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第4話 忘れられたレイ

初の敵の登場です。

「レイって、誰のこと?」


 シュウは、そう言って俺の方をじっと見つめている。


「おい、何を言っているんだ? 幼稚園からずっと一緒の幼馴染のレイのことだよ。生徒会長もやっているじゃないか?」


 俺は、シュウが何をいっているのか理解ができなかった。さっきまで一緒に話していたクラスメイトのことを、忘れてしまうなんてあり得ない。さらに続けた。


「今朝も一緒に登校したし、席だって俺の隣じゃん。いつも3人で一緒だったじゃないか!」


 シュウは、俺の剣幕に少し呆気にとられている。そして、俺をなだめるように言った。


「今朝は、僕とユウの二人きりで登校したはずだけど。ユウの隣の席は、今日セーラが来るまでは、両隣空席だったはずだよ。どうしたんだい? そんなに慌てて? レイという人がどうしたんだい?」


 シュウの中から、レイの記憶がなくなっている? そういうことなのか? 何かがおかしい。とりあえず、これ以上シュウを困らせても申し訳ない。


「朝からセーラの件とかで、いろいろ混乱していたのかもしれないな。少し頭を整理してくる。部活中に押しかけて悪かったな。また後で連絡する」


 シュウは、まだ少し困っている様子である。


「そ…それならいいのだけど。とりあえあず、セーラの件も含めて、ユウの周りで色々なことが起こりつつあるみたいだね。明日から土日で学校が休みだから、ユウの家でいろいろ話し合おう。泊まりに行けるように準備をして、夜にユウの家に行っても大丈夫かな?」


 俺は、シュウがそう言ってくれたことで、冷静さを取り戻すことができた。


「ありがとう。シュウ。そうしてくれると助かるよ。夜までに色々考えておくよ」

「わかった。じゃあ稽古に戻るから、またね」

「こちらこそ、邪魔して悪かった。またな」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 明らかに普通ではないことばかりが起こっている。

 もう一度生徒会室に戻った。パンフレットはレイが完成させたのだろう、きれいに積まれている。

 ただ、シュウの言う通り生徒会長の名前が別の女子になっている。

 どういうことだ? セーラが来たという事が影響しているのか?

 とりあえず、セーラに連絡して話をしてみよう。


「セーラ、こちらの用事は片付いた。今から迎えに行くけど、まだ図書館? 俺は、生徒会室にいるんだが、そちらまで行こうか?」


 メッセージを送った。そして、既読が付いた次の瞬間、俺の目の前にセーラが現れた。


「うわっ! びっくりした、セーラはどこにでも瞬間移動出来るのか?」

「いえ、私の魂は、ユウを媒介してこの世界に来ているから、あなたの魂にリンクしているの。だから、あなたのいる場所にはすぐに転移できるの」

「なるほど、それは便利だな。ところで…」

「レイさんのことね」

「えっ! セーラはレイの事を覚えているのか?」

「もちろんよ。そして、レイさんのことであなたの感情がひどく乱れていることもわかるの。さっきも言ったけど、私はあなたの魂にリンクすることでこの世界に来ているから、あなたの感情や心の痛みなども全てわかるようになっているの」

