鬼村さんはからみ酒
書けてしまったので更新します。
山奥を走る1台の車。県内や近隣の鉱山でも活躍している四駆、ティムニーだ。離合など不可能なほど狭い山道を恐る恐る進んで行く。
車内には1組の男女。助手席に座る女性が運転する男性に何やら手を伸ばしている。
「せんせー。こんな山奥で密室に2人きり。ここなら誰にも邪魔されませんね。」
「俺の下半身を触ろうとするのはいいけど、それで運転ミスったら2人とも死ぬよ?」
ここは山奥。邪魔口県名物オレンジ色のガードレールもない。コースアウトは一発天国だ。
「や、やだなぁ先生、私が、純情な私がそんな……先生のたくましい下半身なんて触ったりするはずが……ねぇ?」
「そんなに俺の太くて硬いを触りたいの?」
「い、いやそんな、純情な私には、でも触れるものなら触ってみたいなーなんて……あはは……」
「はいこれ。」
「何ですか? 黒くて硬いですね。」
「俺の除霊アイテム『極楽精神注入滅殺昇天棒』通称『黒棒』な。」
「どうせそんなことだろうと思いましたよぉおぉぉーー!!」
「さて、ここからは歩きだ。荷物をしっかり頼むぞ。君が落ちても荷物は落とさないようにな。」
「はーい。どうせ私の命より高いものが入ってるんですよね……」
「その通り。もし落としたら大変なことになる。」
「はっ!? その時は体で払うんですね! 嫌がる私を先生は無理矢理ベッドに押し倒して! でも私も口ではイヤイヤ言いながらも本当はイヤじゃなくて! 1回だけの約束なのにズルズルと先生の手練手管で言いなりになって私は先生に溺れていくんだわ!」
「いや、君の両親が払うだけだよ。」
労働基準法、その他色んな法律を無視している。しかし霊感のある人間が作った労働契約書は恐ろしい。よく読まないでサインをしてしまうと働けば働くほど損をすることになりかねない。
「ぐがーん! 親に駄々こねてやっと先生のとこで働けるようになったのにぃー! そんなのないよぉー!」
「真面目に働けばいいだけだな。」
「それでも時給800円……」
「中学生には過分だと思うぞ。」
それから山道を歩くこと1時間。先日もやって来た鬼村の家が見えてきた。
「こんにちは。鬼村さんはおってですか(いらっしゃいますか)?」
「ああ、あんたかい。おってなよ(いるみたいよ)。」
清が質問をした相手はそこらを歩いていたおばさん。もちろん正体はいずれかの魑魅魍魎だ。
「ごめんくださーい! 鬼村さーん!」
「開いちょるぞー。」
清だってこの家に鍵がかかってないことぐらい分かっている。
「お邪魔しまーす。」
「お邪魔します。」
「今日はどねぇした(どうした)?」
「例のアレをお持ちしました。先日のお礼ってことで。君、出しなさい。」
「は、はいっ!」
彼女がいそいそと鞄から取り出したのは酒。数十年前に邪魔口県で名を上げた『鬼祭』である。一升瓶が5本。中学生の女の子が持つにはさぞかし大変だったことだろう。
「何種類かお持ちしましたので、飲み比べてやってください。気に入ったものがございましたら言ってくださいね。また持って来ますから。」
「ほほう、こいつぁたいがたぁな(ありがたいな)。あの山に例の人間どもが入っちょるみたいなけどのぉ、今んとこ境界からぁ離れちょるわ。このままやったら問題はないんじゃけどのぉ。」
「ええ、しっかり忠告してあります。少しでも境界を超えたらすーぐやっちゃってください。」
「ふん、お前はどっちの味方なぁ?」
「何言ってんですか。鬼村さんに決まってるじゃないですか。」
「南の雲井さんにも同じことを言ってるんですよね?」
「人間かワシら化物か。どっちの味方か聞いちょるんじゃ。」
「難しい質問ですねえ。鬼村さんの味方ってことでいいですか?」
「雲井さんにも同じ質問されて同じように答えたんですよね?」
「君、減給ね。」
「ぐがぉおーん!」
「ふん、まあええわい。飲めや。」
「おっ、こいつはどうも。ありがたくいただきます。君はだめだぞ。飲むなよ。」
「ええー、先生のいけずぅー。」
「人間は不便じゃのぅ。飲みたいもんも飲めんとはのぉ。」
「先生どうやって帰るんですか……」
「大丈夫。後で必殺技を見せてあげるから。」
ところでこの鬼村。酔うとどうなるのだろうか。
正解は……
「じゃけぇのぉ、ワシゃゆぅたんじゃいや! 短気を起こしてはなりませぬってよぉ! じゃがよぉシュテンさんってだーれの言うことも聞きゃあせんけぇ! ゆぅたんでぇ? 何回ものぉ!」
「大変でしたね。」
「すごいですね。」
「じゃろうがよ? ワシほど冷静な鬼なんかおりゃせんでょ? ワシが西狂都に来たんもシュテンさんが帰ってくる場所をキープしちょくためなんでぇ? なほにあのオッさんときたらよぉー、っとによぉー。」
「大変でしたね。」
「さすがですね。」
「イバちゃんもよぉひでぇんじゃけぇ! ワシが一生懸命シュテンさんを宥めちょりよるほによぉ? あいつ一緒になって暴れるんじゃけぇ! ワシみたいな穏健派ばーっかり割り食うけぇ!」
「大変でしたね。」
「すごいんですね。」
なお清たちがこの話を聞くのは10回を超えている。ちなみに現在はまだ昼過ぎだ。2人は無事に帰ることができるのだろうか。
もしかしたら週2回ぐらいいけるかもしれない!