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大陸の陰謀

「あー疲れた……」


心底疲れたといった表情で唐沢が立っていた。


「師匠……助かりました……」


清もどうにか起き上がっていた。


「お前あんな奴に苦戦してんじゃねえよ。本当に見物気分で来てんじゃねえぞ?」


「いやぁ……まあ、その……」


「まあよ、まさかこんな大それたするたぁ俺だって想像すらしてなかったさ。これ完全に全面戦争じゃねぇか。邪魔口(やまぐち)でこれなら辻麻(つじま)置那波(おきなば)なんてかなりやべぇことんなってるぜ?」


「はぁ、大陸の魑魅魍魎はそんなに日本(ひのもと)が欲しいんですかね?」


「けっ、欲しいんだろうぜ? この国の霊脈はかなり(うめ)ぇらしいからよぉ。やれやれだぜなぁ……んじゃ俺は帰る。そこでのびてる奴らは貰ってくぜ。お前はここの宮司長でも叩き起こして搾り取ってやれや。」


もしも、この企みが成功していれば……邪魔口の地から神の祝福が消えるどころか、異国の魑魅魍魎にとって住み良い地となっていたことだろう。

もっともそうなった時には鬼村や雲井などが激怒して大暴れするのだろうが……

いずれにしても人間にとっては迷惑な話だ。清と唐沢の功績は絶大と言えた。一国の首都を救ったことと等しいのだから。だが、清には腑に落ちないことがあった。


「あまりにも戦力がしょぼくないですか? この二人だけって。」


「あいつらも目立つわけにはいかなかったんだろうぜ? なんせ邪魔口にはやべぇ奴らがウヨウヨいるからよ?」


「あ、あぁ……それはそうですね。この企みが成功する前に鬼村さんなんかに見つかったら即死ですもんね。」


問題はその鬼村が邪魔口にいないということなのだが、清も唐沢もそんなことは知らない。どこで何をしていることだろうか。


「大先生! ありがとーございました!」


「おう。俺に任しとけや。清は弱っちいからよ?」


「もー! そんなことないですもん! せんせぇはカッコいいんですから!」


葉子との話が噛み合わないのはいつものことだ。


「ありがとうございました。」


「おう。酒の五、六本でも送ってこいや。」


「もちろんです。」


そう言って唐沢は倒れた二人をずるずると引きずっていった。


「帰りたいところだが、少し待っておいてくれ。」


「私待ちます! いつまでも待ちますよ! 例えせんせぇが帰ってこなくても!」


「すぐ終わる……」


清が向かったのは倒れている邪魔口大神宮の関係者たちのところだ。

普段なら自分が務めるべき祝詞奏上を怪しい大陸者に任せた責任は重い。誰の指図かは知らないがきっちりと責任を追及する必要がある。


「起きてください。」


その場で一番偉そうな男の頬を叩く。おそらく彼が宮司長だろう。でっぷりと太っており、やけに高そうな衣装を身につけていた。


「うっ、うう……」


「詳しいことは後日聞かせてもらいますけど、あの大陸者をねじ込んだのは誰ですか?」


「ち、超常現象対策専門機構の浅儚(あさはか)本部長……」


意外にあっさりと口を割った。どうやら唐沢と清の予想通りだったらしい。


「よく分かりました。この件は鬼村さんや雲井さんにもきっちり伝えておきますので。もちろん魔女さんにもね。」


「そ、それは……」


「助かりたかったら大陸系なんかに協力してないで我が国を守る気概を見せて欲しいものですね。では、今日のところはこれにて。」


「そ、そんな……」


清とてそこまで強烈な愛国心があるわけではない。ただ、大陸によって日本(ひのもと)が牛耳られたら自分の食い扶持どころか居場所、それどころか命までなくなることは目に見えている。先ほどの宮司長や本部長にしても大方ハニートラップと甘い蜜でズブズブになっているのだろうが、そんなもの日本が大陸の支配下になったら切り捨てられて終わりだ。だから嫌々ながら清は抵抗するしかない。国を背負って戦えるほどの実力はなくとも……




政治と魑魅魍魎の世界は表裏一体。清は心底うんざりとした顔を隠しもせず、葉子のところへと戻ってきた。


「お待たせ。帰ろうか。」


「お待たせって言いましたね!? これってもしかしてデートですか!? デートですよね! だったらまた腕を組んでもいいですよね! ねっ!」


清の返事を待たずに腕を絡める葉子。清も振り払うことはなかった。その元気もないのかも知れないが……


「ねぇせんせぇ! 今からどこに行くんですかぁ!?」


「帰るんだよ。疲れたからな。」


「えっ!? そ、そんなぁ……私、今日と明日は帰ってくるなってママに言われてるんですよぉ……」


どんな母親だ……と清は思ったのだろうか。


「仕方ないな。今日はよく働いてくれたからボーナスだ。好きな行き先を言うといい。」


「す、好きな行き先ですか!? そ、そんなのせんせぇのベッドの隣に……」


「やっぱ家まで送るか?」


「じょ、冗談ですよぉ! じゃ、じゃあラーメンが食べたいです! 龍骨鬼ラーメンが!」


「残念だったな。材料がきれて半年ほど休むそうだ。」


「もぉー! だったらどこでもいいから休憩できる処でお願いします!」


「分かった。休憩できる所だな。」


葉子のイメージした休憩できる処。

清のイメージした休憩できる所。


果たして同じなのか違うのか……


挿絵(By みてみん)

葛原 葉子©︎ 陰東 一華菱 氏

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― 新着の感想 ―
[良い点] 龍骨鬼ラーメンは休みか……。 あ、じゃあ独眼独頭どんぶりとか、凶骨牛骸うどんとか、龍頭鬼尾おでんとか……。 ……冗談じゃなくありそうだな邪魔口。(笑) ――て言うか、清がどんどん、気安い…
[一言] このイラストの子に 「先生のベッドの隣」 って言われたら…… 悶絶死すると思うんですが! 平気な先生、すごいですね! 改めて尊敬しました!
[一言] 葉子ちゃんイラストとギャップありスギィ!!!wwww
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