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第2話 隣の美少女のせいで授業に集中できない!?

本編2話目です。

 「これからもよろしくね。勇者様」


 彼女はそう言うと、微笑んで見せ、そのまま前を向いた。

 彼女のその言葉と表情を見て、身体中が熱くなった。心拍数が上がっているのがはっきりとわかるほど、鼓動が高鳴っている。


 授業中に、何度かセーラの方を覗き見するが、授業を真剣に聞いているようだった。

 いろいろなことが気になってしょうがない。でも、自分でも何が夢で、何が現実かよくわからなくなってきた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 休み時間になった。物珍しさからかクラス中の皆がセーラの所へ集まってきた。

 さすが転校生。それも海外からの美人という設定付きである。皆、ひっきりなしに彼女に質問をしていく。


「セーラさんはどこに住んでいるの?」

「日本語上手いけど、イギリスにずっと住んでいたのに、どう勉強したの?」

「イギリスから来たってことは、英語がペラペラなの?」


 こんな質問の数々に、セーラの方もうまく答えている。


「この学校の近くね。歩いて、十から十五分といったところかしら」

「父親が日本人だから、父から日本語を教わったわ」

「もちろん、イギリスでは英語で話さなければならないので」


 すごい。昨夜の夢では、俺はあちらの世界での会話がかみ合わなかったのに、セーラは全く(すき)の無い受け答えをしている。

 いや、待てよ。意味が分からない。夢の中のセーラが現実に転校生として現れる? そんなこと普通はあり得ない。正夢というやつか? いやいや、正夢だとしても、俺の夢の中でも、この現実の世界にでもセーラは俺のことを勇者と言った。正夢とはいえ、こんな偶然があるのだろうか。

 今すぐセーラに色々と聞きたいところだけど、この状態では無理そうだな。


「ユウ、さっきの話って夢の話よね? あなた、予知夢でも見たっていうの? 私も転校生の容姿と名前を聞いたとき驚いたわ。ユウの言っていたことと一緒なんだもん」


 レイが悩んでいる俺の思考を妨げるように話しかけてきた。ホームルーム前の俺とシュウの話を聞いていたようだった。


「僕も、レイと同じでびっくりしたよ。さっき、ユウが話していた夢の女の子もセーラって名前だったよね?」


 シュウもセーラが現実に現れたことが、気になっているようだ。


「そうなんだ、俺も今、何が何だかわからずに混乱している。彼女も、どうも夢の内容を知っているみたいだし。今は聞けそうに無いから、折をみて確認してみるよ」

「あら、ユウはいつの間にセーラさんと会話したの? 夢の内容を彼女が知ってるなんていつ分かったのよ?」


 さっきのセーラの声は、俺にしか聞こえていなかったみたいだ。


「ああ、さっき席に着いた時に少しな」

「私には会釈しかしていないように見えたけど、変ね。まあ、いいわ。そういえば、言い忘れていたけど昼休みも生徒会の用事があるの。私は生徒会室でお昼を食べるから、シュウは、ユウがセーラさんに変なことしないように見張ってて。ユウが授業中、彼女をチラチラ見てて気持ち悪かったから、彼女を守ってあげてね」


 レイはそう言いながら、俺の方を睨んでいる。


「わかったよ。ユウと二人でご飯済ませておくよ」

「いやいや、人を変質者扱いするのはどうかと思うぞ。そもそも夢のことが気になっているだけでーー」


 ユウは、さっきのセーラの笑顔を思い出し、再び胸が高鳴り、言葉に詰まる。


「ほら、やっぱり説明できないんじゃない。心にやましいことがあるのね。やはり、シュウ、ここはユウの暴走を止めてね。最悪、得意の正拳突きをお見舞いしてあげて」

「いやいや、ユウはそんなことしないから大丈夫だよ。見守っているから安心して生徒会に行っておいで」


 全く、俺を変質者扱いして。ひどい誤解だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 昼休みになった。

