子種ヶ島宇宙センター
ヘイケ・コーポレーションのプライベートジェットに乗り換えて子種ヶ島へ。
およそ1時間で到着。そこからはタクシーで日本航空宇宙局、通称HASA(ハサ、Hinomoto Aeronautics and Space Administration)の基地まで移動する。
「あれだ。あのロケットに『希望のアダマス』を乗せる。」
「はぁー、大きいんですね。こんな近くで見たの初めてですよ。」
清が目にしたのは所謂スペースシャトル。正式名称をZZR-1300A、通称ジージーと呼ばれる機体である。
液体四重水素と液体五重酸素を太陽光のエターナルマテリアル化現象により、超反応させることで、旧来のロケットより数十倍もの推進力を得ることができる。と、秘書の常盤より説明を受けたが、清に理解できるはずもない。水素と酸素ぐらいは聞き取れたようだ。
それからとある一室へと案内される。中にいたのは二人の老人と一人の女傑だった。
「会長……」
「おお、来たかえ。久しぶりじゃ。死津喪での総会以来よのぉ。元気にしておったかえ?」
全国陰陽連合会会長の葛葉 玉子であった。清の師匠、唐沢の師にして見た目は30代前半という魔性の女である。
「お久しぶりです。変わりなく過ごしております。本日はどうされたのですか?」
「そこのヒカルからの、宇宙船に『希望のアダマス』を乗せると聞いたのでな。忠告に来たまでよ。のぅヒカル?」
「葛葉先生には敵いませんな。今時呪いのダイヤなどと言われましてもね。それで、君が持ち主かな?」
ソファーから立ち上がったのは歳の割には筋肉が付いていそうな老紳士だった。
「邪魔口で祓い屋をしております、阿部野 清と申します。ゲンジ・コンツェルンのミナモト総帥でいらっしゃいますね。お目にかかれて光栄です。」
「おい、唐沢の弟子。お前はどう思う? 危険を感じぬのか?」
座ったまま話しかけてきたのは痩せた老紳士だった。しかし雰囲気は鋭い。
「危険しか感じませんよ。私も葛葉会長と同意見です。ロケットが爆発するぐらいで済めば幸運かと。」
「ふ、密閉すればいいではないか。核シェルター並の金庫にでもな。」
ミナモト総帥はそう言うが……
「過去に金庫にしまったことはあります。さすがに核シェルター並では有りませんが。」
スペースシャトルに載せる物はグラム単位で軽量化に拘ると言う。それを軽々しく金庫などど。そんな他社のトップを目の当たりにしてボビー・タイラーは内心にやりとしていた。東のゲンジもその程度かと。
「私としてはこのダイヤを手放せるなら何でもいいんですが、さすがに目の前で沢山の人が不幸になるのは辛いですよ。タイラーさんもそう思いませんか?」
突然話を振られてもボビーは動揺することなどない。
「私もそう思う。ミナモト総帥よ、どうか考えなおしていただけないか?」
「ほれほれ、だから言っただろぉ? わざわざ危ない目に遭うことはない。世の中には目に見えぬ危険がいっぱいだからのぉ。」
痩せた老紳士が得意げな顔でミナモト総帥に忠告している。いや、煽っているようにしか見えない。
「おじいさん、ミナモト総帥を煽らないでくれ。危険なのはお分かりだろう?」
ボビーの祖父。そう、痩せた老紳士はヘイケ・コンツェルンの会長、モーリー・タイラーであった。
「何を言っても止まらんわい。なあヒカルよお?」
「当たり前だ。すでに搭乗スペースは確保してあるしな。さて、この箱に入れてもらおうか。」
ミナモト総帥が取り出したそれは小型の金庫だった。
「マラアナ海溝の超水圧にすら負けぬ耐圧性! 原子炉に放り込んでも内部で温度変化が起こらぬほどの耐熱性! その上いかなる放射線も通さぬ超圧縮プラズマ白鉛鋼合金! これに入れてしまえばどんな悪霊とてどうにもなるまい?」
「ほう? ヒカルめ、面白いものを作ったのぅ? まあこれ以上言っても無駄のようじゃし……どうじゃ清よ。そなたのダイヤモンド、預けてみるか?」
「これはすでにタイラーさんに譲る約束になってますので、私の意見はありません。タイラーさん、どうしますか?」
「よくはないのだがな。おじいさん? どうする?」
「ワシは反対に決まっておるだろ。もう知らんからな。では唐沢の弟子よ、その金庫にダイヤを入れてやれ。ヒカル、金庫を閉めるまでダイヤに触るでないぞ!」
「モーリー、お前は本当に心配性だな。だからそんなにガリガリなんだ。」
老紳士二人の会話を横目に清は金庫に希望のアダマスを納めた。
「よーし、いいだろう。打ち上げは明日の昼前だ。見物していくよな? 葛葉先生もぜひどうぞ。」
その時、突然ドアが開いた。
「んん? この部屋は臭いなぁ? 無駄に若作りした女狐の匂いがするぞぉ?」
現れたのは白井 稀子こと魔女レアリーだった。あと5年寝るのではなかったのだろうか。




