夜のレッスン
『いたもん(異端審問官)になるには ~チート勇者をぶっ倒せ!~』を書いておられる樋口諭吉さんより7件目のレビューをいただきました!
ありがとうございます!
3分が経過した。いつの間にやら体育教師、石神京子は体育館の床に座り込み、放心していた。
「はい3分。いい霊力が巡ってますよ。やりますね。では立ってください。最後の仕上げをしますよ。」
「は、はいぃ!」
(ど、どうしよう……私、祓い屋さんの前で何てことを……でも3回も……見られながらって……すごい……)
「あ、足が立ちません……」
「おや、では少し休憩をしましょう。それからですね。」
「はい! ありがとうございます! あの……祓い屋さんはどうしてこんなことをしてくれるんですか?」
(私みたいな一人遊びが習慣になっちゃったふしだらな女なんかに……)
「それはもちろん気になるからですよ。」
(あの石像を放置するなんて気になるに決まってるだろ。アフターフォローはしないつもりだけど暴走したら寝覚めが悪いもんな。)
「そ、そうなんですね……」
(私のことが気になる……私なんかが……」
「さあ、もう立てますか? 最後ですよ。」
「はいぃ!」
(もう胸も……も立ってるよぉ……)
「では、私は逃げます。このお札を持って追いかけてきてください。その上で先ほどのように手とお札に霊力を込めて私に押し付けてください。ではスタート!」
体育館を走って逃げる清。追いすがる石神。体力は石神の方が上。難なく追いつき濡れた手でお札を清に押し付ける。逃げる清に遅れることなく、お札は片時も離れない。
「いいですよ。その調子です。もっと手に霊力を込めてみてください。」
「はいぃ! イキますぅ!」
すると、お札は光を放ち爆散してしまった。
「はい、OKです! まさかここまで早くクリアするとは思いませんでした。さすがですね。」
「ありがとうございます! 私、合格ですか?」
「ええ、バッチリです。ではこのお札をお渡ししておきますので、もしあの石像が暴走したら今の要領でお札を押し当ててください。」
「え? 石像?」
(あっ、もしかして……私、すごい勘違いしてた……?)
「ええ、校長先生にはアフターフォローはしないと伝えてあります。いざという時は石神先生が動いてくださいね。」
「は、はい……」
(そうよね……こんなカッコいい人が私なんか……相手にしないよね……)
「では日も暮れたことですし、どこかで夕食でもいかがですか? ちなみに私は寿司に行きたい気分です。」
「は、はい! 行きます! お寿司食べたいです!」
(え? え? ホントに!? デート? お寿司デート!? その後は!? 食事して終わりなんて嫌だよぉ……)
普段はしっかりお持ち帰りを狙う清なのだが、今回は全く考えていない。純粋に寿司が食べたくなったために、ついでに誘ったに過ぎない。目の前で一人遊びを見せられても、術式の一種としか判断していない。彼は良くも悪くも因果な稼業に染まっているのだ。
そして行き先は回転寿司……金持ちのくせに。
その後、清は石神を彼女の自宅まで送って行った。コーヒーでも……と必死に誘う石神に対して、こんな時間に女性の家にお邪魔できないと固辞した清。愚か者である……
結局石神は猛る想いを一人で消化することしかできなかった。罪な男である……
それでも清は、たまにはボランティアも悪くないな、なんて考えていた。
「かわいらしい先生だったな。霊力もあるし、お近付きになりたかったな。」
そんな独り言が漏れ聞こえた。つくづく愚か者である……




