東の魔女 VS 西の魔女
「おーやおや? つるぺたストーンの守護者じゃないかぇ。よく迷子にならずにここまで来れたものよのぉ。」
「あー臭い。清らかなこの身と違って性根のひん曲がった化け狐の腐った臓腑が匂って敵わん。あんまり臭いんで迷わず来てしまったぞ。」
「プッ、清らか? 誰にも相手にされてないだけじゃないかえ?」
「お前のように誰とでも寝る節操なしとは違うからな。」
「笑止よのぉ、 妾が寝る男は王になる男だけよ。のう清?」
「なにぃ! 清ぃーー! お前ってやつはぁーー!」
「いやいや魔女さん、身に覚えがありませんよ。そして会長、あんまりからかわないでくださいよ。」
清は冷静に返答したが、内心では自分を巻き込むなと悪態をついていた。他所でやってくれと。
「ふっ、揶揄ってなどおらぬぞ? どうじゃ? 妾と寝てみるか?」
「清は昨日私と寝たんだからな! そりゃもう激しい夜だったんだぞ!」
嘘はついてない。
「本当に寝ただけじゃないですか。確かに激しい夜でしたし。という訳で会長、いずれ修行をお願いに行くかも知れませんのでその時は添い寝してやってください。」
「なにぉー! だめだだめだ! こんな奴に習ったら傾国されるぞ! 修行ならこのレアリーさんがつけてやるー!」
「傾国されるって何ですか……だいたい魔女さんと私じゃ系統が違いますよね。」
「清の力は霊力、それにひきかえ其方の力は魔力。無茶を言うものではないぞぇ。」
超常の力にもいくつか種類がある。霊能者である清は霊力、魔女であるレアリーは魔力を源として霊能、あるいは魔術を行使する。そして葛葉の力は……
「ぐぬぬぬぬ! おいモーリー! 酒だ! 飲むんだろう! どこで飲むんだ!」
どうやらレアリーは口では葛葉に敵わないらしい。あちらには清の師匠を指導した実績もあるのだから。
「こっちだ。まさか来るとは思ってなかったがのぅ。それでもワシ用に用意しておいた酒を少しぐらいなら分けてやる。」
「葛葉先生も飲まれますかな?」
ミナモト総帥が問いかけるが葛葉は……
「飲みたいのは山々じゃがのぅ……妾とて暇ではない。そこの絶壁と違うての。くれぐれも呪いを甘く見るでないぞ? すでに遅いかも知れんがの。ゆめゆめ忘れるで……」
そう言って葛葉は煙のように消えてしまった。
「はーっはっは! 洋酒が怖くて逃げやがったー! ケバケバデーハーくそ女ー! デカ乳お化けー! 悔しかったらウイスキー飲んでみろー!」
「ところで魔女さん、いま会長が使ったのはどんな術なんですか?」
清が気になるのも無理はない。人一人が密室からスッと消え去ったのだから。
「あー? ただの隠形の術だぞ? ほれ、実はまだそこにおる。」
「えっ!?」
バッと振り向く清。
「うっそぴょーん。本当は転移の術だ。多分ここの屋上にでも転移したんだろ。そこから飛んで帰るみたいだぞ。いや、違うな。南に向かってる。バカンスにでも行くんじゃないか?」
「転移……ですか? もちろん魔女さんもできるんですよね?」
「当たり前だろ。昨夜お前に印を付けておいたからな。それを辿ってここまで転移してきたんだ。いきなりここに転移しちゃあ悪いからドアの外にしたんだぞ? あんな女狐より気が利くだろう?」
「はは……」
魔女と並び称される二大女傑の力をまざまざと見せつけられた清。言葉が出るだけマシかも知れない。他の面子は押し黙ったままなのだから。
所変わって飲みの席。
HASA自慢の大食堂である。職員もいれば明日宇宙に旅立つ宇宙飛行士もいる。
「そんでぇ? お前は宇宙に行くのは何回目なんだぁ?」
レアリーはすっかり上機嫌で宇宙飛行士に絡んでいる。見た目は年端もいかない少女だが、日本を代表する二大企業のトップが気を使っていることから超VIPだと誤解している宇宙飛行士達。
「はっ! 私は二回目であります!」
「私は四回目です! 火星航路は初めてです!」
「私は十回を超えております。キャプテンなんか五十回超えですよ。」
「おおーそうかー! やっぱり地球って青いのかぁー? あんまり地表を離れるとマナが切れるから不安だよなー!」
「まな板が切れる? 宇宙では刃物は使わないであります!」
「まな板のカープ! いつも出発前夜はそんな気持ちです!」
「酷島東洋カープ! カープ! カープ! 日本一ぃぃーー!」
「日本一は砕魂リカオンズに決まってるだろぉー!」
「カープ! カープ! カープ!」
「まな板カープ! まな板まな板まな板ぁー!」
「まな板つるぺたストーンズぅー! 日本一ぃぃーー!」
「清ぃー! おかわりだぁー! 酒や酒や! 酒持ってこぉーい!」
会話は成立してないが誰も聞いてないし気にしてない。出発前夜の宇宙飛行士に酒を強要した魔女レアリー。
果たしてこの行動に問題はないのだろうか……
なお、清は常盤の隣をキープして離れない。
ボビー・タイラーは片隅で忙しく電話をしている。
モーリー・タイラーとヒカル・ミナモトはお互いに延々と自慢話をしている。
明日の昼前、ZZR-1300Aロケットは発射される……