番外編:夜叉と異薔薇城
対峙する二人の鬼。
一方は身の丈3メートルを超え、全身の皮膚が返り血を浴びたかのように真っ赤に染まっていた。
彼の名は夜叉童子、現在は『鬼村』と名乗っている。
「イバちゃん……本気なんかぁ?」
一方、大胆に足を露出した妙齢の美女。彼女の名は異薔薇城童子。大地を揺るがすような鬼村を前に震え一つ起こさずに堂々と立っていた。
いや、むしろその眼光には鬼村の方がたじろぐ程である。
「本気じゃ。ヤッちゃんさえ協力してくれれば妾は鬼族の王になれる。嫌とは言わさん!」
「やるしかねぇんか……」
「無論じゃ! もはや酒天のオッさんなどには任せておけん! さあ、言葉は無粋っ! 妾を止めたければ止めてみよ!」
「イバちゃん……」
鬼村が身の丈を超える巨大な鉞『金太郎殺』を構えると、異薔薇城も刀身が朱く輝く刀『朱魔利』を抜いた。
「いくぞヤッちゃん! 遊ぼうぞ!」
「来い、イバちゃん……」
「プハぁ! いい酒よのう。あの祓い屋は気が利くではないか! 景気付けによいわぇ!」
「余裕見せすぎじゃあ! 隙ありぃ!」
「そうでもないぞ? はあっ!」
「ちっ、効かんでぇ! うらぁ!」
「そのような大振りで妾を捉えられると思うなよ! 目覚めよ朱魔利!」
刀身に稲光が走る。
「くらえヤッちゃん!」
『音切』
音を置き去りにするかのような一撃が鬼村の胴を切り裂いた……が……
「さすがじゃのぉイバちゃん……だがまだじゃあ! 本気で来いやぁ! ヌルいことやってんじゃねぇどぉ!」
「ふっ、よかろう。ならば見せようぞ。かつて狂都の大乱で大暴れしたあの姿を、今一度見せてくれようかぁ!」
『雷夢弾猛怒』
異薔薇城の装備が弾け飛び、眩いばかりに輝く素肌が露わになった。
それだけではない……ただでさえ音を置き去りにするかのように速い動きが、さらに加速したではないか。
「さすがじゃあ……それよぉ……ワシぁイバちゃんのその姿が見たかったんじゃあ……」
「ヤッちゃん……受けてみよ! 妾の雷を!」
『堕麟殷雷忍熾破』
「あぎゃあぁぁぁぁーーーーーーー!」
「妾の勝ちじゃ。ではヤッちゃんよ。協力してもらうぞ? 明日から妾が鬼族の王『鬼燐王』じゃ。」
「くっ……仕方ないのぉ……どうなっても知らんでぇ……シュテンさんがどう出るか……ホッシーだってよぉ……まあええ……イバちゃん、やるでぇ!」
「すまんな。これ以上外国勢力が日本を荒らすのを見過ごすことはできんでな……」
倒れ伏す鬼村の手を取り、優しく包み込む異薔薇城。
見つめ合う二人の鬼。
邪魔口の魑魅魍魎界を四分する勢力、鬼村が動いた。これから一体どうなってしまうのか?
このような大事件が起こっていることも知らず、清は今日も小銭稼ぎ、いや祓い屋稼業に邁進していた。
全画像提供©︎オムライスオオモリ氏




