ボビー・タイラー
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翌日。
清は朝から3件もの依頼をこなした。
墓を供養せずに移築した結果、雑霊に取り憑かれた男。
わざわざ山奥まで行って魑魅魍魎退治をしようとして失敗した同業者の尻拭い。
山奥の工事現場に迷い込んだ妖怪の保護と誘導。これは突発だった。アークトック不動産はお得意様なので清も動きが迅速だ。
ようやく落ち着いた頃にお約束の電話。田村校長だ。
「はい、阿倍野です。」
「田村でございます。どうやらマキとは巻物のことらしいのです。そこまで分かりましたら後は阿倍野さんにお骨折りいただかなくても大丈夫だと思います。」
「それはよかったです。海と山が描かれたきれいな巻物らしいです。見つかりましたらお知らせください。最後の仕上げはこちらでいたしますので。」
「ではお手数ですが、よろしくお願いしますね。」
やった!
清は面倒で儲からない仕事から解放されたのだ!
ただ注意しなければならないのが、その巻物を返す時だ。素人を石像に近付けさせるわけにはいかない。それぐらいは清がやらねばならない。師匠案件なものだから清も気を使っているようだ。
明日の仕事は昼からだし、今夜はこのまま飲みに行くかと思案する清。
問題は行き先だ。
いつものように渡海市内で飲むか、ヒコットランドまで足を伸ばすか……それとも他に……
迷った清は電話をかける。
相手は……
「私だ。」
「やあどうも阿倍野です。タイラーさんとこの直営のお店で飲みたいと思っておりまして、ヒコットランドではなく、ブラックビレッジあたりにはありませんか?」
「ある。おススメはディックサックだ。今から行くのなら店には連絡しておこう。君は幸運だな。今夜ならまた孔雀丸が飲めるだろう。」
「それはありがたい! 楽しみにしております。今から1時間後には着くと思いますので。」
タイラー一族の夜の店を仕切る男ボビー。戸籍名は平 穂美。
しかしボビー・タイラーも本名である。色々とハイカラな時代らしい。
彼は清が何を飲み、何に舌鼓を打ったかまでリサーチ済みだった。あの師弟にはいくら気を使っても使いすぎることはない、そう考えていた。孔雀丸が用意してあったのも偶然ではない。ヒコットランドの店に用意してあったのだ。そこからブラックビレッジまでおよそ1時間。誰かが大急ぎで届けるのだろう。
尊大な態度とは裏腹におもてなしの心を持つ、面倒見のいい一族なのだ。
結局その夜清はいい酒、いい寿司、いい女と三点セットを楽しんだ。特に孔雀丸は先日の店のより遥かに旨かったようだ。同じ酒なのになぜ?
お持ち帰りに成功したのは半分は清の実力だが、もう半分はボビーの力である。
ブラックビレッジの店、ディックサックに酒を届けた者からきちんと伝わっていたのだ。
ボビー・タイラーの賓客が来ると。
しかもそれが清のようなイケメンで小金持ちなら女の子達もそれはそれは張り切る。奪い合い、牽制し合い、制圧し、睨み合う。清の目をギリギリでかいくぐりながら勝負は続いた。
最終的に清がお持ち帰りしたのは、今夜のためにヒコットランドから派遣されてきたデーハーなお姉さんではなく、もとからこの店にいた地味系女子だった。
もっともこのような店で働く女の子が本性から地味であるはずがない。彼女の戦略勝ちである。もちろんそれに気付かない清ではないのだが。
なおこの夜の会計は18万円。適正な価格である。ボビーの全力でのおもてなしが伝わってくるような価格設定だ。清も大満足で温泉宿へと向かうのだった。