 結局、ずっと昨夜の夢の事、セーラの事が気になり、授業の内容なんて全く頭に入ってこなかった。

 まあ、日ごろからそんなに真剣に授業を受けていたわけではないが。


「--え、ユウってば、聞いているの? お昼を食べににいこうよ」


 さっきからシュウが話しかけていたらしい。


「すまん。ボーっとしていた。そうだな。カフェテリアでも行くか」


 レイは生徒会に行ったらしい。シュウと一緒に教室を出ようとした時に、突然声をかけられた。


「私もご一緒していいかしら?」


 その声の主はセーラだった。


「初めましてセーラさん。僕は、黒崎(くろさき) (しゅう)。シュウって呼ばれてる。よろしくね。僕たち以外にも君とお昼を一緒にしたい人がいるみたいだけど良いのかい?」


 さすがイケメン。驚いた素振りもなく、スラスラ言葉がと出てくるのが素晴らしい。


「シュウ、こちらこそよろしく。セーラと呼び捨てで構わないわ。あと、私は他のクラスの人々ではなく、あなたたちに話したいことがあるの」



 セーラが俺の方をじっと見てくる。


「こ…こんにちは、セーラさん。俺は小倉(こくら) (ゆう)。ユウって、呼ばれている…かな。初めまして。よろしくね」


 俺よ、なんでこんなに焦っているんだ。


「ユウ、あなたは初めましてじゃないでしょう。あちらの世界での話の続きをしようと思ったのに、なかなか話かけてくれないし。皆から囲まれている時も私を無視しているし、とても困ってしまったわ」


 さっきのセーラは少しも困った様子ではなかったが。


「ごめん。さっきは混乱してて何が何だかわからなかったんだ。あと、セーラもクラスの皆と打ち解けているようだったから、声をかけづらくて」

「セーラさん、ユウは悪気がないけど、鈍感なところがあるんだ。許してあげてくれないかな?」


 さすが、シュウ! 超イケメン! 俺の親友! ナイスフォロー!


「あと、僕がいない方がよかったら、ユウと二人きりで話をしてくれても構わないよ。カフェテリアの別の席で食事をするから」


 え、俺とセーラ二人きりは、俺が緊張しすぎて話せなくなるかもしれないから、見捨てないで。


「いえ、シュウもユウから話を多少聞いているみたいだから、一緒に聞いて欲しいわ。何よりユウもそれを望んでいるみたいだし」


 セーラは、シュウが事情を知っていることをわかっているみたいだな。すごい洞察力だ。


「セーラとシュウが良ければ、俺はそれで構わないよ」

「わかったよ。じゃあ、僕も話を聞かせてもらうよ」


 売店で俺はランチセットの食券を買った。セーラは食券のシステムがよくわからないらしく、困っている様子だった。


「はい、これはセーラの分の食券。あっちの世界でご馳走になった分のお返し。この券を持って、あのおばちゃんに渡すと、食事をもらえるシステムなんだ」


 驚いて、青く大きな瞳がもっと大きく見開いた。 


「ありがとう。なるほど、この券の数だけ料理を用意すれば良いから効率的なシステムね。良い勉強になるわね。」


 セーラは、そう言いながらカフェテリアの様子を色々と眺めていた。


 ちょうど、三人で座れる円形テーブルの席があったので、そこで食べることにした。


「セーラ、君は異世界から来た、とユウから聞いたんだけど、本当かい?」


 シュウは話の核心から質問をし、コーヒーを少し飲んだ。


「ええ、来たというより連れてこられたみたいね。私は元の世界で召喚術師なの。私の世界は今、大いなる災いが起こっているの。その災いの正体はまだわかってはいない。でも、その災いのせいで、私の国の王と王妃が突然不治の病にかかってしまったの。その後、世界のあらゆるところに伝染していき、同じような症状の人々が増え、今では人口の三分の一はその病で苦しんでいるわ」


 そう言いながら、セーラはカレーを口に入れた。


「まあ、なんて美味しいの! こんなに複雑だけどうまくブレンドされた味は初めてだわ。この世界は平和そうで、あらゆるものが便利にできている。うらやましいわ」


 セーラは、とても驚いている。こちらの世界の食べ物に興味津々みたいだ。


「あの世界の三分の一が病気にかかっているなんて思いもよらなかったな。すごく活気づいているように見えたけど」

「あの街はね。でも、あの街ももうすぐ病気が蔓延して、活気がなくなってしまいそうなの。それを防ぐために、ユウ、あなたに協力してもらいたいの」


 災いが原因の病気とは何のことだろう?

