スリープ マイ ディアー
「こんにちは〜。今日の仕事は何ですかぁ〜?」
ついに葉子がやってきた。清はまだ寝ている。
「あ〜せんせぇ寝てるんですかぁ? 起きないとイタズラしちゃいますよ?」
それでも起きない清。よほど疲れているのだろう。
「ふっふっふ。これでも起きないとゆーことは! 私が何をしても起きないとゆーこと! つまり先生は私のもの! いただきまーす!」
ゴメスッ
鈍い音が聞こえた。
その音で目を覚ました清。
「おはよう。いや、もう昼か……頭を抱えてどうした?」
「おはようございます……ちょっと文明開化の音が聞こえただけです……」
「あぁ、空っぽ頭を叩いてみれば、文明開化の音がするってやつか。君は学校の勉強はしっかりしているようだね。」
さて、葉子の身に一体何が起こったのだろうか?
結界である。
葉子以外にも襲われる覚えがいくらでもある清だけに、眠る時に結界は欠かせない。いくら田舎とは言え街中で魑魅魍魎に襲われるのだろうか? 否! 人間にである。
清の稼ぎは渡海市において突出している。いくら隠しても隠しきれるものではない。そのため清を狙った泥棒、強盗、ユスリにタカリ。枚挙に暇がない。
そのため清は携帯できる簡易結界をいつも懐に忍ばせているのだ。本当に無防備なのは入浴時ぐらいだが、その時は意識があるためほぼ問題はない。
葉子はそんな結界に頭からぶつかってしまったのだ……
「あーよく寝た。さて、今日の仕事だけど……稽古をつけてあげようか。」
「え!? 夜のぶつかり稽古ですか! ぜひ!」
「霊力の稽古な。うちの正社員になるんだろ?」
「なるなるっ! なりますなります成桝先生は智ノ花!」
「ん? まあいいや。じゃあこっちね。」
「まさか! 寝室ですか!? 昼間から!? せめてライトは消して……」
「惜しい。消すのはライトじゃなくてローソク。」
「え!? そんな!? いくらなんでもいきなりそんなプレイを!? 先生ってただのへタレじゃなかったんですか!?」
「俺は何もしないよ。どうせへタレだからな。するのは君だ。まあがんばれ。」
「私に1人でやれと!? 1人でローソクを使ってプレイしろと!?」
「だから消すんだよ。いつもだけど君って人の話を聞かないよね。ガラスの向こう側にローソクが見えるよな? あれに火を点けるからこっちから消すの。」
「え? どうやってですか!? そんなの手品じゃあるまいし!」
「この前教えただろ……霊力の修行方法を教えてくれって言うから……」
「あ! もちろん覚えてます! バッチリです! 毎日やってます! ローソクがすぐ無くなるからパパが心配してました!」
「じゃあやってみて。消せなくてもいいからローソクの火がどれぐらい揺れるか見たい。」
「ふっふっふ。私の才能を見せてあげますとも!」
葉子はガラスの前でローソクに向かってウンウン唸っているが、火は小揺るぎもしない。
「じゃあそのまま頑張って。方法はこの前教えた通りな。集中が大事だぞ。せめて揺れるようになったら呼んでくれ。」
「ああんせんせぇ〜見ててくれないんですかぁ?」
「時給を貰って訓練までできるなんて最高だと思わないか? 普通は俺が金を貰って教えるんだけどな。100万円ぐらいだな。」
「そのぐらい体で払いますよぉ〜。先生にだけぇ。」
「時給800円で100万円稼ぐには1250時間。だいたい50日だな。不眠不休で50日ただ働きは大変だぞ? 黙って修行してた方が楽だな。」
「はぁ〜い。」
清から見て葉子に才能があるかどうかなんて分からない。そもそも清に才能がないからだ。一般人よりは多少マシな霊感があったために幼い頃から霊障に悩まされたが、祓い屋、霊能者としての才能は平均レベル。幼少時より続けた修行により県内若手ナンバーワンの座はなんとかキープできている。しかし全国には才能、血筋、資金力を兼ね備えた天才ばかり。せめてバブルが来てる今ならそいつらが代々築き上げた莫大な財産をも超える大金を得ることができるかも知れない。それができたなら、清は胸を張って勝ったと言える。少なくとも本人はそう思っている。例え霊能の道で勝てなくても……