煙魔と亀津、あと社長
扉をノックする清。すぐに現れる煙魔。
「なんじゃ祓い屋かぁ!」
「どうも煙魔さん。先日の件、できる人間を連れてきましたよ。」
「ほーか、まあ入れや。」
茶室風の部屋へ案内された4人。
「まあ飲めや。」
煙魔からお茶が勧められる。
「こ、これは!」
亀津が1番に声をあげた。
「おいしいでしょ? どうですか、商売になる味ですか?」
「なる! なります! この味と私の経営能力があれば! 繁盛間違いなしです!」
「では詳細は煙魔さんと詰めてくださいね。私はカフェの経営なんてさっぱり分かりませんので。」
亀津はかなり張り切っているようで消費者購買行動がどうとか、市場分析がどうとか煙魔にとっては意味不明な言葉を連発している。
清と葉子は外に出ている。
「うまくいくといいですね!」
「ああ、そうだな。こんなきれいな庭園にゴミを捨てる奴らが増えると思うと複雑だがね。」
「うーん、どうしたらみんなゴミのポイ捨てをやめてくれるんですかねー?」
「いや、ゴミのポイ捨てそのものは問題ないさ。ここにゴミを捨てても翌朝には自分の枕元に返されるだけだから、俺が気にしてるのは、そんな愚かな奴らにこの庭園を見せる価値なんかないんじゃないかってことさ。」
「うーん、よく分かりませんよ。でもせっかくこんな所で2人っきりなんですから、腕ぐらい組んでもいいんじゃないですかぁ?」
「こうか?」
清は自分の両腕を胸の前で組んで見せた。
「もぉー! せんせぇーのバカー!」
追いかける葉子に逃げる清。これは紛れもなく青春の1ページと言えるだろう。
本気で逃げたような清を見失った葉子。薔薇の迷宮庭園で迷子になってしまった。
「せ、せんせぇー……」
「いるんですよね? そこらで私が慌てて蓋めりっとやって取り乱してトリミングするのを見てるんですよね?」
「うわーん、せんせぇー……」
「こーなったらもー……薔薇のトゲを全部抜いてやる! そしてまっすぐ突っ切ってやるもん!」
「あ、でもトゲって危ないから遺書を書いておかないと……トゲなくて死す……ぷぷっ」
「見つけたぞ。こんな所にいたのか。」
「うわーん! せんせぇー! 会いたかった寂しかった怖かったよぉー!」
抱き着こうとする葉子をアイアンクローで止める清。いつも通りだ。
「ところで、トゲなくて死すって何?」
「いやー、古文の授業で何かそんなの習ったんで言ってみたくなっただけですよー。」
「ふーん、ほら、帰るぞ。付いて来いよ。」
「はーい!」
煙魔の屋敷では打ち合わせが終わったようだ。
「どうやら終わったようですね。それでは契約といきましょうか。文面はあれですね?」
「おぉ、あれでえぇでぇ。」
「バッチリです。」
煙魔も亀津も納得しているようだ。
「では書き写しますので、少々お待ちを。
何やら怪しげな文字や図柄が描かれた紙に、清は文章を書き込んでいく。
大まかな内容は……
・赤字を出さない限り亀津には固定給が支払われる。
・赤字を出した際には給与はないが、赤字分の責任を負うこともない。
・黒字分(経常利益)の半分が固定給に上乗せされる。
・嘘、裏切り、手抜きをすることはできない。
・この契約を破棄するには三ヶ月前に申し出る必要がある。
真面目に働く分には良心的な契約だろう。
「では双方こちらに署名捺印をお願いします。煙魔さんは拇印でいいですよ。」
「おう。」
「はい。」
「はい! これでめでたく契約が成りました! お二人とも人気店目指して頑張ってくださいね!」
「ワシぁ茶を淹れるだけじゃあ。繁盛するかはこいつ次第じゃのお。」
「お任せください。これだけの味で繁盛させられなかったらマヌケですよ!」
「いやー、よかったよかった。ではカフェの設営をする前に道路を作りますぞ! 建設予定はこんな感じです。煙魔さん、よろしく頼みますぞ!」
金蔓社長はご機嫌だ。彼にとってはカフェなどどうでもいいのだから。この山に道路を通す、それさえできればカフェが繁盛しようが潰れようが知ったことではない。だからと言って煙魔を軽視するつもりもない。清から魑魅魍魎の恐ろしさを何度も聞かされているのだから。
「昼間ぁ堪えちゃるけどのぉ、夜までうるそうしよったら聞かんけぇのぉ!」
「ええ、ええ、分かっておりますとも。次回は工事の担当者とご挨拶に参りますので、今後ともよろしくお願いいたします。」
「おお、ワシぁそれでええわい。雲井さんにも挨拶を忘れんなやぁ?」
「それは私が。すでに挨拶に行っております。煙魔さんさえよければいいそうです。もちろん後日改めてお伺いしますけどね。」
魑魅魍魎関係のフォローは清がバッチリと行っている。きっと抜かりはないだろう。
帰りの道中にて。
「いやー、煙魔さんってチョロいですね。SWOT分析や4P分析も知らないんですから。」
「ああ、そうなのかい?」
金蔓社長は怪訝な顔をしながらも愛想よく返事をしている。
「あれならそのうち味の秘密を握って独立することもできますよ。任せておいてください。」
裏切り不可の契約書にサインしたことなどもう忘れてしまったのだろうか。たぶんそのうち思い出すだろう。清は何の心配もしていないようだ。




