清の通常業務
翌日、友人からフォローの連絡などないし、清も連絡をすることはない。次に連絡を取るとすれば、どちらかがどちらかを飲みに誘う時だろう。
さて、本日も清は忙しい。
午前中だけで2件の除霊を終わらせた。昼からは地鎮の儀式に参加し祝詞を読み上げることになっている。会場は渡海市に新たに作られるショッピングモール建設予定地である。広大な山を切り開いて作り上げた見渡す限りの平地。当然地上げには清も関わっていた。
「やあ祓い屋さん。本日はよろしくお願いします!」
「どうも市長。よろしくお願いします。」
清の前に現れたのは渡海市の現役市長、入江 三郎佐であった。両脇に秘書を2人連れている。
「いやー、この山の切り崩しには苦労させられましたよね。祓い屋さんのご尽力の賜物ですなぁ。」
「いやいや、たまたまですよ。私でも師匠でも無理なものは無理ですからね。」
「はっはっは。またまたご謙遜を。まあ本日は頼みますよ。私も選挙が近いもので。」
そう言って市長は去っていった。まもなく式典がスタートする。
ところで、通常地鎮祭と言えば呼ばれるのは神主だ。ところが今回はなぜ、こうも怪しい商売をしている祓い屋の清が呼ばれたのか。
そもそも地鎮祭とは何なのか? この辺りでは『じじんまつり』とも呼ばれているが。
その土地に住まう神を鎮め許可をいただくことである。そして今後の繁栄を願う意味がある。そこに清が呼ばれた理由、それは簡単、神にコネクションがあるからだ。
もちろんその土地の開拓に尽力した功績もある。それ以上に清のコネクションは誰にも無視できないものとなっているのだ。
そしてボーっと座っている清をよそに式典は進む。いよいよ清の出番となった。
「阿倍野 清様、祝詞奏上」
清は祭壇の前に立ち一礼。そして口を開いた。
『かけまくもかしこき このところを うしはきます うぶすなのおほかみ また
おほとこぬしのおほかみたち このひもろぎに
あもり ませと かしこみかしこみも まをすぅ……』
『このひもろぎに…………』
『このしづめもの…………』
『…………まもりさきはへたまへと かしこみかしこみも まをすぅ……』
清はたっぷり15分かけて神への許可を願った。そしてそれは成就された。どこからともなく数多の蛍が現れて祭壇の周りをぐるぐると回っていた。昼間なのに明るく輝く蛍を目の当たりにして、誰もが工事の安全と成功を確信したのであった。
そして、地鎮祭も終わり疲れと眠気が限界の清に市長が声をかける。
「いやー、さすがは祓い屋さん。見事な演出でしたね。どうですか、この後。一席もうけておりますよ?」
「お誘いありがとうございます。ですが申し訳ありません。実はどうしても外せない用事がありまして……」
「いやー、そうでしたか。それは残念です。ではまたよろしくお願いしますよ!」
「ええ。こちらこそよろしくお願いします。」
清は内心イラついていた。それは市長の一言『演出』にだ。清は全霊力を込めて祝詞を唱えた。そんな清にこの地の神は応えてくれ、現し身として蛍を遣わしてくれた。それを市長は演出と言ったのだ。
さすがにそんなことで市長の仕事は二度としないと考えるほど清は子供ではない。しかし、イラつくものはイラつくのだ。
そして疲れが限界で一刻も早く帰りたいのも本当なのだ。
明日は土曜日、午前中にカフェの経営を任せられる人間と面談し、昼から煙魔のいる金宝山に登る予定なのだ。葉子も一緒である。
メンバーは清、葉子、アークトック不動産社長の金蔓、そしてカフェの経営を担当する者。総勢4人であの山に登ることになっている。
だから今夜はさっさと休みたい清であった。清ほどの男なら、呼べば来る女は7、8人はいる。しかし、今夜はその気分ですらなく、別宅に帰って風呂にも入らず寝てしまった。
ちなみに呼べば来る女はいても、別宅を知ってる女は1人もいない。




