除霊失敗!?
それから2件の除霊を終わらせた清と葉子。
「せんせぇ……」
「どうした……」
「動けないんですけど……」
「気にするな……俺もだ……」
二人が二人とも全霊力を注ぎ込んだ結果、一歩も動けず地べたに倒れ込んでしまっていた。
1件目の除霊、こちらは大したことはなかった。コンビネーションすら必要なく、清の黒棒が炸裂するだけで終わった。
問題は2件目だ。
よくいる地縛霊だと思ったら、やたら強力な動物霊だったようで、清は思わぬ消耗を強いられたのだった。
いつものように葉子を囮にして霊を誘き寄せる。そして結界に溜めた霊力で悪霊を一気に殲滅する……はずだったのだが……
「ぎゃばぁーーー! せんせぇ! けっ、結界に穴が空いてますぅーー!」
隠れて様子を窺っていた清だったが、葉子の言うことは本当だった。おそらくは犬がベースの動物霊なのだろう。霊となってもなお、強力な牙を持ち続けていたと見える。そこまで値の高くない結界を使ったのもマズかったようだ。
「そのまま霊力で穴を塞いでろ!」
「はいぃぃーー!」
黒棒を持ち、後ろから動物霊に襲いかかる清。もうしばらく霊力を溜めてから除霊するはずの予定が、すっかり狂ってしまった。
葉子を結界内に待機させたまま動物霊との一騎打ちが始まった。清とて邪魔口県内の若手ではトップの霊力を誇る身である。そこらの動物霊などに遅れはとらない。そこらの動物霊ならば……
「くっそ……喰ってやがる……」
『喰う』とは……霊が霊を喰らい、吸収することである。要は、強くなっているだけの話だ。
黒棒に噛み付く動物霊。いつの間にやら犬とも獅子とも見える三つの頭に六本足、二本の尾を持つ異形と化している。明らかに分が悪い。
ついに清の手から黒棒が奪われ、遠くに投げ捨てられた。それどころか、獰猛な牙に右手と左足を噛みつかれてしまった。
「せんせぇーーー! 今行きます!」
「待て……もう少しだ……そのまま結界を維持してろ……」
「は、はい!」
噛みつかれてはいるものの、噛み砕かれることはなく、じわじわと牙が肉に食い込む。恐るべき霊力だ。清は口の中で何やらぶつぶつと呪文らしき言葉を唱えている。
「せんせぇーー! そろそろ私の霊力が切れますぅぅーー!」
「よくやった! 頭を抱えて地面に伏せてろ!」
「はいぃぃーー!」
清は素早く左手でポケットから白く輝く石を取り出し、動物霊に叩きつけた。左手で押さえておかねば三つ目の頭に喰われてしまうからだ。
『解!』
『不浄調伏魑魅瞰食』
石が破裂し、同時に結界も作動した。余波で吹き飛ばされる清。うずくまった葉子の上にはたくさんの土砂が降りかかっている。
そして、動物霊は跡形もなく消え去った。清が、清達が勝ったのだ。
清はのそのそと起き上がり、葉子の安否を確かめる。目の前で爆発が起こった割には元気そうな清だ。地に伏せた葉子の首筋に触れ、何やら、おそらく霊力を流し込んでいる。
ほんの10秒足らずの行為だったが、それを以て清の霊力は尽きた。
どさりと地べたに倒れ込み、寒空を見上げていた。
「せんせぇ……」
「どうした……」
「動けないんですけど……」
「気にするな……俺もだ……」