いつもの葉子
結局二人が訪れたのは山道の途中にある自動販売機エリアだった。
ここには、うどんやハンバーガーなど様々な食べ物の自動販売機が揃っているのだ。ちなみに清はここの肉うどんが好きだった。
「もぉーせんせぇ! 何なんですかここは! 自動販売機じゃないですか! しかもこの安っぽい容器! プラスティックじゃないですか! こんなのでうどん食べるなんて正気ですか!?」
「うまいぞ。腹へってないのか?」
「食べますけどぉー!」
ずるずるとうどんを啜る葉子。
「おいしーい! なんですかこれ! めっちゃ美味しいです! 自動販売機なのに!? 得体の知れない容器なのに!?」
「うまいだろ。」
清は得意げな顔をしている。
清や葉子が知るよしもないが、この自動販売機にはかなりの最新技術が用いられており、うどんや肉の鮮度維持はもちろん、出汁に至るまでかなりの年月をかけて開発されたものだった。旨くて当たり前である。
「それよりせんせぇー? もう帰っちゃうんですかぁ?」
「事務所には帰る。だが君は帰さないがな。」
「えっ! せんせぇそれって!? 今夜は帰さないってやつですよね! はい! 帰りません! 朝までしっぽりずっぽりコースでお願いします!」
「え? 来る時に説明したろ? 一度帰ってから次の現場に行くって。今日はもう2件あるからな。」
「あぁ……そうでしたね……」
テンションだだ下がりの葉子である。
車内にて。
「ねぇーせんせぇってどんな女性が好みなんですかぁ?」
葉子の顔には「私と言って!」と書いてある。
「そうだな……まず金持ちであることだな。総資産は最低100億円は欲しいな。次にうるさい親族がいないことかな。」
「じゃ、じゃあ! その、見た目的な好みはどうなんですか! 財産はバッチリあるとして!」
葉子は諦めない。
「そうだな……イングリッド・バーグマンかボニー・タイラーみたいな感じがいいな。」
「誰ですか!? 日本人じゃないですよね!? まさかボビーさんの親戚ですか!? じゃ、じゃあ日本人だと!」
とにかく葉子は諦めない。
「うーん、髪が長くて時々ポニーテールもして、身長は俺と同じぐらいで体重はどうでもいいや。スリーサイズは、まあバランスが良ければいいか。顔は……田中絹代系かな。」
「だから誰ですか! 先生のお友達なんですか!? 女優さんとかモデルさんで例えてくださいよ!」
きっと清は内心、女優なんだけどなぁ……と思ったことだろう。200年近く前の女優を知っている清がおかしいのだが。
「あ、じゃーあー。私の好みなんですけどぉー! 知りたいですかぁ?」
知りたくもないのだが、知りたいと言うまで同じ質問が来ることは明白である。
「あー、しりたーい。」
心底やる気のない声である。
「んもーせんせぇったらぁ! そんなに知りたいんですかぁ!? 仕方ありませんねぇー! そんなに言うんでしたら教えてあげますぅ!」
清の返事を待たず葉子は話し始めた。
「えっと、まずぅイケメン! せんせぇみたいなイケメンがいいですぅ! それからぁ……せんせぇみたいにちょっとツレない所も乙女心のツボがツンツンされるんですよねぇ? そしてぇ……能力! せんせぇみたいに何か自分の腕で生きていける能力! これってカッコいいですよねぇ! そ、それでそれで、決める時はバシッと決めてぇ……」
清はまるで愛の告白を聞いている気分だったが、特に反応することもない。耳を右から左に通り抜けていった。
「あ、言い忘れた。俺の好みなんだけど。」
「えっ!? 何ですか何ですか!? あっ、年齢のことですよね!? 歳下ですよね!? 中学生がいいですか!?」
「巨乳が好きだな。」
女子中学生に向かって堂々と巨乳が好きと言ってのける清。完全にセクハラである。
「ぎゃごぉーーん! せんせぇそんな……私だってもう何年かすればきっと……ママみたいに大きく……」
「あ、あと霊力も大きいといいな。俺より大きいと最高だよな。」
「そ、そんなぁ……せんせぇのアレより大きいだなんて……どうすれば大きくなりますかぁ……?」
「そんなの毎日の積み重ねさ。方法はすでに教えたよな? 毎日欠かさずトレーニングするのが一番無難な方法だな。」
「その……せんせぇに手取り足取り教えて欲しいんですけどぉ……じっくりと!」
「それは意味がないな。今は1人でコツコツやる時期だからな。」
「ひ、1人でやるんですね? 1人でしても大きくなります?」
「そりゃあなるだろう。というかもしかしてサボってるのか? きちんと毎日やってないのか?」
「そ、そりゃあ毎日してますけどぉ……でもいまいち1人じゃあ面白くないって言うかぁ……先生にあれこれして欲しいって言うかぁ……」
そうは言われても今の時期、清は余計な霊力を浪費するわけにはいかない。葉子には自力でトレーニングをしてもらう以外に方法はない。
「ほらぁ、例えば……後ろからせんせぇのアレを入れてもらうとかぁ?」
「今は無理だな。結構ギリギリでな、回復が追いつくかどうかも怪しいんだよ。」
「回復が追いつかない……せんせぇ……一体どこの女にアレを注いだんですか!?」
「女? まあ女もいたかな?」
「ま、まさかせんせぇ!? 男にまで見境いなく!?」
「どっちかって言うと男の方が多かったかな。」
(そ、そんな……せんせぇは男もイケるタイプだったなんて……あぁっ! でもそれはそれで耽美な世界が広がってそう! せんせぇほどのイケメンが! か弱い美少年と! 燃える! これは燃える! 私の新しい扉が開いてしまいそう!」
「最近は比較的まともになったと思ったのに。相変わらず考えてることが口に出るんだね。霊力の話って分かってるだろうに。今月はなぜか男の霊が多かったってだけだからね?」
「ゴクッ、口に出る……口に出す……ゴクリ……」
「君もう何でもありなんだね。最近の中学3年生はどうなっているんだか。さて、着いたぞ。荷物を積み込んで次の現場に行くぞ。」
「はいっ! イキますぅ!」
もうすぐ高校受験を控えていても、葉子は葉子だった。




