SS:祓い屋外外伝、葉子と先生とふんどしと。
鬼村のピンチがご心配かと思いますが、何の前触れもなくSSです。
頭を空っぽにしてお楽しみくださいませ!
褌にはいくつか種類がある。有名なものとして下記の様な六尺、一般的な男子の下着である。カワイイ女子が締めても全然大丈夫。全然イケる!むしろ最高……。
☆イラスト、サカキショーゴ様
これは、昭和初期に軍隊に入ると支給されていたそうだ。家から持ってきた下着はホームシック防止の為、捨てられ、皆、褌をきりりとしめていたのだ。尚、現代社会でも修験者等が使用、そして水泳の時に赤い布地のそれを使用する男子校もあると聞く……。
そもそもふんどしが一般化されたのは江戸時代。それまでは、庶民の男子たるその場がフリーダムであったのは、あまり知られていない。木綿、麻の布地はまだまだ高価な代物だったからだ。量産され下々に行き渡ったのが、江戸時代と言う訳だ。なので褌のある無しで、戦国時代は死体の身分がわかったと聞く。
そしてもっこ、こちらは下着のラインが出ない為、歌舞伎役者が身につけると聞く。そして有名ところの、越中ふんどし。
前に四角い垂れがあるやつ、これは越後藩主が広めたとか、大阪の花魁が片袖を切り落とし、お客に褌に使ってくんなましと、手渡したやら、諸説がある。
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「おいコラ!そんなに飲んでトイレは大丈夫なのか!」
「えー!先生、熱中症予防ですぅ、トイレ?コンビニとか、道の駅とか寄ってくれれば大丈夫ですよ。先生」
葉子は運転席の雇い主である『祓い屋、安倍野 清』が道を聞くために立ち寄った、鄙びた峠の食料品店で仕入れた『榊サイダー、ときめき恋味』を飲みながら話す。
おい、お前、この状態でコンビニ?道の駅?無いだろと、彼はいつもの事だなと思いつつ言葉に出さずに、ハンドルを切りる。つづれ折りのカーブが深い『袖切り峠』の山道を進む。
時々にゴツン、コッ!タイヤが石に乗り上げ、窪みにハマる、ガタガタと車体が上下に左右に揺れる。窓の外はおどろに繁った緑が迫る。
……はうう!トイレって言うから行きたくなっちゃった!考えちゃいけない、いけない、いけ……行きたい、はうぅ……。
眉間にシワを寄せ、無言で窓の外を見る事で気を紛らわせる葉子。ギッ!ガタ……大きく前後して車体が止まる。誰も通る人間などいない山道。はて?どうしてこんな所で?葉子は真剣な表情をして、自分を見てくる運転席の彼を見る。
……!きゃっ!もしかしたらもしかするのかしら!さっき飲んだサイダーが、まさかの恋心伝える効果があるとか!勝負おパンツ(紐パン)で良かったぁ!あ!上が違う!お揃いにしとけば良かった!
尿意を忘れてあらぬ妄想が広がる葉子。
「……降りろ」
「え!先生まさか!そ、外で!それはもう少し、経験値を積んでからと思ってるのです!」
「何を言い出す?トイレをさっさと済ませてこい!」
「はうう……!先生!私のトイレが何故にわかるのですか!はっ!もしかしたら私達、気持ちは既に一心同体とか!」
そんな事は無い!もじもじするから分かるんだよ!とっとと山の中で済ませてこい!漏らす気か!一喝された。
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すっきりとした葉子が車に戻り、進む事しばらく……。二人はこの日の目的地に到着をした。
「ふぃ〜、涼しいですね、先生、あれ!やだ!Tシャツの袖!方っぽ無い!さっき何処かで引っ掛けたのかな……、あーんタンクトップにすれば今頃、先生にラッキーな事があったのにぃ!」
ドアを開け車から降りようとし、葉子は異変に気が付いた。左袖が無くなっていたのだ。片方だけノースリーブになっている。そのままでは流石に不格好なので、残った右をくるくる折りたくしあげる。
「は?肩紐切れたくらいでどうって事無いだろ……、しまった!」
「ありますぅ!一応ありますぅ!何がしまったのですか?あ!チャンスを、ふいにしたからとかぁですか!もう、先生ったら」
『袖切り峠では下りちゃいかんよ、片袖切られるっちゃ、そう言われとる』
食料品店で言われた事を清は思い出していた。
『ほほう、神主さんに頼まれちょったと?ほいじゃ!いよいよか……、いやぁ!ようやくか!それは何よりこれで神主さんも麓に来れるけぇの』
清にあげな所に?と聞いた店主に、向かう理由を話すと、顔を綻ばせて喜んだ。
――、本来ならば断りたい依頼だったのだか、神事と言われ、少しばかり高めな金額を提示されれば、引き受けざるを得ない。
「で!どんな依頼なのですか?」
「……、役に扮した巫女さんから、手渡された品を俺が身につける神事だそうだ」
「はい?巫女さんって……この神社いるんですか?どう見てもお年寄りしかいなさそうですよ。ほらほら神主さんもおじいちゃんですよ!」
