、おばさま。私はセーラと申します。なぜ私の名前と王女ということをーー」


 言葉の途中で、母さんは真剣なまなざしをセーラに向けて言った。


「セーラ姫。あちらの世界から転生してきたのですね。とても美しくなられましたね。」


第5話 -完-






次回は、ユウの過去が明らかになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