阿倍野 清の友人
電話の相手はヒコットランドの支配者一族、ボビー・タイラーだった。
「あぁタイラーさん。先日はお世話になりました。本日はどうされました?」
「例のダイヤの件だ。君の手元を離れたらしいな。そこで相談だ。あれをもし、こちらが手に入れたなら、そのまま貰って構わないか?」
「さすがに情報早いですね。もちろん構いませんよ。しかし、気を付けてくださいよ。あれの除霊は西の魔女にすら断られたんですから。」
「分かっている。少々思う所があってな。快諾感謝する。ではまた。」
「はいどーも。」
朝から泡銭を手にした上に、呪いのダイヤを処分できそうとあって清はご機嫌だった。
これはもう飲みに行くしかないなと、車の行き先を変えるのであった。
そこにまたもや電話が。
「もしもし。」
「おー、清かー。今どこ? いきなりだけど飲もうぜー!」
どうやら友人のようだ。
「いいタイミングだな。今日はいいことがあったからな。奢るぜ。俺は渡海市にいるけど、お前は?」
「おー! 俺もだよ。ちょうどお前んとこの事務所前を通ったもんだから電話してみたってわけよ。」
「オッケー。なら渡海駅で合流しようか。そこらに車を停めて、まずは寿司でも行こうぜ!」
「よっしゃ。なら30分もかからんわ。じゃあ清、後でな。」
電話を切り、再び車の行き先を変更する。今日の清はやたらタイミングがいい出来事ばかりが起きる。呪いのダイヤを手放した所為だろうか。
ちなみに霊能者とはこのように運が目に見えるかのように良くなることがよくある。当然逆もある。霊能者あるあるなのだ。
そして渡海駅に到着し、パーキングに車を停める。友人、大津 大介はまだ来ていないようだ。
その間、ちょうどいいとばかりに電話を2、3件かけて用事を終わらせる清。手際がいいようだ。
「おー、清待たせたな。」
「おう、ちょうどよかったわ。よーし、行くか。」
「で、寿司ってどこよ?」
「決めてない。『はし元』か『青海屋』あたりか。」
「なら『潮吹丸』にしようぜ。少し離れるがいい酒が揃ってるらしいからよ。」
「それはいいな。のんびり歩くのも悪くないしな。」
片やスーツ、片や作業着。凸凹コンビが駅前繁華街を歩く。
「最近どねーか(どうだ)?」
「悪くないな。何とか死なずにやってるさ。」
「稼いでんのは羨ましいが、化物と関わるのは怖すぎじゃのぉ。」
「全くだ。あっちがその気になったら俺ら人間なんか簡単に死ぬからな。毎日ドキドキだわ。」
「清ってそれなりの祓い屋じゃろ? それでもやっぱ怖ぇーもんか?」
「当たり前だ。あっちは何百年と生きてる魑魅魍魎とそのボスだぜ? 格が違いすぎるってもんよ。おっ、着いたか!」
「よっしゃー! 食って飲むぜー!」
この日の清は相当にご機嫌だった。朝から仕事は好調だし、数少ない友人と飲むことはできるし。
実は清、この友人にはかなり借りがある。遷都前、生活に困っていた頃によく奢って貰っていたのだ。彼はそんなことなど覚えてはいないが清は忘れていない。だから機会があれば理由をつけては奢ろうとしているのだ。
友人は友人で、もし清が財布を忘れたと言えば気軽に奢ってくれただろう。
「ふぅー、いい酒置いてあったのぉ。次ぁどこ行くかぁ?」
「決まってんだろ。オネーちゃんのいる店だ。大介の行きつけとかないか?」
「よっしゃ、そんなら駅前のシャトームートンにしようぜ!」
「おっけー! ガンガン飲むぜ!」
シャトームートン、ここはいわゆるキャバクラだ。出迎えるは黒服。
「いらっしゃいませ。ご指名はございますか?」
「大介、あるか? 任せる。」
「いるならジャスミン、いなければフリーで。」
「かしこまりました。2名様3番テーブルにご案内いたします。」
案内されたテーブルに座りオシボリで手を拭く2人。しかも二人とも顔まで拭いている。まだ若いくせに。
「きゃー大ちゃーん! 来てくれたほぉー! 指名ありがとぉー!」
「おおジャスミン。来たでー。こいつはツレの清な。知ってんだろ? あの祓い屋っちゃ。」
「どーも。阿倍野 清です。とりあえずブランデーのいいやつ、お任せで貰える?」
「きゃー! 知っちょるー! 祓い屋さん! やっぱりイケメンなんじゃねー!」
「ウチもウチも! ウチ、新人のマリリンです!」
そして黒服がブランデーを持ってきた。
「お待たせしました。テネシーXOでございます。」
「ありがとう。よーし、大介飲むぜ! あ、みんなも好きなもの飲んでね。」
「はーい! いただきます!」
「ありがとうございます!」
「「乾杯」」
「ふう、旨いな。俺ぁ普段焼酎かウイスキーなんやけど、ブランデーもええもんじゃな。」
「だろ? たまにはいいだろ。ブランデーに合うツマミは……おっ、このチョコがよさそうだ。」
「マジで!? あ、本当じゃ。悪くねーな。」
女の子そっちのけで酒談義が進む2人。バカな奴らである。
「ねーねー、清さんって普段どこで飲みよるん? この店は初めていね?」
マリリンがしな垂れかかって聞いてくる。
「うーん、渡海だとライムライトかな。」
「うわっ、すごい。やっぱり清さんクラスじゃったらあんなお店に行くんじゃね。」
「ライムライトかー、俺は行ったことないけど、どうなん?」
「ああ、酒が旨いよ。」
「バカ、かわいい子はおるかって聞いちょんじゃ。」
「バカはお前だ。この子達よりかわいい子なんているわけないだろ。」
清は酔って口が回るようだ。
「じゃああー、たまにはウチを指名してくれる?」
「たまにならね。そもそも、俺そこまで飲みに出るタイプでもないからね。」
半分本当である。清は渡海市より他の街によく飲みに出るからだ。
そこに黒服が残り時間5分だと伝えてきた。延長するかどうかだ。
「おーし、大介出るぜ。次はバーに行くぜ!」
「早えーよ! まあえーけど。じゃあジャスミン、またの。」
「大ちゃんまた来てね!」
「清さんウチ待っちょるけぇね!」
上機嫌で店を出た2人。
そこに待ち構えるように現れた3人組。
「お前ら調子に乗っちょるのぉ」
「偉くなったもんじゃのぉ、お前らごときがよぉ?」
「誰の街じゃあ思うちょるんな? あ!?」
高校時代、清達の隣の水産系高校の番長だった奴らだ。暴走族がいるように22世紀になっても番長はいたのだ。
それにしても、高校を卒業して一体何年経ったと思っているのだろうか?