ようこそ、この度はありがとうございますと、年老いた禰宜が二人を出迎えた。ささ、暑いのでこちらでお茶でもと社務所へと誘う。
「いやぁ!若いお嬢さん!それに安倍野様もいや、なかなか……、楽しみですなあ、あ!これは麓に住む村長さんからで御座います」
村の特産だと言う、桑の葉茶に桑の実ジャムが乗せられた蒸しパンを出され、早速パクつく葉子。清は差し出された謝礼の袋を、一礼の後受け取った。
「?せんふぇい、わらひがまふかのひこはん?」
「飲み込んでから聞け!」
「そうで御座います。ようやく見つけた手頃なお二方により、封じ込めの儀式が滞りなく出来ますよ。ああ……ようやく山を降りられる」
「はぁ、そうお伺いしておりますが……これも食べなさい」
ふきゅあふ!ひこはん!はぅ!ごくん、先生食べてもいいのですか!葉子に自分の菓子皿を差し出し、口を塞ぐ清。
「ああ……、ようやくお似合いのお二人が、何しろ条件が揃う二人でないと、完全なる封じ込めが出来ない、なのでこれまでは哀れな御霊を、選ばれしイケメンが神主役につき、日々の祝詞で鎮めて……、しかし私の後がおりませんのじゃ……過疎化ですなあ」
「今迄適当な巫女はいなかったのですか?」
「何回か試していたのですがね、完全なる気のない男と、惚れてる女でないと上手く出来ないのですよ。しかも未婚!年の差カップルが決まりで御座いましてな、それに袖切り峠をキャンプ地にしようと計画もあり、今のままでは霊障があり、ままなりません」
禰宜は葉子の切り取られた片袖に目を向けた。
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ふおぉ!何でどうしてぇぇ!胸に詰め物されてるしぃ!
「そやかて……無いから仕方あらへん」
神事の手伝いに集まった村人達、葉子の用意を手伝う老婆の一人がつれなく話す。
「ふぇ!何でおばあちゃん達は大きいのお!」
「そりゃ、若い時からじいさんに……、チッパイねえちゃんも彼氏に育ててもらえ」
ふえっふえっふえっ!ゆさゆさと、メロンサイズを揺らし笑う老婆達の中で、小袖を着せられた葉子はむくれていた。
「巫女さんって聞いたけど、袴じゃないの?で、私は何するんだろ?おばあちゃん達はしってるの?」
「ああ、知ってるとも、こう見えても巫女さんやった事ある、昔話の役を演じるんじゃ、お姉ちゃんは袖を切り取って、彼氏さんに渡したらええ」
片袖切って?昔話。それはどんなの?葉子は老婆達に聞く。
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むかぁし昔な、ここに峠のお茶屋があった。旅人を泊めたりした。もちろん、飯盛女はおったのじゃ。ああ、飯盛女ってのは、夜は別料金で、自分もどーぞーなお仕事もしてたんじゃな。
ある日のこと、その茶屋になんともイケメンな旅の陰陽師が立ち寄ったのじゃ。何時もなら惚れたはれたは無い飯盛女が、ひと目で恋に落ちたんじゃと。しかし相手は次の日には出立してしまう。なのでな。
「想いの縁にこれを……」
営業してもおとせなかったイケメン陰陽師のお客に、せめてもと、自分の衣の片袖を切り取り、腰紐を一本添えて、褌に使って下さいましと手渡したそうじゃ。
しかし相手は女の想いなどガン無視してな、差し出されたソレをそのままにして行ったそうじゃ……。女は哀しゅうて哀しゅうて……そのまま病に付して死んでしまったのだ。いまわの際に
『私の手渡した……褌を身に着けたあのお方が見たい』
それからじゃな、哀しゅうて哀しゅうて、女が土饅頭から彷徨い出て、峠を通る人の袖を方っぽ落とす様になったんは。
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「きゃぁぁぁ!そうなのですか!うふふ!えへへ、おばあちゃん、携帯って持ってます?そしてこの後の神事って見るんですか?」
「バッチリ持ってる!この山、最近基地局ができてな、電波4G!ビンビン!だからキャンプ場の計画があるっちゃ」
きやぁぁ!フォト撮って私に送信してください!えとえと!アドレスアドレス!交換が始まる一室。
「デヘヘ、私が渡した袖を褌にして先生が褌……もちろん!おばあちゃん、『それ』だけですよね!」
当たり前じゃろ……、くひひひ、ねえちゃん楽しみじゃのぉ。
老婆が笑う。
「うふふ、きゃぁぁぁ!素敵ぃぃ!生着替え!」
葉子が奇声を上げていた。
しかし葉子は彼女らしく気がついていない。公衆の面前で生着替えはご法度だということに。なのでちゃんと先生は、水着着用だということに。
ちなみに老婆達は若いイケメンの、水着姿に憧れているのであーる。
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終わり。
イラスト:サカキショーゴ氏
本文:秋の桜子氏




