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夜の共同作業

「と、まあそんな訳で緊急の仕事だ。時給は普段の5倍。成功報酬は別途10万。どうする?」


「絶対やります! 先生と2人きりで夜の除霊! 何も起こらないはずもなく!」


「葉子、チャンスよ。分かってるわね? 夜目遠目傘の内よ。」


「うんママ! 嫁と生め幕の内ね!」


この母子は一体何を言っているのだろうか。さっぱり理解できない清と葉子パパであった。




時刻は午後7時前。今から突貫で仕事を片付けなければならない。タイムリミットは明日の朝7時。きっかり12時間後だ。




「行ったぞ! そいつを逃すな!」


「きゃぁぁ! キモいキショい臭い! キャアキャアー!」


葉子の眼前に迫るのは見るもおぞましい異形の化け物。


「そいつを逃すな! 体で押さえ込め!」


「ええ!? せんせぇ私に枕営業しろって言うんですかぁ!?」


「打ち合わせ通りにやれぇー!」


「はいぃ!」


清にも余裕がないようだ。


「ぎゃばぁぁあせんせぇ臭いですぅ!」


「そのまま15秒!」


「うえぇぇーん! せんせぇのばかぁ!」




『悪霊退散不浄調伏』


『おぉおおおのおぉぉれぇえええ……すぅぅいぃいせぇええんんんんん……』


異形の化け物は消え去った。悪臭も嘘のように消えていった。


「あー、臭かった……何ですかあれは? 妖怪なんですか?」


「いや、悪霊だ。あいつのせいでここの改装工事ができなくてな。さあ次だ。」


異形の化け物はトイレの悪霊。それも大昔の遺物、汲み取り和式トイレだ。100年以上前、集落で周囲が全て水洗トイレに改装したにも拘らず、頑なに工事を拒んだ家主の成れの果てだ。

死因はトイレ内で倒れて便器に頭を打ち付けたこと。汲み取りトイレ内に落ちて窒息死しなかっただけ幸せかも知れない。しかし悪霊になるまで誰にも気付かれなかったのは……

近所付き合いは命に関わるどころか、死後にも、来世にも関わるようだ。はたして悪霊と化してしまったものに幸せな来世はあるのか、清も知らないことである。





「ぬべえぇぇえーー! 怖い怖い怖いよぉーー!」


「怖くてもいいから動くな! 何のための結界だ!」


葉子の眼前に迫るのは奇妙な髪型と服装をした若い男の悪霊。肩や顔をくねくねさせて上から下から葉子を睨んでいる。


『オンドレったらッカンドぉ? ッゾあコラおぉ?』


その悪霊の服装はおそらく学生服。いわゆる学ランと言われるタイプのようだが、コートのように長く襟は高かった。またズボンもやたら太く折り目が片足の前部だけで3つもついていた。足はないため靴は見えないが、ズボンのポケットに手を突っ込み、何やら呪詛を唱えているようだ。


『オマどこチュウじゃコラおお? ナメッたらブッパらさりンドッテンダぁ?』


「ぎゃぁあ呪われる呪われるぅー!」


「結界があるっての! もう2分!」


「ぎゃばぁぁあせんせぇ早くぅ! でもアレは早くない方がいいぃーー!」


『オドレっぞあコラぉおおぉ!? ジョトだコォラブッチぎるッテンダろオラぁ!?』



『天魔覆滅悪鬼調伏』


『ぬゴオォォワーポリころォォーす……』


「うえぇーんせんせぇ怖かったよぉー!」


抱きつこうとする葉子にいつも通りのアイアンクロー。


「次行くぞ。」


「ええ、次イキましょう!」



そんな調子で夜通し除霊を続ける二人。中学生を真夜中まで働かせる、完全に労働基準法違反である。いや、それ以外の様々な法律をぶっちぎっているのではないか?


そして夜明けまで残り2時間。ついに最後の現場に到着した。


「せんせぇ……私もうだめです……眠くて……せんせぇの熱いアレがないと……」


「そんなに欲しいのか?」


「欲しいです! 今ください! すぐください!」


「はいこれ。」


清が手渡したものは?


「それ飲んだら行くぞ。」


熱いコーヒーだった。


「どうせそんなこったろうと思いましたよおおおぉぉぉぉーーー!」


「俺が淹れたんだぞ。ヤンディリードエグゼクティブキリマンジャロモイスチャーマウンテンブレンド。味わって飲めよ。」


「ヤンエグってやつですね。せんせぇらしいですね。」


その間に清は準備を整える。


「よし、全部飲んだな?」


「飲みましたよぉ。苦かったです……まるでアレみたい……」


「今度は結界なしだ。近付いて来る悪霊がいたら片っ端からこのお札を貼ってやれ。貼るだけでいい。」


「ええぇ!? 悪霊にお札を貼るんですかぁ!? そんなの無茶ですよぉ!」


「コーヒー飲んだろ? 一口5000円はする高級ブーストコーヒーだからな。体が熱くなってきた頃じゃないか?」


「なんですかブーストコーヒーって!? あ、ホントだ……体が熱いです! これはもう先生に責任をとってもらわないと!」


「ロウソクの火を消す特訓を思い出しながらお札を貼るんだ。分かったな?」


「はーい。私に火をつけた責任とってくださいよぉ……」


「火をつけた あなたの心に 火の用心って言うもんな。さあ、来るぞ! 気を抜くなよ!」


前方から、いや前後を問わずあらゆる方向から悪霊と思しき何かが二人に迫ってくる。


『不浄調伏魑魅瞰食』


清は何やら呪文を唱えながら黒い棒を振り回している。正式名称は『極楽精神注入滅殺昇天棒』通称『黒棒』である。


清が黒棒を一振りするごとに何体かの悪霊が消え去っていく。


葉子も必死にお札を貼り付けている。

「うりゃぁたー! おりゃー! ぎゃぁぁー! うひぃー! ふんぬぁー!」

変な声を出しながら。


「残りのお札は何枚だ!?」


「うひぇ! あぬん! えっと……10枚ぐらいです!」


「使い切ったらすぐ言え! これを渡す!」


「はひぇ! 分かりましったぁ!」


悪霊の数は一向に減ったように見えない。お札の残数、清の体力霊力は大丈夫なのだろうか?

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