邪魔口大神宮
『後輩ちゃんの恋愛講座』を書かれております『衣谷強』さんより15件目のレビューをいただきました。
ありがとうございます!
三年前にそんなことがあったとなどとつゆ知らず、清は自分が祝詞を唱えるはずだった『大祓いの儀』に顔を出していた。隣には葉子まで。
予定がなくなったため本来なら休むはずだったのだが、葉子がやってきたのだ。大晦日だというのに朝から。
それでも秘密のマンションではなく事務所に寝泊まりしていた清の心中たるやいかなるものか。しかたなく、清の主観だが……しかたなく葉子を連れて大祓いの儀を外から見物すべく邪魔口大神宮の外苑を歩いていた。
「ねぇせんせぇ? 大祓いの儀って何なんですかぁ?」
「あー、簡単に言うと人々の罪や穢れを祓う儀式だな。ほら、人間って生きてるだけで色んな罪を犯すよね。それらを一手に引き受けて祓うという重要な儀式なんだよ。」
「なるほど……確かにせんせぇは罪深いですもんね。そのイケメンフェイスでどれだけの女の子を泣かせてきたか……見てるだけで吸い込まれそうな凛々しいお目目! すっと通った鼻筋! 薄いのに不思議と肉感的な唇! あぁーもぉー我慢できませーん!」
せっかく、ほんの数秒前まで清と腕を組んで歩くことに成功していたのに台無しである。ガバっと迫ってギリリとアイアンクローを食らっている。
「そろそろ始まる頃だ。一般人でも立ち入りが許されている場所まで行くぞ。そこでは静かにしておけよ?」
「はい! 静かにしてます! だから私の口をせんせぇの熱いアレで塞いでください!」
「熱い黒い棒か?」
「そうです! いやいや違います! それもいいんですけど! せんせぇの熱い口付けでよく回る私の口をぶちゅぅーっと塞いでくださいよぉー!」
「熱い白い液体で我慢しておけ。」
「えっ!? そんな! いきなりそんな! でも先生のだったら私……喜んで飲みます!」
「はいこれ。」
どこからともなく清は魔法瓶を取り出し、コポコポと白い液体を注いだ。
そう、甘酒だ。
「どうせそんなこったろうと思いましたよぉぉぉーーー!」
「飲まないのか?」
「飲みますよぉ! ぐびっ、はぁ美味しい……これってせんせぇの手作りですか?」
「ああ。」
途端にニヤける葉子。
「つまり! これにはせんせぇのエキスがたっぷりと入っていると言っても過言ではないですね! せんせぇがその指で! 凄腕の祓い屋とは思えない繊細な指で! お米なんかをこねこねして作ったんですね! そう思うと味わい深さが段違いですね! ぐびり!」
「すまん嘘だ。甘酒なんて何が原料かすら知らん。」
「ぐぉがぁーん! また騙された……せんせぇはこうやって私を弄んで……でも翻弄されながらも私の心はせんせぇでいっぱいで! 甘酒という白い液体を飲み干した私の口はいつしかせんせぇの白い液体を飲む日を夢見て求めさまようんですね!」
「ん? そうなのか? すまん聴いてなかった。」
「きゃごぉーん! もー! せんせぇのバカ! いけず! イケメン! ドS!」
「ところでドSって語源知ってる?」
清の背中をぽかぽかと叩いている最中に問いかけられた葉子。もちろん知っているため自信満々な顔をして答えた。
「ブツランスの小説家マルモウケ・サドに由来するんですよね? 『淫蕩学校と悪徳の花』はそりゃあもう言葉にできないほどアレな作品ですもんね!」
「へぇー。そうだったんだ。やっぱりそっち方面は詳しいんだね。いやーさすが。」
清は知らないから質問をしただけだった。たぶん葉子なら知っているだろうと思いつつ。
「はっ!? 私の築き上げてきた爽やかで可憐なイメージが! ち、違うんです! ちょっとママの本を読んだだけなんです!」
葉子の母親は一体どんな本を愛読しているのか。清はこれ以上そこに触れるのをやめた。
「さ、そろそろ始まるな。もう少し近くに寄っておくぞ。」
「私に近寄ってくださいよぉ……」
腕にしがみついているくせに、これ以上どうやって近寄れと……などと清が言うこともなく儀式が始まった。
後輩ちゃんの恋愛講座
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