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前編

「人の考え方は千差万別。同じ人に対しての考えだって、見る人が変われば変わるもの。あなたは誰か一人からの考えのみを聞くのではなく、沢山の意見を聞き、自分で考えられる人になってね。」



これは、母が私が幼い頃から何度も繰り返し言っていた事だ。幼い頃の私は、母が何故こんな事を繰り返し言うのか分からなかったが、今ではとても大切な事を教えてくれていたんだと思っている。




















私はウィリアム・ブラウン、王族である。しかも正妃の長男である。下に二人の兄弟はいるが現王には側妃がいないため、私が次の王に一番近いとされている。


そんな私の母は、リリーウェルザ・ブラウン。我が国の王妃であった。15歳の若さで私を産んだ、まだ若く美しく可愛らしさの残る女性であった。母は隣国の伯爵令嬢であったが、13歳の時に現王である父に見初められ14歳というまだ成人もしていない若さで我が国に嫁いできたそうだ。


母は若く可愛らしい見た目であったが、その見た目に反して内面は気が強く、また大変賢くあったそうだ。そのため、母の外見だけを見て懐柔しようと舐めてかかった貴族たちは大層痛い目を見、逆に離反など出来ないよう徹底的にこらしめられたらしい。

王家に仕える重鎮たちはそんな母を賢妃と呼び、その賢妃を見初めた王を褒め称えたそうだ。



母は国民から賢妃と呼ばれるだけでなく、私にとってのよい母でもあった。王族の子育ては乳母に任せっきりなってしまうものだとよく聞くが、母は全くそんなことはなく私たち兄弟に愛情をしっかり注いでくれた。どんなに公務で忙しくとも毎日必ず顔を見せ、愛していると伝えてくれた。少しでも時間ができれば、その時間を全て使って遊んでくれた。それを疲れた顔など全くせずに、いつも当たり前のようにしていてくれていた母からの愛情は未だに疑いようのないものだと思っている。




しかし母は、息子の私から見ても可愛らしいと思ってしまうような笑顔で、



「私は悪女なのよ?それも、とびきりの!」



と言ってしまうような人でもあった。幼い私には、全く意味が分からなかった。ただ、そう言う時の母の笑顔はとても輝いていたように思う。その笑顔があまりにも眩しくて、そんな母の笑顔をもっと見ていたくて、幼い私は、



「母様は悪女なのですね!とても素敵です!」



と、よく分からない相槌を打っていたのをよく覚えている。そう言うと母は、また嬉しそうに笑ってくれたから。






そんな母は教育熱心でもあった。幼い私にも、幼いから理解できないだろうなんて事は言わず、沢山の事を教えてくれた。

王族、貴族に必要な知識はもちろんのこと、そんな事を王族が学ばなければいけないのか?と思うような庶民の知識まで、彼女の持っている知識を全て教えてくれた。

まだ幼い私には多すぎる知識であり体力的に辛い事もあったが、幸い知識を得ることを嫌だと思うことはなかった。それは、母がよく言ってくれていた言葉のおかげだったのかもしれない。母はよく、



「ウィルは王族よ。王族は期待されるでしょうけれど、全て勉強して全てトップに立たなければいけないわけではないの。確かにトップに立てれば誇らしいわ。けれど、王族に大切なのはトップに立つことではなく沢山の知識を知っていることよ。将来あなたの周りには沢山の分野のトップの人達がいるようになるでしょう。けれどその人達に指示を出すのは、ウィル、あなたよ。その人達全員と同じ知識を得ろとは言わないけれど、全く知らないのでは的確な指示は出せないわ。あなたは各分野、幅広い知識を知りなさい。どんな些細な事だろうと知っていて無駄な知識なんて何一つないのだから。」



と言っていたのだ。そして、必ずチャーミングな笑顔で最後にこう付け加えていた。



「これは、悪女である母様の体験談よ。信じていいわ。」



そんな風に言われていたからか、私は王族という期待に押し潰される事なく、のびのびとまではいかないがある程度楽しく学ぶ事ができていたのだ。





しかし、マナーや礼儀作法だけは楽しく学んでいけばいいわけではなかった。

母はこの二つに関しては、とにかく厳しく完璧に仕上げるよう教育してきた。それこそ、私の母への印象が変わってしまうくらいに厳しかった。



「社交界は戦さ場よ!マナーや礼儀作法が完璧でないままそんな場へ行くなんて、武器も持った事のない幼子が戦さ場へ行くのと同じ!母はあなたを立派な戦士、いえ将軍にして差し上げますわ!」



そう言って、いつも私が泣き出すまで、いや泣き出しても繰り返し練習させられた。

おかげで私は5歳の時には、もう社交界に出られるのでは?と言われる程見事な礼儀作法を身につける事ができた。





そんな忙しくとも幸せな日々を私は送っていた。







それが壊れ出したのは、私がもう少しで6歳になろうとしていた頃だ。

母は3人目の子供を出産したばかりだった。3人目の子供は2人目の王子であり、健康で元気に産まれてきた。それは良かった。

しかし出産の一ヶ月後、母は体調を崩した。私たち子供の前ではいつものような笑顔を向けてくれていたが、身体はどんどん痩せていき顔色も徐々にだが確実に悪くなっていった。

それからはあっという間だった。




母が体調を崩してから2ヶ月後、母は死んだのだ。





私が6歳になる1ヶ月前であり、母は21歳の若さであった。


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