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阿倍野 清の悪夢

それは一本の電話だった。


「はい、阿倍野です。」


不可田(ふかだ)ですが、例の件どうなってるんですか!?」


「ご報告するのは今月末のお約束ですよね。いま聞かれても分かりませんが……」


今は月の中旬である。


「何言ってんの? アンタ祓い屋だろうが! こっちは金払ってんだぞ!」


正確には前金で3割しか払っていない。金がない清はこんな依頼者でも断ることができない。


「ではどういたしましょうか? 結界を張ってますから確認のしようもありませんが……」


「そんなもん結果だかケツ痒いだか知らんが破って見ればいいだろ! そしてまた作ればよかろうが!」


「それをやると別料金が発生しますが……」


「そんなん聞いてない! ぼったくるつもりか! こっちが素人と思って! もう金払ってんだぞ!」


前金で3割しか払っていない。


「もう一度ご説明しますね。今回除霊する悪霊はそれなりに強いです。だから結界に閉じ込めて弱らせる必要があります。だから今月末だとお約束しました。途中で開けたら悪霊が逃げるかも知れませんし、新しい結界を張る費用もかかります。だから月末までお待ちいただけませんか?」


実際はそこまで手に負えないほど強い悪霊ではない。お高めの結界を使えばすぐ終わるだろう。しかし提示された報酬はたった10万円。これでは最低ランクの除霊具しか使えない。だから清はやたら時間がかかる安い結界で依頼を達成しようとしているのだ。

それを事務所から近いわけでもない現場まで行って確認しろと言われても完全な無駄仕事だ。人件費を何だと思っているのか。

しかも! 結界を構築するのに1時間はかかる。悪霊の目の前で1時間……これはキツい。


「そんなんパパっとやったらいいでしょ! 今夜までに報告してくださいよ! 金払ったんだから!」


電話は切れた。

仕方なく清は実行した。結界と言うものは一ヶ所に穴が開いても使えなくなる。だから新品で構築するしかない。確認したところ、確かに悪霊は弱ってた。だが一度開けたことでせっかく溜まっていた除霊用の霊力までなくなってしまった。これでは今月末どころか来月上旬になってしまう。


清は馬鹿正直にも不可田にそのまま伝えた。すると……


「約束が違うじゃないですか! そんなんじゃ残りの金は払いませんよ! 前金だって返してもらいますからね!」


「えっと……事情は今説明した通りなのですが……さすがにそれはあんまりでは……」


「約束を破ったんはそっちでしょ! 返さないんだったら警察でも消費者センターでも行きますよ!」


行きますよ……


行きますよ……




「はっ……夢か……」


そう、清は昔の夢を見ていたのだ。その時は結局前金を返した。なのに除霊はやらされた。もちろん大赤字である。

清が夢を持って事務所を構えた渡海市はそれなりの街である。師匠唐沢も住んでいる生まれ故郷と違って。すると不可田のようなモンスターも珍しくなかった。まだ若い清には上手く対応ができず、赤字を膨れ上がらせていったものだった。遷都の2年ほど前の話である。


そこにタイミングよく電話が事務所にかかってきた。


「はい、阿倍野です。」


清は事務所の電話でも、こう言って出る。


「昔そちらでお世話になった不可田と申しますが。」


因果は巡る。

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