神のコネクション
清は一人で黙々と何やら土木作業をしている。とても祓い屋には見えない手際の良さ。むしろ職人だろう。
その間、葉子は休憩だ。清から座禅を組んでゆっくり霊力を集中させるよう指示されている。
「よし! 昼飯にしようか。君はこれだ。」
「ありがとうござっ、これは……」
「贅沢弁当だ! 残さず食べるんだぞ。」
「贅沢なのは値段だけですよね……味は地獄じゃないですか……」
「昼飯はこれしかないぞ? 食べないなら俺が食べるぞ。ますます霊力の差がついてしまうな。」
「食べますぅ! 私が大きくなったら先生だってガバッと来るんだから!」
体の成長には関係ない栄養素なのだが、葉子はもう忘れてしまったのだろうか。
「よーし全部食べたな。じゃあまた座禅な。もうすぐ出番だから集中しておけよ。」
「はいっ! できるってとこを見せてあげます!」
そして清は土木作業を継続している。額の汗が眩しく見える。
そしてようやく。
「あー、疲れた。さーて出番だぞ。集中してるな?」
「はいっ! 汗だくな先生と汗だくになりたいなんて思ってません!」
「まあいいや。じゃあもらうよ。後ろ向いて。」
「えっ? 後ろからですか? バックですか!? バックから私をもらってくれるんですか? ついにですか? 服を着たままですか!?」
「脱がなくていい。もう終わる。」
「も、もう終わるんですか? 先生って早いんですか!? な、なら回数で勝負する派ですね!?」
しゃきっ しゃきん
「終わったぞ。」
「へっ? 今の音は?」
「君の髪の毛を貰ったんだよ。昨夜君んちでお母さんと話しただろ?」
「えーと、何かをくださいって話だからてっきり私の身柄の話かなーって……」
「君が俺の背中でケンタウロスーって遊んでた時だな。霊力を豊富に含んだ若い女の子の髪が必要だったんだよ。」
「じゃ、じゃあ私の体じゃなくて髪だけが目当てだったんですね!? はっ! じゃあ昨日からたくさん食べさせたのは!」
「おっ、意外と鋭いな。霊力を多く含んだ髪が必要なんだからさ。約束通り今日のバイト代はボーナス2万円だ。」
「ぐぉがーん! やっと先生がもらってくれると思ったのにぃ!」
「こんな言葉がある。『絶対にあり得ないことを除いて残ったものが真実だ』ってな。さーて、もうひとふんばりだ。休憩してていいよ。」
「ぶぅー……」
時刻は2時前。
清は石碑の前に正座をして何やら呪文を唱えており、額どころか上半身が汗だくになっている。
「…………畏み畏み申す…………」
『大儀である……』
「よし、終わった! 帰るぞ。」
「せんせぇ今の声は何ですか?」
「お、聴こえたのか? よかったな。修行の成果が出てるじゃないか。」
「何か、タイギダールとかって聴こえましたよ。まさか悪霊ですか?」
「いや、神様だよ。言ったろ? この山にはすごく強力な神様の分身が祀ってあるって。」
「ワケミタマでしたっけ? 先生は神様とまで付き合いがあるんですか?」
「付き合いはないな。こっちが勝手にこんなことをしてるだけだからな、」
「え? じゃあタダ働きですか? 先生が!?」
「違うな。これは神への奉仕さ。勤労奉仕をして心を美しく保つことも祓い屋の大事な仕事さ。」
「ふーん、へー、ほーん。」
葉子はあまり信じてないようだ。
帰り道。
山を悠々と下る二人。
「ねぇせんせー。強力な神様なのになんで結界なんかいるんですか?」
「ん? 浮遊霊とか魑魅魍魎とかを寄せ付けないためだが?」
「だからー、神様だったらそんなのが寄ってきたらバコーンってぶっ飛ばせばいいんじゃないんですか?」
「あー、それはな。君だって夜中に蚊が寄ってきたら鬱陶しいだろ? 神様だってそうなんだよ。」
「神様って……」
「よーし、変な邪魔も入らなかったし。いい仕事ができた! 何か食べて帰るか?」
「えっ!? 先生がそんなことを言うなんて!? これは私を酔わせてどこかに連れ込むつもりですね! さあ行きましょう今すぐ行きましょう!」
「たこ焼きにしよう。」
「ぐぉがーん! もっと、こう、あるでしょ! ロマンティックな! 先生のばかぁ!」
「たこ焼き嫌いか?」
「大好きです!」
「やっぱりたこ焼きは駅前のフレスタ食堂だよな。」
「ですよね!」
さて、清は本当にボランティアでこの仕事をしたのだろうか?
そんなはずがない。
そもそも妖怪とのコネクションですら垂涎ものなのに、神とのコネクションは……
やはり清の武器は様々なパイプであると言えよう。
髪は大事です。
無くなってから分かるのです。