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旅立つ清

宴会の翌日。

HASAの職員も宇宙飛行士も二日酔いに悩まされていた。仕方がないので魔女レアリーは酔い覚ましの呪法を行使していた。


「いいかお前ら! 気合だ! 気合があれば呪いにも勝てるんだ! 希望のアダマスが何だ! 現代科学は呪いにも勝てるってことを見せてやれ!」


「勝ってくるであります!」

「ニイトガ山登ります!」

「鬼畜呪法打ちてし止まん!」

「ここはお国を何万キロぉぉー!」


レアリーはやたら気合が入っている。宇宙飛行士達も同様だ。




『ZZR-1300Aロケット。発射、1分前』


とうとうカウントダウンが始まった。


「魔女さん……」


「覚悟を決めろ。もうどうにもならん。せめて呪いが、被害が少なくなることを祈っておけ。」


『30秒前』


今のところ異変はない……


『10秒前』


『5』


『4』


『3』


『2』


『1』


『点火』


………………

…………

……


「どうなっている……! 液体四重水素と液体五重酸素を太陽光のエターナルマテリアル化現象により、超反応させることで、旧来のロケットより数十倍もの推進力を得ることができるのではなかったのか!」


ゲンジ・コンツェルンの総帥ヒカル・ミナモトが苛立たしげに言い放った。


「え、ええ……そのはずなのですが……」


正式名称をZZR-1300A、通称ジージーと呼ばれる機体、エンジンから全く火が吹かないのだ。これが呪いなのか。呪いと呼ぶにはあまりにも小さい……


「ギャーッハッハッハ! まさか離陸すらしないとはなぁ! やはり現代科学では呪いには勝てんのだ! 被害が出なくてよかったではないか! さあ、まだ遅くはないぞぉ! ダイヤを外に出せ! それから改めて発射するがええ!」


ヘイケ・コーポレーションの総帥、モーリー・タイラーがここぞとばかりに煽る。


「ぐぬぬぬぬ……待てぇい! この程度のトラブルなど日常茶飯事だぁ! 宇宙事業とは前代未聞のトラブルがあって当然なのだ! それを我々は知恵と勇気で乗り越えてきたんだぁ! 原因なぞすぐ判明するわぁ! ちぃと待っておれぃ!」




再点火は二時間後と決まった。希望のアダマスは依然として機内に存在する。


「魔女さん、どう思います?」


「さあな……私にはあのダイヤがお前から離れたくないと泣いているように見えたがな……」


「ダイヤが泣くんですかね……」


「知らん。」





そして慌ただしい2時間が過ぎ、再びカウントダウン。


『ZZR-1300Aロケット。発射、1分前』



『30秒前』



『10秒前』


『5』


『4』


『3』


『2』


『1』


『点火』


………………

…………

……


やはりエンジンに点火しない。負けたのだ。

現代科学が呪いに負けたのだ。


「ヒカルよ、これまでだな。これに懲りたら少しは神仏を敬うのだな。」


呪いと神仏は関係ないのだが、モーリー・タイラーは得意げに説教を始めた。


「清、お前がロケットに乗りこんでダイヤを回収して来い。それが一番無難だ。」


レアリーは有無を言わせない。


「はあ、まあ行くしかないですよね。あーあ。」


清はせっかく希望のアダマスを手放せる機会を失い残念そうだ。




本来なら民間人が立ち入れるはずのない宇宙船内部である。しかしこの後に及んではそうも行かず、清を内部に案内した。


「発射直前のロケットって向きが垂直だから歩きにくいかと思えばそうでもないんですね。」


「最新鋭の重力制御システムがありますからね。どちらを向いても普段通り生活できますよ」


現代科学とはすごいものだ。


「さて、ここです。あそこに置いてあります。鍵はこれです」


「はいどうも。そのうち呪いも科学で解明される日が来るんですかねぇ。」


「はは……どうなんですかね……」


最新科学の塊であるこのロケットが呪いに負けたのだ。いかな宇宙飛行士と言えど平静でいられるはずがなかった。


そして清が嫌々ダイヤを回収し、懐に納めたとき。異変が襲った。


先ほどまで全く反応のなかったエンジンが突如動き出したのだ。


「管制塔! どうなっている! 発射したのか!?」


『分からん! 勝手にエンジンが火を吹いているんだ! 総員! 離陸に備えてくれ!』


「ふざけるなぁーーー!」


船内も船外も大慌てである。そしてZZR-1300Aロケットは飛び立ってしまった……清の命運は如何に?




「おいモーリー。清はどうなる? それ以前に定員が一人増えてロケットは大丈夫なのか?」


「大丈夫なわけあるか! ロケットってのはグラム単位で重量を計算して作られておる! そこに予定外の人間一人分の重さが加わってみろ! 大気圏を脱出できるかどうかすら怪しいわい!」


「だろうな。その割には……大気圏を抜けたようだぞ。このまま火星に行くのか?」


「行くしかあるまい……唐沢の弟子は船内でこき使ってやれ。のうヒカル?」


「そうするか……しかしあの男、そこまでダイヤモンドに好かれているとでも言うのか?」




なお、清が地球に帰ってきたのは1ヶ月後のことだった。

呪いのダイヤ編はこれにて終了です。

次回からまた日常が始まります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさかこんなオチだったとは! これは笑えます!! 発想元は違うかもしれませんけど、今回のエピソードのノリで、現代医学が口癖のプロレス技を使う医院長を思い出しました(笑)
[良い点] ……さすが巨匠! まさかの超展開! しかしよく帰ってこれたな……! これもある意味ダイヤパワー……? でもって、冒頭の、「打ちてし止まん」とかの気炎が最高。 こーゆーのがさらっと出てく…
[一言] 意外な展開でした!! ビックリした!!! 凄いな~、暮伊豆さん……(´・ω・`)
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