山の借主とバラとゴボウ
『自由気ままな操血女王の転生記』を書いておられるシンGさんより10件目のレビューをいただきました!
ありがとうございます!
日曜日。清と葉子は朝から車で移動をしている。
「せんせぇー、今日は何とか山に行くんですよね?」
「ああ、金宝山な。まだ時間がかかるから寝てていいぞ。」
「はっ! まさかそうやって眠り込んだ私にあんなことこんなことを!?」
「別に起きててもいいけど?」
「つまり、私が起きてないと寂しいってことですね? もぉせんせぇったらぁ。学校でケメ子がノユネシコをフソノツテテケした話でも聞きますか?」
「あー、はいはい、あれね。分かる分かる。あれね。あー懐かしいわー。あれかー。」
「やっぱりせんせぇ私の話なんか全然聞いてなーい! もぉー!」
「それよりケメ子ちゃんって同級生なの?」
「なぁんだ、ちゃんと聞いてるじゃないですか。ケメ子は同級生ですよ。ケーメルサンドラ・ブルックリン・ド・ラ・モルドブレール。あだ名がケメ子ってわけです。」
「へ、へー。どこの国の人なんだい?」
「もちろん日本人ですよ。黒髪で少し出っ歯がチャーミングなんです。」
「へ、へー。最近そんな名前も多いもんな……」
車内は和やかなムードである。
「さーて、そろそろ金宝山の登山道に着くな。今日はハードになるぞ。」
「私としてはハードにアレして欲しいんですが……」
「ん? ハードにアイアンクローか? そのうちな。さて、確認だ。今日の君の仕事は何だっけ?」
「もぉー! 返事をすることでしょ? 『最高です!』と『もー煙魔さんったらー!』の2通りだけですよね。」
「その通り。俺の合図でどっちを使うか、間違えないように頼むな。」
「はいっ! 任せて下さい!」
やがて車はとある山のふもとに到着した。ここからは恒例の登山だ。
「せんせぇ……この道、さっきも通った気がするんですけど……」
「正解。似たような道が多いのによく同じだと分かったな。ちなみにここを通るのは4回目だ。」
「もぉー! 完全に迷ってるじゃないですか! どうするんですか! 遭難ですか!? 今夜二人でこんな山中で夜を過ごすんですね!? そうなんですね!」
「いいや。これで正しい。ちなみにもう2回ここを通るぞ。」
「はぁ!? せんせぇ何言ってんですか!? はっ!? まさか長年に渡る一人暮らしで頭に栄養がまわってないんですね? 明日から私が住み込みます!」
「落ち着け。栄養は足りてる。道順ってもんがあるんだよ。しっかり歩けよ。」
「意味わかんなーい!」
さらに歩くこと1時間……
「よーし、もう少しだ。ここからの道を、北、西、南、西と進むんだ。」
「何ですかここ……何で山の中にどこかの庭園みたいな生垣があるんですか……迷路ですか……」
二人の目の前に広がるのは庭園。それもエゲレスのファッキンガム宮殿かバリのウルサイユ宮殿もかくやというほどだった。
「煙魔さんってな、どうやら他魑魅魍魎嫌いらしいんだよな。その上、訪ねても居るとは限らないとか。」
「えぇー!? 留守だったらどうするんですか!?」
「そりゃしばらく待って出直しさ。ほーらもうすぐだ。」
「ええ!? だから何でこんな山奥に豪邸があるんですか!」
「純和風の日本家屋だな。煙魔さんは粋人らしい。そして、これ!」
清が人差し指を立てた。
「最高です!」
「よし! これは?」
今度は親指を立てた。
「もー、煙魔さんったらー!」
「バッチリだ。では行くぞ。」
「はい!」
ドアを強めにノックする清。
「ごめんくださーい! 煙魔さんおってですかぁー!」
清が言い終わるのとほぼ同時に玄関のドアが開いた。
「なんじゃ?」
「こんにちは煙魔さん。私は唐沢の弟子、祓い屋の阿倍野清ってもんですいね。それからこっちは……」
「弟子の葛原葉子です!」
「で、なんしに来たほか(何しに来たんだ)?」
「仕事が半分、趣味が半分ですかね。まずは趣味の方なんですけど、聞きしに勝る見事な庭園ですね!」
「最高です!」
「誰から聞いたほか?」(聞いたんだ?)