 

「セーラ、ユウは医学の心得があるわけでもないし、勇者といっても具体的に何をすればいいのかい?」


 シュウはそう言って、ピザトーストを食べた。物珍しそうにセーラはピザトーストを見ながら続けた。


「シュウ、その通りね。実は、私にもユウに何をして貰えばいいかわからないの。『国に災いが起こる時、異境より、勇者とその仲間が現われる。彼らが三種の神器を手にした時、奇跡が起き、災いを消し去り、国は救われん』という言い伝えがあって、それと共に召喚術が古くから伝わっているのよ」


 三種の神器か。病気を治すというものではなさそうだな。


「なるほど、その言い伝えに従って召喚をした結果、ユウがそちらの世界に行ったというわけだね」


 セーラは、オレンジジュースを持ち上げ訝しげに眺めている。色が不思議なのだろうか?


「だけど、セーラ、俺はこうやってこちらの世界に戻って来ているけど。あちらとこちらを自由に行き来できるわけなのか? この世界の召喚物の話は、一度召喚されたらそのままその世界の住人になるというものが多いんだ」

「それに答えるには、まずは私の術式の説明からしなければならないわね。私の使っている召喚術は、『夢想召喚』という術なの。この術式では、まずこちらと私の世界の縁となるものが必要なの。ユウの場合は金貨ね。王家に伝わる金貨と同じものを持っているものが勇者として選ばれ、私の世界に来ることができるの」


 セーラはオレンジジュースを少し口に含み、驚いている。美味しかったのだろう。


「たしか、父さんが、どこぞの遺跡から見つけてきた金貨のことだな。たまたま俺の家にあって、それのおかげでセーラの世界との縁ができたというわけか。しかし、なぜ同じものが全く別世界に存在しているんだ?」


そう言って、俺はカレーを頬張った。


「ごめんなさい。そのことについては、わからないわ。夢想召喚の説明の続きなのだけど、縁のあるユウが眠りにつくと、ユウの身体から魂が自由になるの。そして、魂だけ私の世界にやってきて、私を媒介としてユウが私の世界で具現化するの」

「なるほど、じゃあ寝ている間だけそちらの世界に行けるということか。でも、なんでセーラがこちらの世界に現れたの? 俺が召喚したわけではなさそうだし。」

「無想召喚の副作用みたいなものね。ユウの魂がこちらの世界に戻る時、私の魂が引っ張られて来るみたいだわ。多分、向こうでの時間はあなたとの会話をしている状況のままで止まっているはずよ」


 俺は、セーラの話を聞きながら、リンゴジュースを飲みほした。


「セーラ、僕からもいいかな? あちらでのユウの存在、こちらでのセーラの存在が問題なく受け入れられるのはどういうことなのかな? 僕は朝起きた時から転校生が来ると知っていたのが不思議だったんだ」


 シュウはそう言い、ピザトーストの最後の一口を食べた。


「そのことについては、私の思念操作の術ね。私は召喚術を使えるといったわね。召喚術を使うには魂の操作を行えなくちゃならないの。だから、ユウを取り巻く人々の魂に少し手を加えさせてもらったの。あまり使いたくはないのだけれどね」


 え、じゃあ俺がセーラの事を美人と思ったこと、ホームルームの時に話しかけられて緊張したということなども、全て読まれたということだろうか? そう考える急に恥ずかしくなった。


「セーラ、それって悪用したら、とんでもないことができるよね? 人の心を読めたりはするの?」

「残念ながら、そこまでの事は出来ないわね。外部から情報を与えたり、移動させたりはできるけど、内部の構造を大きく変えたり、中身を見たりすることはできないの」


 シュウは、コーヒーを全て飲み干した。


「色々教えてくれてありがとう、セーラ。ユウ、セーラの世界を救う手助け頑張ってね。」

「シュウ、こちらこそありがとう。こちらの世界に理解者が一人でもいるだけでありがたいわ。」


 シュウとセーラは握手をし、こちらを見てきた。


「そうだな。じゃあ、これからも役に立てるかどうかは、わからないけどよろしくな、セーラ」

「ユウこそ、急にこんな面倒事に巻き込んで申し訳なく思っているわ。快く協力してくれてありがとう」


 セーラは、俺にも握手を求めてきた。女性と握手をするなんてめったにないから、また心拍数が上がった。


 三人ともちょうど昼食が終わったので教室に戻った。


 第2話 ー完ー



 


次回、話が大きく動きます。

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