タイムリミット20:00PM
早くしろぉー!
間に合わなくなっても知らんぞぉー!
結局2人が鬼村の家を発ったのは夕方近くになってからだった。
「せんせーぇ、どうするんですかぁ? はっ! さては酔った勢いで私のナイスバディを蹂躙するつもりですね!? 夕闇に紛れてそこらの茂みでことを済ませばって考えてますね!?」
「考えてないし酔ってないからな。」
「またまたぁー。あんなに飲んでたじゃないですかぁー?」
「言ったろ? 必殺技だって。」
「そんなこと言って捕まっても知りませんよぉー?」
「もちろん検問でアルコールチェックを受けても構わんよ。」
「確かに顔色もいつも通りだしまつ毛は長いしお目目はパッチリ二重だし鼻筋は通ってるし結婚してください!」
「酔ってないことが分かってくれたらいい。方法は内緒だがね。」
「えぇー教えてくださいよぉー。私が将来悪い男に酒を飲まされて酔わされて連れ込まれてあんなことこんなことされてもいいんですかぁ?」
「教えても君には使えないからな。修行が足らんよ。」
話しながらも足は止めない清。暗くなる前に車には辿り着いておかなくてはならないからだ。
ひぃ〜ん ひぃ〜ん
「何か泣き声が聞こえませんか?」
「聞こえない。走れ。置いてくぞ?」
清は彼女の手を取り走り出した。
「もぉー先生ったら積極的なんだからぁー。そんなに早く車内で私と2人きりになりたいんですかぁ?」
「いいや。早く帰らないとスーパーが閉まるからだ。」
走ること10分。2人は無事に車へ到着した。清はほっと一息つく間もなくすぐにエンジンをかけ、山を降りる。街灯のない真っ暗な山道は来た時以上にスリリング。突然飛び出して来る鹿や猪にも注意しなければならない。
しかし清は車という文明の利器に逃げ込めたことにかなり安心していた。もうすぐ人間の領域に帰れるのだから。
「ねー先生? こんな山道なのにスピード出し過ぎじゃないですかぁ?」
「言ったろ? 早く帰らないとスーパーが閉まる。今夜は刺身が食べたいんだ。」
「えー、先生なら料亭でも割烹でも行けばいいじゃないですかぁー。」
「そんなもんがあると思うか?」
「ですよねー。」
10分で1000万円を稼ぐ男、阿倍野 清。稼いだ金は何に使っているのか? 実際には鬼村を訪ねるだけで1日仕事だったりするし、その前後のフォローも大仕事だったりするのだが。魑魅魍魎の領域を生身の人間が通行する……果たして1000万円は高いのか安いのか。
清のティムニーは山道を無事に降りて県道に出た。時刻は19時40分、スーパーはもうすぐ閉店だ。
「せんせぇー? 明日はお休みだから泊まってもいいですかぁ? 私って料理も上手なんですよぉ? 刺身だって私に盛り付けたりなんかしてぇー。」
「そんな生温そうな刺身は食べたくないな。買い物の後は君んちに寄る。」
「えっ!? まさか両親に挨拶ってやつですか? お嬢さんをください! ふしだらな娘ですが末永くねんごろにゃーごにかわいがってやってくださいってゆーアレですか!?」
「おろすだけだぞ?」
「そ、そんな、おろすだなんて! 私との関係は遊びだったのね!」
「いや、ビジネスだよ。」
スーパー丸富にて手早く買い物を済ませて彼女の家へ。清は刺身を肴に一杯やることで頭がいっぱいである。昼間、鬼村と飲んだ酒は確かに美味かったが酔えなかったのだ。
大仕事を終えたことだし、今夜は祝杯だと内心ウキウキなのだ。
「さあ着いた。今日もお疲れだったね。次は来週の木曜日に来るといい。」
「私明日休みなんですけどぉー。」
「だから?」
「デートに連れてってくれないんですかー?」
「無理。俺は仕事で死招県に出張。しかも日帰り。最悪だ。」
「なんでそんなに素っ気ないんですかぁー! 日帰りなら連れてってくださいよぉ!」
「嫌だ。おやすみ。」
ドアを閉め車を発進させる清。頰を膨らませてむくれる女の子。お約束のように息が合っている。このような凸凹コンビがいかにして生まれたのだろうか。
次回から過去編に突入します。