阿倍野 清の1週間
先日の除霊、増柿 醜流の件について清の苦労を伝えておこう。この仕事に要した時間はおよそ4日。
月曜日。市役所に入り浸り戸籍情報などの確認。廃墟の情報、持ち主の名前、現在の所有者など。その結果から重機を壊した犯人は悪霊ではないかとの当たりをつけた。重機を壊すほどの相手であるが、それゆえに高位の妖怪である線はほぼ消えた。まず鬼村達ではないだろう。
ちなみに地域住人からの情報も集めようとしたのだが、昔過ぎて分からないということが分かった。当然だ。
火曜日。警察の情報を確認。なんとあの廃墟で死体が発見されたのは今から50年前! 鑑定によるとその時点で死後50年以上経っていたらしい。戸籍情報によると人が住んでいたのは100年以上前なのでおかしくはない。来客がないにもほどがある。どうやら死者の両親が数年に一度は戻り外側だけはきれいに見せかけていたらしい。その上、自作で『売家』と看板を出していたため誰も怪しまなかったようだ。あんな山奥の家を欲しがる者などいるはずがないのに。
水曜日。ますます悪霊の疑いが強くなったので、手土産を持って鬼村詣でだ。
鬼村は情報だけは持っていたが、付き合いはないらしい。これが最も重要な情報であり、清が確認しておきたかったことなのだ。
その鬼村によると、配下の魑魅魍魎が悪霊と化したそいつを不憫に思い何度か訪ねたらしい。しかし決して家から出て来ず、返事をすることもなかったらしい。基本的に魑魅魍魎は他人の領域に許可なしに立ち入るような真似はしないので、そのまま放置となったらしい。邪魔口にはこのような領域はまだまだある。鬼村の支配地域は県の山奥のうちおよそ3割しかないのだから。それも飛び飛びだったりする。彼らもそれなりに苦労をしているのだろう。
そして木曜日。悪霊の正体も強さも見当がついた。かなり手強い相手だ。やはり葉子を呼んでおいて正解だったのだろう。小型の防御用結界と悪霊滅殺用の特性結界を購入するため邪魔口県の北西の果て、車で行ける秘境、向着火半島まで出向いたのだった。ちなみに防御用結界は98万円、特性結界は798万円である。もし失敗していれば大赤字である。念のため予備を含めて2個ずつ買ってあるので撤退して攻め直すこともできなくはない。
なお成功報酬は5700万円である。葉子に支払うバイト代は拘束時間3.5時間で時給1600円、つまり5600円である……中学生には大金なのだが……
金曜日。休む間もなく再び鬼村詣でだ。昨日の報告をしておかなければならない。鬼村としては別に気にもしないだろうが、どこでどう話が曲がって伝わるか分かったものではない。1日かけてでも誠意を示しておかないと命取りだ。なお、電話線は引かれてないし、鬼村は当然携帯も持っていない。そもそも圏外である。もちろん電報も届かない。清は今日も山奥まで行脚するのであった。
具体的には事の顛末。悪霊の正体や原因、あの辺りが今後誰がどのように開発するかなどである。
「で? あいつぁ『にーと』って言うんか? 変な奴もおるんじゃのぉ。」
「いやー、人間には色々いるんですよ。働かずに食えるお殿様ですね。」
「そんな馬鹿な話があるかいや! 働かんで食える殿様なんかおりゃせんでょ? 穀潰しの盆暗息子ならおるかも知れんけどのぉ。」
「あー、じゃあそれですね。確かに盆暗息子みたいでした。」
「そりゃまあええわい。で、あんなら辺を拓くってことじゃのぉ? 境界には注意しとけぇのぉ。」
「重々承知しております。いつも通り、もしも鬼村さんとこに入ってしまいましたら、ドカンとやっちゃってください。」
清にしてみれば悪霊なんかかわいいものだ。鬼村達と違って金と時間さえかければ退治できるのだから。
そんな1週間を経て土曜日の朝。しかし次の仕事の準備が整っていない。つまりこのままでは葉子にさせる仕事がない。しかし清は一度は起きたものの、事務所のソファーで二度寝を選んでしまう。実は体力的にも霊力的にも限界だったりするのだ。
午後12時半。そろそろ葉子がやって来る時間だ。しかし清にはまだ寝ている。珍しく安眠を妨害する電話もなかったのだ。
清の寝込みを襲う葉子の魔の手!
危うし祓い屋! 清の貞操はどうなる!?
次回、狙われた祓い屋、四畳半奥の裏切り! バラの香りは夢の雫!
絶対見てくれよな! デュエル、スタンバイ!