「そう…なんだ。レイが急に黒い光に包まれ、消えてしまったんだ。いや、正確に言うともっとおぞましい何かだったんだが…」


 急にセーラが俺のことを抱きしめた。


「ちょっ…セーラ、何を…」

「ユウ、悪いけれど少しあなたの過去を見せてもらえるかしら。このまま、もう少し待ってもらえる」

「あ…ああ」


 そして、30秒ぐらいが経ち、セーラは俺を離した。


「ごめんなさい」


 セーラの頬に光の筋が見える。


「私のせいだわ。私があなたを召喚したから。レイさんやあなたを傷つけることになってしまった。私がもう少し…またあの時の繰り返しになってしまう…」


 セーラは、そういうと俺の胸に顔をうずめた。肩を震わせている。


「どうしたんだ、セーラ?」


 彼女がこんなに取り乱すなんて、何かよっぽどの事情があるのだろう。


「いえ、少し昔のことを思い出してしまっただけ、取り乱してしまってごめんなさいね」


 俺の胸から顔を離し、涙をぬぐいながら話し始めた。


「まず、レイさんはおそらく、私の世界に召喚されたわ。しかも私よりもかなり強い術式で」

「やはり、セーラの世界と関係があったのか。違う術式ということは、俺とは違って寝ている時だけの召喚ではないということだな」

「その通りよ。黒い光に包まれたというのは、闇の召喚術式なの。縁となるのが人の感情の変化。その中で、最も強い召喚ができるのは、召喚する人物が絶望している時なの」

「つまり、レイは何かに絶望し、その隙をつかれて無理やり召喚されたということだな? いったい誰がそんなことを…」

「レイさんの召喚者が、今回の私たちの敵なの。彼らは、どのような方法を行っているかはわからないけれど仲間を増やし、大きな災いを起こしているの」

「もしかして、レイが巻き込まれたのは俺のせいなのか?」

「…」


 セーラは(うつ)むいたまま答えない。


「そうなんだな。俺のせいで…くそ…」

「ユウは悪くないわ、そもそも、あなたを巻き込んだのは私なんだし。本当にごめんなさいね…」

「セーラ、そのことはもういいんだ、気にするな。そんなことより、レイがあちらの世界にいるということは、探し出して連れ戻すことだってできるんだな?」

「ユウは、優しいのね。そう言ってもらえると少しは気が楽になるわ。確かに、見つけ出すことができれば何とかできるかも。いや、私が何とかしてみせるわ」

「わかった、それが分かれば希望はあるということだな。じゃあ、しばらくはそちらの世界に行って三種の神器?を集めれば良いわけだな」

「その通りよ。大きな災いを退けること。レイさんを見つけ出してこちらの世界に戻してあげること。この2つを必ずやり遂げなくてはならないわ」

「ん…待てよ。シュウたちや、この世界からレイの存在がなかったようになっているのはなんでだ? もし連れ戻したとしても、存在を認識されなければ…」

「その点は問題ないわ。人々の記憶やちょっとした存在の操作であれば、私はできるから。現に、この世界に私が違和感なく存在できているのは、その辺の調整を行ったからよ」

「なるほど。わかったよ、じゃあ、とにかくこれからお互いの目的を果たすために頑張ろうな!」


 俺は、そう言いながらセーラに手を差し出した。


「こちらこそ、よろしくね、ユウ」


 セーラが俺の手を握った。その瞬間、レイの手の感触が頭によぎった。

 レイ、必ずお前を見つけて、この世界に連れ戻してやるから待っていてくれ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「人がすごく多い。あの人達はなぜいろいろな方向から歩いてきているのにぶつからないの? すごく訓練されているわね」


 セーラが、この世界の繁華街を見てみたいというので、学校から電車で20分位の新浜まで連れてきた。

 有名なスクランブル交差点を目の前にして、目を丸くしていた。

 電車の中でも終始落ち着かない様子で、外の様子、電車内のモニター、高層ビル群、あらゆるものに、いちいち感動をしていた。


「セーラの言うとおりだ。それはこの世界の住人の俺でも不思議に思っていることだな」

「あと、街中に大きな音が鳴り響いているし、色々なところに、さっき教えてくれたモニター?みたいなものがあるのね。こんなにいろいろなものを動かすには、すごく大きな力が必要だと思うのだけれど、この世界の住人は皆、魔法使いなの?」

「セーラの使っている召喚術の方がよっぽどすごいと思うのだけれど、この世界には科学というものがあって、そのおかげだね」

「科学?」

「そう、自然界の性質を理解し、理論を作る。その理論を応用して、自然界を自分たちがコントロールできるようにしている、といった感じかな」

「それは、魔法や召喚術よりもすごいと思うわ。私たちの世界では、ごく一部の選ばれた人間以外は、そのようなことはできないもの。あなたが覚醒している間は、こちらの世界の事を色々と学ばせてもらうわね。私の世界でも取り入れるべき点がたくさんありそうだし」

「セーラは、使命感が強いな。あちらの世界が大変だから、救おうとして必死なのはわかるんだけど、その先のことまで考えて勉強しておこうって思うのはすごいよ。あちらの世界に、協力者はいないの?」


 セーラは急に目の前の歩道橋の階段を駆け上りだした。そして、街を一望できる歩道橋の真ん中辺りで、突然立ち止まった。俺は、それを追いかけるように、後を付いていき、セーラにぶつかりそうになりながら立ち止まった。


