本当に、いいんですね?
毎回テストになると嫌になる。テスト自体はあまり嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。じゃあ何が嫌いなのか、それは解答用紙に名前を書くことだ。仕方がなく名前を書く、「鈴木太郎」
名前が全くつまらない。まるで味のない食パンだ。
1度親に談判したこともあった。けれど「名前だけでお前の評価が決まるもんじゃない。」と言われて弾かれた。
そんなわけないさ。俺が出会ってきた中で全員が、
「あ〜! この名前カッコイイ〜! 絶対イケメンだよね〜!」
とか、
「うわ、この名前ださw! コイツぜってーボッチやww!」
という声が入学式の時に聞こえてきたのを未だに覚えている。
全く、親は入学式の時は仕事で二人とも来れなかったから分からないだろう。「このシーンを繰り返し見せてやろうか?」と
何回思っただろう。
そんなこんなで俺らのクラスは一応仲良く過ごせている。(と思う)だが、ある時こんな噂を聞いた。
なんでも「名前を高い金で買ってくれる」らしい。
「馬鹿馬鹿しい! そんな訳があるはずがない! 現にいたとしたら人気になってること間違いないだろ!」と心の中で呟いた。
そんな噂ネットでも流れてないし、名前を買い取る? どうやって? どのように? など7W1Hみたいなことが頭に浮かんだ。
その噂はクラスにも広まっていたらしいが、誰も気にすることは無かった。当然だ、中学生の冗談じゃあるまい。
そんなことより俺は今日の昼飯と夕飯のことが楽しみだった。
しかし、ある人物によって俺の人生の羅針盤は大きく狂うことになる……
ちょうど横断歩道が赤だったのでスマホでもしていると、6、70代のじいさんが歩いてきた。しかし、じいさんは俺の前を通り過ぎたかと思ったら赤信号を無視して突っ込もうとした!
「危ねぇ! そこのじいさん!」
言葉が発する0.何秒か前に俺の体はあのじいさんの手を引っ張り、横断歩道へと引っ張りこんだ。
じいさんは一瞬何が起こったか分からず混乱していたようだが、その直後車が7、8台一気に突っ走って行った。
その通過された道路の上には俺の筆記用具がぐちゃぐちゃになっていた。くそっ……じいさん相手に高い損失だわ全く……
そう考えもしたが「困ってる人を放って逃げるは恥だ!」と親に厳しくしつけされていた。こんな所だけ馬鹿みたいに正義感が強いんだな……と思ったが、ここがあの父親の唯一尊敬できる所だった。
そのあとじいさんは俺の粉砕された筆記用具を見てやっと理解できたらしく、「おぉ……すまんのぉ……お主がおらんかったら今頃わしはああなっとったのかのぅ……車は怖いのぅ……」
別にそんなに嘆かなくてもいいんじゃないか?
「助けてもらったお礼をせんと……」
「いやお礼はいいっすけど……ひとつ聞きたいことがあるんすよね……」
「なんじゃね?」
見ず知らずの老人に出会い数分もしてないのにこんなことを聞いていいのか疑問だった、しかしこう見えて俺は本当のことを確かめたい! というたちだった。だから聞いてみることにした。
「名前を買い取ってくれるっていう業者……知りませんか?」
「なんじゃぁ……お主なかなか面白いことを言いおるのぅ……悪いんじゃがそのことは知らん……そのことは……」
そのあとじいさんは奇妙な独り言を呟きながらどっかいった。
なんだったんだろうか最後のは……?悩んでもしゃーない、帰るか……と俺も呟きながら横断歩道歩道を渡り、無事家路に着いた。