大陸からの刺客
『テストで90点を取った子供に「100点じゃなきゃダメ!もっと上を目指さなきゃダメ!」と叱りつけるような風潮を感じる、今日この頃』を書かれております『仙道アリマサ』さんより16件目のレビューをいただきました!
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邪魔口大神宮の宮司が開催の祝詞を唱える。
『掛けまくも畏き
伊邪那岐の大神
西狂長門は邪魔口の
渡海の高天原に
禊ぎ祓え給ひし時に
生り坐せる
祓戸の大神等
諸々の禍事 罪 穢
有らむをば
祓い給ひ 清め給へと白す事を
聞こし食せと
恐み恐み白す…………』
「せんせぇ……あれ何て言ったんですか?」
葉子が小声で訊ねている。
「ああ、神様に今年の悪い事を取り除いてくれるようお願いしたんだよ。祓い屋になりたかったらあんなのをすらすら言えるようにならないとな。」
「が、がんばります……」
二人が話している間にも儀式は進む。
そして儀式は、清が祝詞をあげるはずだった場面までやってきた。壇上に立ったのは……見知らぬ若い男だった。男らしさで比べるなら清に軍配が上がるだろう。だが、その男は怪しいまでの艶を放っていた。男女問わず惑わせてしまうような官能的な艶を。
『高天原に神留り坐す
皇親神漏岐 神漏美の命以ちて
八百万神等を神集へに集へ賜ひ
神議りに議り賜ひて……………………』
やや高い声。その声には、いくら隠そうとしても隠しきれないほどの色気が乗っている。だが、そもそもその男は隠そうなどと少しも思ってないらしい。淀みなく祝詞は続く。
『……………………祓へ給ひ清め給ふ事を
天つ神 国つ神
八百万の神等共に
聞こし食せと白す…………』
場内を甘い空気が支配する。
参加者のほとんどが夢うつつ。
「せんせぇ……なんだかいい気分になってきました……寝ていいですかぁ? 私の寝込みを襲ってもいいですから……」
「ふーん、そういうことか。俺の目の前で……えらく舐めた真似してくれんじゃん……」
「せんせぇ……舐めてくれるんですかぁ? 嬉しいですぅ……」
「いいから寝とけ。おやすみ。」
「あぁん、せんせぇ……もっと耳元で囁いてくださ……」
倒れ込む葉子を優しく地面に横たえた清。
妖艶な男の祝詞が続く。しかし、その頃にはもう会場で目を覚ましているのは清一人だけとなっていた。
「畏み畏み白すぅ……」
祝詞をあげ終えて、一息つくこともなく男はふわりと清の前に舞い降りた。
「ようこそ。天才霊能者唐沢和宏の弟子よ。きっと来てくれると信じていたよ。」
「邪魔口で……俺の目の前でえらく舐めた真似をしてくれたな……喧嘩売ってるんだよな?」
清にしては好戦的な態度のようだが……
「ふふっ……下賤な田舎巫覡が……師ほどの才能もなく、ただコネクションだけで生き残ってきた分際で大きな口を。私に勝てるかな?」
「才能があっても弱い奴よりましさ。大陸を追われた落ちこぼれ道士よりなぁ?」
「殺ァァ!」
突如懐から細い針を投げられ、清は一瞬狼狽するも素早く黒棒で叩き落とした。
「いやー悪い悪い。本当のこと言っちまって悪かったな。お前、日本語をよく勉強してるな。褒めてやるよ。」
「混蛋!」
美しい顔を悪鬼のように歪めて針を飛ばす大陸の男。
「鋭っ!」
清お得意の結界を張り、針をことごとく防いでいる。
「愚蠢!」
埒があかないと見たのか、背中から青龍刀を抜き、斬りかかってくる。黒棒を片手に相対する清。
数合ほどの打ち合い。明らかに清が劣勢だ。
「くくく、あれだけ大口を叩いておきながら弱い弱い。やはり才能がないってのは辛いようだね?」
「だから言ってるだろ! 才能なんぞなくても勝ちゃあいいんだよ! ほぉら足元注意だぜ?」
「その手には乗らなっ何ぃ!?」
男の足元には異形の魑魅魍魎が群がっていた。 いや、群がるだけではない。ぞわぞわと足を登ろうとしている。
『くうぁっ! 伏魔神呪……「おっと、させないぜ?」
印を組もうとした男の片手を清が黒棒で強打する。どう見ても指が折れている。清の目の前で隙を晒したばっかりに……
「贱货ォォォ!」
「だめだめ。今度は上を見てみな?」
弾けるように上を見上げた男だが……清は無防備になった喉に容赦なく黒棒を突き入れた。
「ガッフゥオッ……」
終わりだ。
倒れた男に縄をかけた上に何やら呪術を施している。
「あー疲れた……くっそ、何でこいつが邪魔口にいるんだよ……」
どうやら清は男のことを知っているらしい。
ぶつくさ言いながらも清は携帯を取り出して電話をかけ……ようとしてやめた。地面に正座をして足元の魑魅魍魎に話しかけた。
「先程は助かりました。また近いうちにお礼に伺いますので鬼村さんにはよろしくお伝えください。」
「ええぇやろぉぉ……」
「わすれんなぁぁ……」
「はらいやぁぁ……」
「またのぉぉ……」
数々の魑魅魍魎が地面に溶けるように消えていった。彼らは鬼村が清のために遣わせたのだろうか。それとももっと何か別の目的があったのだろうか。
だが、いずれにせよ清が助かったことに変わりはない。彼らの助力がなければ……おそらく勝てなかったはずなのだから。
そして、改めて携帯を取り出して電話をかけた。
相手は……
「もしもし。」
「師匠、大変なことになりましたよ! 今って邪魔口大神宮の近くにいますか?」
「ああ、もう20分もすれば着く。もっと早く行くつもりだったんだが昨夜飲みすぎてなぁ……」
20分と聞いて絶望的な表情を浮かべる清。
「分かりました。とにかく早く来てくださいよ! それまで俺が何とかしますけど! 師匠に仕上げをしてもらわないとマジでヤバいですよ!」
「分かった。それまでどうにかしろ。」
電話を切り、横になっている葉子を横抱きにして、先ほど男が祝詞を唱えていた場所まで近寄った。関係者が目覚める気配はない。
「くそ、なんで俺がこんなことを……」
清は葉子をそこら辺に下ろして祝詞を唱え始めた。
『掛けまくも畏き
伊邪那岐の大神
西狂長門は邪魔口の
渡海の高天原に
禊ぎ祓え給ひし時に…………』
『テストで90点を取った子供に「100点じゃなきゃダメ!もっと上を目指さなきゃダメ!」と叱りつけるような風潮を感じる、今日この頃』
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