「もうあなた以外の協力者はいないの。私は王家に代々伝わる召喚術を身に着けた最後の人間なの。王家の軍隊、王国民の有志が作った護衛隊、そして、王様と妃である、父と母。皆、不治の病にかかってしまった。もう寝たきりで、意識が無く、全く動けないの」


 そういうと、セーラは歩道橋の外に顔を出した。下を走る多くの自動車に涙が落ちる。

 そうか、セーラは王女だったのか。自分の世界を救うためにずっと戦ってきたんだな。彼女は、味方が一人もいなくても、どんなにつらいことがあっても、諦めずに頑張ってきたのだ。

 だから人1倍優しいし、責任感も強い。ただ、その重圧にいつもつぶされそうになりながら、必死で耐えている。

 そう考えると、俺は自然と涙を流すセーラを抱き寄せていた。


「もう泣かなくて良い。頼りないかもしれないが、俺にセーラの手伝いをさせてくれ。俺なんかが、一国の王女であるセーラの気持ちがわかるなんて、軽々しく言えないけど、苦しんでいるのは想像できる。俺で良かったら、最後まで協力させてくれ」

「ユウ、ダメよ……私は、今回もあなたの大事にしていたレイさんを巻き込んでしまった。あなたと出会って間もないのに、こんなにあなたを苦しめてしまっている……それに何よりレイさんは……」


 次の瞬間、周りの空間が急に暗く(よど)んだ。


「見てみろ、レイ。私の言う通りだろう。セーラはお前の一番大事なものを盗むつもりだぞ」


 突然声がした。すると目の前に、服装と顔つきが全く変わってしまっているレイが現われた。


「ご主人さま。あなたのおっしゃる通りでございますね。このセーラという女は、私のものを奪う卑劣な輩だということがわかりました」

「レイ、何を言ってるんだ。俺のことわかるか? ユウだ、幼馴染のユウだぞ! どうしたんだ、その恰好、そして、顔つきがいつもと……」


 言葉の途中で、レイと思われる女は、セーラに向かって大きな光の塊を投げつけてきた。


「死ね! セーラ! 闇魔法 (いかずち)!」


 とっさにセーラを庇い、俺はその攻撃を受けた。


「うわぁぁぁあl」


 俺は、身体にとてつもない激痛が走り、その場に倒れこんでしまった。


「どうして…どうして。その女を庇うの?」

「レイさん、目を覚まして! 闇の召喚術者に洗脳されちゃダメ! ユウはあなたの事を大切に想っているわ!」


 セーラは倒れた俺を抱きかかえながら、そう叫んだ。

 

「うそようそようそよ! さっきユウはあなたの事を抱きしめてたじゃない! 私は一回もそんなことされてない……いやぁぁぁぁぁ!!」


 レイはそういうと、その場で気を失った。


「この女は、まだダメだな。もう少し調教しなおさないとならないな」


 また、どこからともなく声がした。


「闇転移の逆召喚術ね。レイさんを、あの世界をどうするつもり?」

「これはこれはセーラ様。ご機嫌麗しゅう。あの世界は私の望み通りの世界に作り替えるつもりです。あなた様といえども、私の邪魔をすると容赦なく殺しますよ。レイがもう少し私の思い通りに動いてくれるようになれば、あなたを消してくれるでしょう。あなたの事を憎んでいますからね」

「どうしてそんなひどいことを……あなたの望みは何? 国民たちを苦しめる目的は何?」

「ああ、皆さんには私の召喚を手伝ってもらうために、少しずつ力を奪わせてもらっているだけですよ。召喚が終わればお返しします。命の保証はできませんがね」

「なんて卑劣なやつなの! 必ずあなたの野望を止めて見せるから! 絶対に許さないわ」

「まあ、とても怖い言葉ですね。今回は、新しい私の下僕(モノ)の試運転なのでそろそろ引き下がらせてもらいますね。そちらの世界でも、こちらの世界でも、いつでもあなた方を襲うことはできるので、楽しみにしておいてくださいね」


 すると、空間の暗い(よど)みは消え、元の歩道橋の様子に戻った。


「とりあえず、ユウを治さないと」


 セーラはユウの額に自分の額を付けた。そして二人が光に包まれその場から消えた。


第4話 ー完ー


 







 




次回は第1章の折り返しです。

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