番外編:葉子と別来
巫女装束に身を包み、凛々しく立つ少女。
彼女の名は氷室……ではなく『葛原 葉子』
邪魔口県では若手ナンバーワンの実力を持つ祓い屋『阿倍野 清』のもとで修行を積み、独り立ちはしてないがある程度の除霊は任せてもらえるようなった頃……
「別来君? そんなわけないね……まったく、そんな姿で私のトラウマを刺激しているつもり? 甘いよ! かかってこい! 邪精霊『木霊』」
葉子が小学生だった頃、山村 別来とは浅からぬ因縁があった。お山の怒りに触れてしまい帰れなくなってしまった男の子。
それが時を経て葉子の前に現れた……
もちろん本人ではない。葉子が呼んだ通り正体は『木霊』
自由自在に姿を変え、人を惑わし……そして喰らう。まだ一人前とは言えない葉子の手には余る相手ではないのだろうか?
『葛原ぁ……なぁんでお前だけぇ……ずるぃぞぉぉ……お前もこっち来いよぉぉぉ………………』
「ふん、処置なしね。せんせぇに代ってお仕置きしてあげる!」
葉子の迸る霊力が青い火の玉となって浮かんでいる。よほど漲っているのだろうか。
『なぁめぇぇんなぁぁぁ……喰らってやるぅぅぅ……旨そぉじゃねぇかぁぁぁ……』
「私の素肌に触っていいのはせんせぇだけよ! さあ見せてあげる! せんせぇ直伝の霊力をね!」
『急急如律令』
『出よ炎日輪』
『げっげっげぇ……その程度の霊力でぇ……』
「その程度? ふっ……」
「さあ、切り刻んであげる。逃げたいなら逃げてもいいんだよ?」
『ざけんなぁぁぁ……誰が逃げるがぁばぁぁ……喰ら喰らうっ喰らうぅぅぅ……」
『南無日輪摩利支天』
葉子の術が炸裂し、別来の目前で弾ける。
『ぐばぁぁばぁぁ喰う喰う喰らうぅぅ……うんまそぉな肉ぅぅおなごの肉ぅぅ……』
「これで終わりよ!」
葉子を喰わんと襲いかかってきた木霊。弾けた光に目を奪われて何も見えない。
顔から地面に転げた木霊。葉子の足に引っかかったのだ。
「やっと背中を見せてくれた。あーしんどー。はい破魔札ぺちっとな。」
『あごぉぉぉうぅぅぅ……おぉのぉぉれぇぇ……』
地面に溶けるように消えた山村 別来の姿を騙った邪精霊『木霊』
実は、葉子が勝つにはそのお札を背中に貼るしかなかったのだ。見た目だけは派手な術を持っているが、本当に見た目だけなのだ。せいぜい目眩しぐらいにしか使えない。
それでも使える手札を駆使して勝利を掴んだ。これこそ祓い屋に必要な資質であろう。
師である清から一人前と認めてもらえる日も近いのではないだろうか?
全画像提供©︎オムライスオオモリ氏