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金が欲しい祓い屋と欲望に忠実な女子校生  作者: 暮伊豆


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62/90

魑魅魍魎の宴

「おお祓い屋ぁ、持って来たでえ。シュテンさんもお気に入りじゃった酒『大江山』じゃあ。まあ飲めっちゃ。」


「こいつは旨そうですね。いただきます。」


一升瓶を一気に飲み干す鬼村。茶碗に注がれた酒を一口だけ飲む清。


「ぷはー! こいつぁこたえられねぇでや! のぉ祓い屋ぁ?」


「ええ。きれいな水、卓越した職人、そして最高の米。三拍子揃った名酒ですね!」


清はそこまで酒に詳しいわけではない。ただ旨いか不味いか自分の好みがあるだけなのだ。だから適当なことを言って鬼村の機嫌をとろうとしているのだ。


「おう肴がねぇぞ! 何か作れや!」


「はーい、待っててくださいねー。」


鬼村に向かって自分で作れ、なんて言えない清である。先ほどの鍋を釜戸にセットして、猪の脂を溶かす。その後そこらの野菜や肉を適当に投入。

薪の炎なので火力は安定しないが、鬼村が味にうるさいはずもない。適当に濃いめに味付けをしておけば文句も出ないのだ。




「はーい、お待たせしました。猪脂の肉野菜炒めでーす。」


「おお、旨そうじゃのぉ。それより祓い屋ぁ、あの女子(おなご)ぁ料理もできんほか? 風呂も炊けんようじゃったでぇ?」


「さあ? どうなんですかね? こんな五右衛門風呂を炊ける現代人なんかいませんよ? だいたい鬼村さんだって薪なんか使ってないじゃないですか。鬼火で風呂沸かしてるくせに。」


「当たり前じゃあ。ちんたら薪なんか()べちょれるかいや。おめぇみてぇなちんまい霊力と一緒にすんないや?」


一流半の霊能者と長命の鬼。力の差はあまりにも残酷だった。

それでも、使いもしない薪を用意しておいてくれる鬼村は……




一時間後。清の周囲には魑魅魍魎が溢れていた。一室を埋め尽くしており、みんなそれぞれが持ち寄った酒や何か得体の知れないものを食べている。人間のような姿をした物もいれば、明らかな異形もいる。火の玉のような物もいれば犬のような物もいる。


「はらいやぁぁぁ……」

「飲んじょるんかぉぉぉ……」

「ワイの酒が飲めんほかおぁぁあ……」

「うちぃきて遠慮すんなぃやのぉぉぉ……」


「あのおなごくってええほかぁぁぁ……」

「うまそうじゃあ……」

「ぴちぴちしちょるでぇぇ……」

「軟骨んとこがうめぇんじゃあぁぁ……」


「あいつを食べたら腹壊しますよ。やめてくださいね。」


清がここに泊まると大抵こうなる。だから清はここが嫌いなのだ。なるべく日が暮れる前に帰っていたのだが……


「おう祓い屋ぁ! なんか芸ぁねぇんかぁ芸見せれぇ!」


鬼村の酔いが回ってきたらしい。清には茶碗一杯しか注いでないくせに、自分は一升瓶どころか樽を空けてしまっている。


「芸ですか? うーん。では毎度バカバカしい小咄を1つ。あるところに鯨の夫婦がいたそうです。その夫婦はとても子供を欲しがっていたのですが、何年経っても子供を授かることはありませんでした。なぜかって? 鯨は(げい)だからです。」




辺りは鎮まりかえっている。どの魑魅魍魎も一言も発しない。みんな鬼村の一言を待っているのだ。なぜなら誰も理解できなかったから。


逆に清は焦っていた。魑魅魍魎どもに合わせて百年以上前の古典的な小咄をやったのに。22世紀においては同性間でも子供は作れる。このネタは大昔、同性間での子供が作れなかった時代のテクノロジーが未熟であることと、太古の駄洒落をあざ笑う鉄板ネタなのに。



「おう、祓い屋ぁ……ゲイっつぅのは知らんがのぉ、おめぇが言いてぇんは衆道のことかぁ? おお?」


「ああ、そうですそうです。それです。」


「なるほど。鯨にぁ衆道の嗜みがあったんじゃのぉ。知らんかったわい。おめぇ人間のくせに物知りじゃのぉ。」


「あ、はは。いや、それほどでも。」


鬼村が称賛したことにより、他の魑魅魍魎もやんややんやと拍手喝采だ。清としては笑って欲しかったのだが。やはり人間と魑魅魍魎ではセンスが違うのだろう。


その後、鬼村も『この頃都にはやる物』つまり『二条河原の落書』を題材にしたあるあるネタを披露したのだが、狂都(きょうと)の鬼あるあるだったため誰も理解できず、清だけが「さすが鬼村さん! いよっ、さすおに!」などとお追従を述べた程度だった。鬼村の酔いはますます加速し、いつもの愚痴モードへと突入していった。


「じゃけぇワシぁ言うたんでぇ!? 短気をおこしてはなりませぬってのぉ! でものぉ! シュテンさんもイバちゃんも! ワシの言うことなんかなーんも聞きゃあせんほいや! ゆぅたんでぇ!?」


「大変でしたね。」


「じゃろうがよ? ワシほど冷静で理知的でイケメンな鬼なんかおりゃせんでょ? ワシが西狂都に来たんもシュテンさんが帰ってくる場所をキープしちょくためなんでぇ? なほにあのオッさんときたらよぉー、っとによぉー!」


「大変ですよね。」


「イバちゃんもよぉ? ひでぇんじゃけぇ! ワシが一生懸命シュテンさんを宥めちょりよるほによぉ? あいつ一緒になって暴れるんじゃけぇ! ワシみたいな優しい穏健派ばーっかり割りぃ食うんじゃけぇのぉ!」


何十回と聞いた話に同じ返事をする清であった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いやー、鬼村さんのグチりっぷりが最高ですね。 イバちゃんて(笑)。 でもイケメン、て(笑)。 ええ味出てますわー。 ……いや、清の作ったつまみのことじゃないっすよ? ちなみに、ぼたん鍋…
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