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金が欲しい祓い屋と欲望に忠実な女子校生  作者: 暮伊豆


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36/90

山陽の女王

『クライカコ』を書かれております殴り書き書店さんより8件目のレビューをいただきました!

ありがとうございます!

清が体育教師に秘密のレッスンを施した週末、土曜日の昼。事務所に葉子がやって来た。


「せんせぇこんにちは! 浮気なんかしてませんよね!?」


「浮気? もちろんしてないが?」


「えへへぇ、ですよね! 先生はそんなことする人じゃないですもんね!」


清の主観では、自分に恋人などいないのだから浮気などしようもない。というものだったのだが……


「さて、今日は予定通り遠出だ。帰りが遅くなることはお母さんに伝えてあるな?」


「はい! バッチリです! 泊まってもいいって言われてます!」


「いや、明日の件もあるから泊まりは無理だな。では行くぞ。そこら辺の荷物を積み込んでくれ。」


「はーい!」




邪魔口県の地形は大まかに言えば、中極(ちゅうごく)山地によって南北に分断されている。そして北側を山陰、南側を山陽と言う。

鬼村が住まうのは山陰側。今回清達が向かっているのは山陽側である。

開発の度合いは山陽側の方が圧倒的に進んでいるが、それでも山間部はまだまだ残っている。開発が終わる気配はないのだ。今回の仕事は清の本業とも言うべき内容、魑魅魍魎との交渉である。当然相手は……


「せんせぇー、雲井さんってどんな人なんですかぁー?」


「鬼村さんみたいなもんだよ。」


つまり、人ではない。


「さて、ここから歩くぞ。」


「はーい。荷物はやっぱり……私なんですよね……」


「頑張れ。帰りにラーメン食べさせてやるから。」


「え!? 夜中にラーメンをフーフーしながらアーンしてくれるんですね!? 頑張ります!」


「あ、ああー……」


そして歩くこと1時間半。道はますます険しくなってきた。それなのに時折誰かとすれ違う、妙な場所である。


「やあこんにちは。今日は雲井さんはおってですか(いらっしゃいますか)?」


「あー、さっきはおっちゃったみたーなよ(ご在宅だったみたいですよ)。」


そんな会話をすることもあれば……


「やあこんにちは。あそこのアケビって捥いでもええやつですかいね?」


「おお、ええいね(いいですよ)。もぎさんいね(捥ぐといいですよ)」


清は意外に木登りも上手い。通常アケビをゲットするには下から竹竿で巻き取るのだが、清はスイスイと登って手にしてしまった。


「はい、食べてみるかい?」


「いただきます! 先生ったら私のために取ってくれたんですね!」


アケビの皮ごと噛む葉子。


「硬っ、苦っ……先生ぇこれ何ですかぁ?」


「何だ、アケビを食べたことないのか? ここを割って中身だけを味わうんだよ。」


見本を見せる清。珍しいものを見る目で眺める葉子。


「はい、最後の1個ね。ここのアケビは旨いわー。」


「あ、甘い! これが初恋の味なんですね!?」


「さ、さあ? でもまあ甘くて美味しいよな。さあ、残りの道程は3割ってとこだ。頑張れよ。」


「童貞!? 先生の童貞は私が貰いますよ!」


「俺の道程? まあ確かに歩いてきた道は俺の道程だよな。俺らの前に道は無く、俺らの後に道はできるわな。」


清の言葉に葉子は酔いしれている。先生って言うこともカッコいいとばかりに。




「よーしもうすぐだ。大丈夫か?」


「はい! でも帰りはおんぶして下さいね!」


「状況次第だな……」


そして2人は山奥の集落へと辿り着いた。

そこではそれなりに外を出歩く物がいるようだ。


「こんにちは。今日は雲井さんはおってですか?」


「おお唐沢さんの弟子か。雲井さんはさっきまでおっちゃったけどねー(いたけどね)シシ(猪)が出たっちゅーて奥へ行ったいね。」


「そーですか。ありがとうございます。じゃああがっちょきますいね(家に入って待ってますね)。」


そう言って清は雲井宅の玄関を開けズンズンと上がり込んだ。鍵はかかっていない、のではなく、鍵などないのだ。


「その荷物はあっちに下ろして。何か飲むかい?」


「せ、先生……勝手に入っていいんですか?」


「もちろんいいさ。この村に入った時点で家に入ったも同然だからさ。おっ、旨そうなジュースがあるぞ。ハチミツたっぷりだ。飲むかい?」


「飲みたいです!」


「雲井さんは甘党だからなー。まあ飲んでごらん。俺はいらないけど。」


「え……でもこれ、きれいな色ですよね?」


勝手知ったるとばかりに他人の家の戸棚を漁り、ジュースをコップに注ぐ清。


「い、いただきます……」


恐る恐る飲む葉子。


「美味しーい! 何ですかこれ! めちゃくちゃ甘くて美味しいですよ!」


「山桃とアケビ、それを蜂蜜に漬け込んで岩清水で割って数年、いや数百年寝かせたジュースだそうだ。他にも色んな山の恵みが入ってるらしい。」


「疲れが吹き飛ぶ味ですよ!? 雲井さんって天使ですか!?」


「あー、近いな。そのイメージで間違いない。もう一杯飲むか?」


「いただきます!」




そうして他人の家でリラックスすること1時間。家主のご帰還である。


「あぁら清ちゃん? よく来たわねぇ? 妾の自慢の『甘露』は美味しいでしょう?」


「お邪魔してます雲井さん。最高の味わいですよ。飲んでませんけど。」


「こ、こんにちは! 飲みました! 美味しかったです! すごいです! 大ヒットです!」


「おやおやぁ、可愛らしいお嬢ちゃんねぇ。清ちゃんのいい人かぇ?」


「そうです! そうなんです! いい人なんです! 葛原葉子と言います!」


「うちのバイトです。食べたらだめですよ。」


「葛……ふぅん、そういうことかぇ。さすが清ちゃん、抜け目がないねぇ。」


「何のことですかね。それで本日お伺いした用件なんですが、金宝山(きんぽうざん)の周辺なんですよ。あそこって手付かずですよね? 何とかなりませんか?」


「ふぅむ、金宝山ねぇ……妾としては構いゃしないんだがねぇ……知ってるだろぉ? あそこには煙魔(えんま)がいるよぉ?」


「存じてます。雲井さんの了解さえいただければ問題ありません。」


「そうかぇ。妾は問題ないさ。せいぜい上手くやることだねぇ。」


「ありがとうございます。こちらお土産です。訃皮(ふかわ)養鶏コンツェルンの銘菓、恵蘭(けいらん)煎餅です。お茶との相性は異次元レベルですよ。」


「唐沢からよく聞いてるわねぇ。清ちゃんは長生きするよぉ。」


お土産を渡したら用は済んだとばかりに、そそくさと雲井邸を後にする清であった。


ちなみに葉子が運んだ大荷物全てが恵蘭煎餅だったのだ。一体何箱運んだのやら。

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