主人公ボビー・タイラー
誤字報告していただきまして、ありがとうございます!
助かりました!
ボビー・タイラーが現れたのは渡海市役所のヘリポートだった。1時間どころか30分もかかっていない。
「早速その灯篭を見せてもらおう。」
「課長、お願いします。」
「は、はい!」
さきほど清に電話をしたばかりなのに、ボビー・タイラーなんて大物が現れてしまい、役所総務課長は狼狽することこの上ない。
「間違いない。確かに三位の浜に建立されたはずの灯篭だ。これが只の行浜沖からサルベージされたんだな?」
「は、はい!」
「三位の浜を含むあの辺り一帯の地主は……不可田だったな。うちの祖先が世話になったものだが……」
「理由は分かりませんが、不可田さんはすでに人の心をなくしています。他者を踏みつけ利用することしか考えていません。私の手に負えないためにタイラーさんに助けを求めた次第です。」
海のことはタイラー一族に任せるのが一番なのだろう。伊達に太古より海のタイラーと呼ばれているわけではない。
「いいだろう。この一件、ボビー・タイラーが仕切らせてもらおう!」
清は心の中でガッツポーズをとる!
丸投げ大成功だ。自分に報酬は入ってこないが、あのタイラーが請け負ってくれたのだ。もう何の憂いもない。これで溜まっている他の依頼にも手が付けられるというものだ。
「阿倍野よ。連れて行ってくれ。三位の浜にヘリポートはあるまい。」
「そうでしたね。では行きましょうか。」
清は心の中でorzとなっている……
レンタカー借りて自分で行けよ、なんて言えるわけない。
結局清はボビーと秘書の美女、そして課長を乗せて三位の浜を目指すのだった。
市役所からおよそ1時間半。一向は山道を進んでいた。
「ところでタイラーさん、海坊主なんて太刀打ちできるものですか?」
「無理だな。うちの先祖でも無理だったのだ。うまく鎮めるしかあるまい。」
「やっぱりそうですか。なんで不可田さんはわざわざ灯篭を捨てたのやら……」
「さあな。凡愚の考えることは分からん。」
それっきり黙り込んでしまった。清は早く帰って一杯やりたいなーなどと考えていた。
ようやく山を越えて三位の浜が見えてきた頃。一行を阻む妙な仕掛けがある。
自動精算機だ……
『500円』とだけ書かれており、別の看板にはUターン禁止とも書かれていた。まさか、こんなセコい金の取り方をするとは……
清は仕方なく自腹で500円を払い車を進めた。領収書すら出てこないケチな仕掛けであったため、清の機嫌はますます悪くなった。
そして到着。清はもう、帰りたくて仕方がない。
「阿倍野さん! 今ごろ何しに来たんですか! 今さら来られても遅いんですよ!」
まるで待ち構えていたかのように、不可田がいた。おそらく暇なのだろう。
「何が遅いのか、私に聞かせてもらおうか。このボビー・タイラーにな。」
「タイラー!? あ、あのタイラーか!? おい! 助けてくれるんだろうな!?」
「何を言っている? うちの先祖が建立した灯篭を捨てておいて何様だ?」
「ふざけんな! あの灯篭のせいでバケモンが集まって大変だったんだぞ!」
「だから灯篭を只の行浜沖に投棄したんだな。で、化け物とは何だ? 言ってみろ。」
「うっ、違う、知らん! 投棄なんかしてない! バケモンが灯篭を運んだに違いない! ナマコだ! ナマコの大群が灯篭にまとわりついてやがったんだ!」
「ナマコは海の神、大綿津見の現し身だぞ? そんなことも知らずにここの地主をやっているのか……恥を知れ!」
「う、うるさいうるさい! タイラー一族はうちの先祖に恩があるんだろ! 今こそ恩を返す時だろ! 助けろよ!」
「助けるかどうかはともかく、何に困っているのか言え。どうせ海坊主関連だろう?」
「分からないんだよ! 満潮時よりも水位が上がるんだよ! このままじゃ全部水没しちまうよ! 助けてくれよ!」
「阿倍野よ。どう見る?」
面倒そうに清は口を開く。
「どう考えても海坊主が鎮められなくなってますね。素直に依頼を出してくれればいいものを。」
「ふざけんな! 電話したじゃないか! それをあんたが法外なことを言うから! 困ってるモンを見捨てる悪徳霊能者のクセに!」
「はぁー、前金で100万円が法外ですか。タイラーさん、どう思いますか?」
「ふぅ、凡愚とは度し難いものだな。海坊主が暴れたらここ三位の浜だけの被害ですむまい。只の行浜どころか、遥か西まで被害は及ぶ。西の魔女が拠点を構える向着火半島までな。100万どころか1000万でも安いものだ。」
「もしも、西の魔女の逆鱗に触れたら……海坊主は彼女によって殲滅されるでしょうが、その原因を作った不可田さんはただでは済まないでしょうね。具体的には今生では○○を△△されて余生を□□の状態で生き続ける。来世以降も◇◇として生を受け一生▽▽のまま無様に生きることになるでしょう。何回も。」
「くっ、ハッタリだ! 西の魔女なんて知らん!」
「不可田よ。この地に生きて西の魔女を知らんと言うのは無知以外の何物でもない。お前が魔女の怒りを買うのはいい。かくなる上はタイラー一族と阿倍野だけは魔女の被害を被らぬよう立ち回るだけだ。」
「そうですね。具体的にはこの足で魔女さんの元へ赴き、状況を報告して罪を免れることですね。この場には役所課長もおられるので、海坊主の被害は全て不可田さんが原因だと広報を出してもらえますね。」
「そ、そうですね。そうなると思います……避難勧告も出さないと……」
課長は自分を巻き込むな、と言いたそうだ。
「そ、そんな! 課長! あんた公僕だろうが! 一市民を貶めるようなことしていいのかよ!」
「え!? いや、私は、その、事実を、その、ありのままに、ですよね? ね!?」
「不可田よ。この後に及んで我が身の心配か。渡海市の沿岸部の民は気にならんと言うのだな?」
「そうですよ不可田さん。海坊主の猛威を知らないようですね。要は津波ですよ。どれだけの被害になることか。じゃあタイラーさん、向着火半島に行きましょうか。何とか魔女さんに話を通しておかないと。」
清は面倒で仕方ないといった顔をしている。
「そうだな。可哀想だが最早沿岸部は諦める他ない。かくなる上は我らだけでも無傷でいなければな。」
不可田はこの後に及んでもまだ何かを隠しているようだ。全てバレバレだろうに。
さあ、どうする?




