海上アルプス
『魔法少女マンゴ☆スチン Tropical FruitS』
を書いておられる幸田遥さんより17件目のレビューをいただきました!
ヘリコプターだった。万事に抜け目ない清だ。深海に渡る大橋が、この時間帯は渋滞することなどお見通しである。だから事前にヘリコプターを予約していたというわけだ。
なお、渡海市にヘリコプターを運営する会社はない。県の、いや日本の中心たる邪魔口市から飛ばしてもらったのだ。渡海市役所のヘリポートへと。
「うわぁせんせぇ! 私ヘリコプターなんて乗るの初めてですぅ! 大昔のやつはめちゃくちゃうるさかったって聞いたことがありますけど、本当は静かなんですね!」
当然だろう。清だって覚えがある。ボビー・タイラーの所へ行く時、秘書の常盤の膝枕でぐっすり眠っていたのだから。
「そうみたいだな。ほら、もう着くぞ。」
「ふわぁーー! すごい! すごいですよせんせぇ! 岩と海がすっごくいい感じですよ!」
「ああ。そうだな。」
海から屹立する数多の岩と空とのコントラスト。清が高校時代から幾度となく見てきた光景だ。だが、さすがの清もヘリコプターから日の出の海上アルプスを眺めるのは初めてだったりする。
「せんせえ……ありがとうございます。」
珍しくシリアスな葉子の声。さすがの清も絶句していた。
「私のためにここまで用意してくださって……」
いつになく本気トーンの葉子を相手に、清は返事をするまいと腹をくくった。
「分かりますよ。一晩中私と一緒に過ごしてくれて、朝はこんな絶景を見せてくれて……分かります。分かりました! これはプロポーズですよね! 生涯をせんせぇに捧げると誓「あれを見ろ。」ううっ!?」
「ふわあぁーーー! 朝日いー! すっごい眩しいんですけどお! はっ!? 分かりましたせんせぇ! これほどまでに眩しい姿! 朝日のように爽やかにこれからもずっと一緒に過ごしていこうってことですね!」
「健康な一年になるといいな。」
「私はいつも元気ですぅー! せんせぇこそ私がいなくなってもちゃんとご飯食べてくださいよ!?」
葉子がいなくなっても? 一瞬思考が止まった清。しかし、すぐに思い出した。葉子が進学する予定の高校のことを。
「もともと外食かスーパーばかりだからな。特に変わりはないさ。」
「むーぅ! それから浮気しちゃだめなんですからね! 私以外の女を助手にしてもだめですよ!」
「分かった分かった。」
そもそも葉子ほど霊力の才能があり時給800円で使えるアルバイトなんて唯一無二にも程がある。清がもし他にアルバイトを雇うとしても荷物持ちに向いた力持ちな男性だろう。
「絶対ですよ! 私が高校卒業して正社員になるまで絶対だめですからね!」
「大学はいかないのか? せっかく県内トップの邪魔口高校まで行くのに。」
「行くわけないじゃないですかぁ。だって霊能学部のある大学って狂都にしかないんですよぉ? それだったら邪魔口高校の霊能科にしときますよぉ。だってせんせぇ言いましたよねぇ? 高校卒業したら正社員にしてやるって。ねぇ?」
「言ったな。」
「だったらますます狂都なんか行きたくないですよぉ。邪魔口高校だったら2時間もあれば戻ってこれますし?」
「寮に入るんだろう? わざわざ戻ってこなくてもいいさ。その時間を修行にあてるんだな。」
「むー、せんせぇは私がいなくて平気なんですか!?」
葉子らしからぬ鋭い目に真剣なトーン。清はどう答えるのだろうか。
魔法少女マンゴ☆スチン Tropical FruitS
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