阿倍野 清という男
勢いで書きます。
でものんびり書きます。
さて、阿倍野 清について説明しておこう。
かの偉大な陰陽師、安倍晴明の血を引くなんてことはなく、兼業農家の両親の元に生まれた二男坊である。生まれながらにして霊感を持ち、両親や兄弟には見えない物が見えるということで保育園に通っていた一時期、寺に預けられたこともある。
幸いそこの和尚は生まれながらではないが霊感を持っていたため、スイッチをオンオフするように霊感の制御を鍛えられた。そうして小学校に入ってからも放課後は寺で和尚について修行をし、高校を卒業してから小さい事務所を構えたという流れだ。
当初は自分のように霊に苦しめられた子供達を救う目的だったのだが、そんなボランティア精神で経営が上手くいくはずもなく……たちまち左前となってしまった。
こと経営に関しては師匠である和尚も似たようなもの、いやもっとひどかったため頼りにならない。
そうして気付いたのだ。霊感に悩む子供は金にならないが、霊障に悩む大人の方がまだ金になると。そんな生活を3年ほど続けていたら、遷都がおこった。まともな経済感覚などない清は、それが自分にどう関係あるかを気にすることはなかった。
ロクに儲かりもしない除霊のために山奥まで数時間かけて日参する日々。邪魔口県における魑魅魍魎の勢力分布は和尚から聞いているし、挨拶に回ったこともある。これを疎かにすると生死に関わると口を酸っぱくして言われているのだ。
そんなある日。とある不動産会社の社長から依頼が入った。とある山奥の開発をしたいから地主と交渉をして欲しいといった内容だった。成功報酬で1000万円。経費は別途支給。これには清も驚いたが、すぐにぴんと来た。おそらく彼らでは交渉すらできなかったのだ。当然だ。魑魅魍魎どもは勝手に住んでいる物もいればきちんと登記までしている物もいる。そして、魑魅魍魎どもは金などで動かない。固定資産税など未だに物納するような連中なのだ。金の便利さを知ってはいるが、それだけに金に動かされるのはごめんだと考える連中もいる。
そういった事情から清に依頼が舞い込んだのだ。当然清だろうが師匠だろうが魑魅魍魎から土地を買い取るなんて不可能だ。ならば断るのか? そんなはずがない。こんな美味しい話を断れるはずがない。
そこで清が目を付けたのは、登記されてない土地だった。強力な魑魅魍魎ほど理知的で約束は守る。彼らが税金を物納するのも大昔の天帝との約束だからだ。
ならば登記されてない魑魅魍魎の土地とは?
いかに魑魅魍魎と言えど寿命はある。10年で死ぬ物から1000年単位で長生きするものまで。その土地で魑魅魍魎が生きていた頃に手を出す人間などいない。例え死んだとしてもどう祟るか分かったものではない。いくら魑魅魍魎どもに相続という概念がないとしても……
また近隣の大物に挨拶なしでその土地を手に入れようなどとすれば、睨まれることは間違いない。
清はそんな土地を斡旋しつつ大物とも交渉することで、ひとかどの信頼を得たのだ。あくまで人間社会においては……
「せーんせ。鬼村さんのとこに行くんでしょ? 山奥だし帰りは遅くなりますよね? 泊まりですか? 泊まりますよね?」
「あんな恐ろしい所に泊まりたいの? 俺は嫌だよ。」
(ぐふふふ、きゃあー先生! 私怖いわ! とか何とか言って抱きついて後は流れで一気に……」
「一気に何? ほとんど声に出てたよ。いつもだけど。」
「ぎゃあー今まで築き上げてきた私の可憐で純情なイメージがぁー!」
「大丈夫。安心するといい。初めからそんなイメージはない。」
「ぐがーん!」
「で、でも、先生! どうして私のような美少女が迫っているのに平気なんですか? 学校ではモテモテなんですよ?」
確かに彼女は自分で言えるほど美少女だろう。全体的にスラッとしており悪いスタイルではない。
「だって君、中学生じゃん。それに貧乳じゃん。ここでのバイトは学校と親御さんの許可があるからいいけどさ。」
「ぐぉがぁーん! そんな当たり前の答えを……どうしたらいいんですか!?」
「さあ? 受験勉強を頑張った方がいいんじゃないの?」
「そんなのとっくにやってます! 邪魔口高校A判定ですもん!」
「それはよかった。最低でも高卒でないと正社員にはしてやらんからな。」
「え!? それって? プロポーズですか!? プロポーズですね! はいです! イエスです! すぐしましょうさあしましょう!」
女の子は清に飛びつこうとして逆にアイアンクローをくらい恍惚の表情をしている。色々とレベルの高い女の子である。
この事務所は今日も平和だ。
次回はまた来週ってことでお願いいたします。