JC襲来
『恋は歌声とともに』を書いておられる石河 翠さんより4件目のレビューをいただきました!
ありがとうございます!
清は調査結果を報告していた。相手は渡海市市役所の総務課長である。
「と言うわけで海中に沈められた石灯篭が怪しいですね。あれを元の位置に戻して供養する必要があるようです。」
「そうですか……」
「さらに言いますと、その灯篭と三位の浜との関わりが解決の糸口ですね。あの辺の地主は不可田さんでしたね。」
「そうですね……」
「では続行の場合はまたご相談ください。できれば私は三位の浜には近寄りたくないですがね。」
「そうですよね……」
過労で倒れそうな顔をした課長はウンザリした口調で答えた。
清がそんな面倒そうな依頼は嫌だな、なんて考えている頃。附属渡海中学校では……
「葉子さー、土曜日只の行浜にいたよね? 何してたの?」
「もちろん先生とビーチでニャンニャンしてたに決まってるでしょ。」
「ニャンニャンって……古典の教科書に載ってた言葉じゃない……」
「只の行浜って真っ黒でキモいことになってるじゃない? そこでデート?」
「まーた葉子が嘘ついてる」
「嘘じゃないもん。ビーチはもう綺麗になってるんだから。今度なんか隠れ家ビーチにだって連れてってくれるんだから!」
「そもそも秋だってのに仕事以外でビーチに行くわけないじゃん」
「あぁ、だから黒いのがなくなったわけね」
「あの先生って凄腕?」
「ふふふ、そうなのよ。先生は凄腕なんだから!」
「でもそんな凄腕の先生が何で葉子なんかをバイトさせてるの?」
「そうよね。実は女子中学生が大好きだとか?」
「それなら私達だってバイトしたいわよ」
「そんなのダメよ! 私の先生なんだから! 先生は私に夢中なんだから!」
「ふぅーん、じゃあ面接受けるだけならいいでしょ?」
「そうそう。受かるか落ちるかは先生が決めることだし」
「葉子みたいな洗濯板より私のDカップの方が好みかも知れないし」
「違うもん! 先生は私の引き締まったボデーが好きなんだもん!」
「まあまあ葉子も落ち着きなよ」
「そうそう。行けば分かることじゃない」
「自転車で行ける距離だし放課後行ってみましょうよ」
「もおぉー! 先生が居なくても知らないからね!」
そして放課後。
葉子が案内するまでもなく事務所の場所はバレている。『渡海市 祓い屋』で検索すれば1発だ。
「あっ! 高そうな車が停まってる! 先生いるんじゃないの?」
「残念、あれは街乗り用よ。仕事用がないから留守ね。あー残念。」
「何時ごろ帰ってくるものなん?」
「さすがに分からないよー。遅い時もあるし、そもそも帰って来ない日だってあるんだから。」
「仕方ないわね。また来ようか?」
「そうよね。場所は覚えたし」
「あっ! あれって!?」
タイミングがいいのか悪いのか、清が帰ってきた。葉子は、先生のバカーと言いたげな顔をしていた。
「渡海中の子かな? 何か用かい?」
「せんせぇーこの子達もバイトしたいんですって……」
「お願いします!」
「掃除洗濯身の回りのお世話何でもやります!」
「もちろん夜のお務めも!」
女子中学生が時給800円で夜のお務め。安売りにもほどがある。相手が清限定ではあるが……
清は内心、やはり同類か……なんて考えていた。
「じゃあテストしようか。それに合格してご両親と学校の許可があれば採用できるから。」
「「「ありがとうございます!」」」
葉子はふくれっ面をしている。
事務所内に入り、ガラスの前に並ぶ四人。
「テストは簡単。ガラスの向こうのローソクの火を消すだけ。制限時間は1時間。まずは見本を見せてあげな。」
「はい先生!」
葉子は俄然張り切っている。前回結構できたのでコツは掴んでいる。ここでいいところを見せれば清だって自分に惚れ直す! なんて考えているようだ。
5分経過。火は消えてない……
「葉子ぉ〜消えないんですけどぉ〜?」
「もしかしてバイトクビ?」
「葉子の分まで頑張るから安心してね」
「集中が足りないぞ。余計なこと考えてるな? やれ!」
「はいぃ!」
清の一喝で我に帰る葉子。
そして3分後。
「嘘!?」
「消えてる!?」
「超能力!? 葉子が!?」
「さあ、要領は分かったね? やってみようか。頑張ってね。」
葉子の真似をしてうんうん唸りながらローソクの火を消そうとする三人。
それを横目に清から呼ばれる葉子。
「さあ、君はこっちだ。あれを飲んでもらうよ。」
「えぇ〜あの苦いアレですかぁ〜? もぉ〜せんせぇったら〜」
もちろん葉子はわざと誤解を生むように話している。三人の集中を乱しつつ、自分がいかに清に近しいかアピールしているのだ。
「苦いアレって……」
「まさか葉子はそこまで進んで……」
「そーゆーのって古典の世界ではBとかCとか言うのよね……」
まんまと葉子の術中にハマった三人。しかし誤解はすぐ解ける。
「はいこれ。全部飲めよ。」
見た目はただの栄養ドリンクなのだから。3人とも「な〜んだそれのことか」といった表情だ。
「ぐえぇ苦ぁ〜……やっぱり喉に張り付きますね……」
「ね、ねえ葉子。私にも飲ませてよ」
「私も私も。どれだけまずいの?」
「私はパス。苦いと分かってるのに」
「もうないけど、一滴ずつなら。」
「どれどれ……くっさ! にっが! まっず!」
「ぐええ……アンタよく飲めるわね!」
「クロイモリエキス配合だったかな? 私って先生に期待されてるから? 何でもドンと来いよ!」
そして1時間経過。ローソクは小揺るぎもしなかった。
「はいそこまで。残念だけど不合格だね。出来るようになったらまたおいで。」
「は〜い」
「ざんね〜ん」
「また来ま〜す」
「じゃあね〜。私はもうひと頑張りしてから帰るから。」
葉子にしては殊勝なことを言う。しかしその本心は?
「せんせぇ〜、やっと二人っきりになれましたね? ね?」
「二人っきり? あの子達が窓から見てるぞ?」
「え!?」
それはリア充死すべしと言わんばかりの呪詛がこもった瞳だった。清のようなイケメンと密室で二人きりなのが妬ましくて仕方ない。3人はそんな眼差しで窓に額と鼻をくっつけて睨んでいた。
「集中してやらないんなら帰れよー。日が短くなってきたからなー。」
そう言って清は道具の整備を始めてしまった。葉子は渋々と霊力を集中させるのだった。
洗濯板を知ってる女子中学生……