「雲井さんですよ。鬼村さんだって見事だって言ってますいね。」
「最高です!」
「ほお、鬼村さんまで知っちょって(ご存知)とはの。こそばいー(くすぐったい)のぉ。」
「とまあそんなわけでエゲレスの宮殿にも匹敵する見事さって聞いたもんで、こりゃ見んにゃーいけん(見なければならない)ってことでやって来たんですいね。」
「最高です!」
「ほお、分かるほか?(分かるのか)確かにワシぁ昔エゲレスに造園の勉強しに行ったけぇのぉ。ファッキンガム宮殿じゃあダンリー王子とも遊んだもんじゃわい。」
「おお! やっぱり本場で勉強しちょってん(されたの)ですね! やりますね!」
「最高です!」
「おお、せっかく来たんじゃけぇ茶でも飲めぇや。ゴボウとバラのブレンド茶じゃけぇの。」
「おお、それはいいですね! 遠慮なく呼ばれますよ。」
煙魔は大きな体を揺らして家からティーセット一式を持って出てきた。
「待たせたのぉ。あっちで飲もうでょ。」
「いただきます。」
「最高です!」
ゴツゴツの指で器用にお茶を注ぐ。しかし手慣れた風にも見えない。
辺りにはバラの香り、それにかすかに混じるゴボウの香りが漂い不思議な雰囲気を作り出す。
「バラとゴボウって組み合わせワヤ(めちゃくちゃ)かと思いましたけど、かなり良いですね!」
「最高です!」
「じゃろうがよ(そうだろう)? エゲレスにおった時によぉ、バラの茶をよー飲みよったんじゃがの? だんだん飽きてしもーてのぉ、こっちに帰ってきてからあれこれ探してみたらよぉ。『未踏のゴボウ』がバラとの相性が最高じゃったほいや(だったんだよ)。」
「いやー、これは美味しいですよ。」
「最高です!」
煙魔は上機嫌だ。人嫌いではないのだろうか。
「あーあ、でも残念ですよね。」
「何がかいや?」
「こんな美味しいお茶、毎日は無理でも週に1回ぐらい飲めたら最高ですよね。どっかでカフェとか茶屋とか開いてくれたらええほに。」
「最高です!」
「ば、バカ言うもんじゃねぇ。ワシに経営なんかできるかいや。それにこんな所に客なんか来るかいや。」
「煙魔さんさえその気になればできますよ。経営なんて適当な人間に任せておけばいいんですよ。客だって道路を整備すれば簡単に来れますしね。」
「経営を他人に任せて破産した奴をエゲレスでよーけ見たでょ?」
「そこで私の出番ですよ。取り出したるこの契約書。煙魔さんもご存知、西の魔女の呪術が掛かってます。これで契約なんかした日には裏切り不可能ですいね。」
「ふん……えらぁ用意がええのぉ。」
「ええ。半分は仕事ってことですよ。まあこれだけの庭園を独り占めするのもいいですが、みんなに見せるのも面白いんじゃないですか?」
「最高です!」
「もしくはここはこのまま置いておいて、煙魔さんが街にカフェを開くって方法もありますよ。オシャレなビルの一室に隠れ家的なカフェなんか素敵じゃないですか?」
「最高です!」
「ふん。おーち(お前)の口車に乗っちゃる。場所はここじゃあ。上手くやってみせれーや。」
「ええ。詳しくはまた後日ですね。専門家を連れてきますよ。ではお茶、ご馳走様でした。」
「最高です!」
「おお、かわいいお嬢ちゃんを連れてまた来いや。」
「もー、煙魔さんったらー!」
全て清の手の平の上であるかのように話が進んでしまった。




