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家族



「二人とも、大切な事を伝えたい。聞いてほしい」


 俺は緊張で震える手を強く握りしめながら告げる。 


「待って」


 だが、唯が俺の言葉を遮った。


「大事なことって、私達への答えだよね?」


 美姫は優しい口調で訊ねてくる。


「ああ」


 俺は美姫の言葉を肯定する。


「なら」


「二人に聞いて欲しい」


 美姫の言葉を遮り告げる。


「うん」


「わかった」


「ありがとう」


 俺は礼を告げて一度深呼吸をする。

 そして、答えを告げた。


「二人の気持ちは凄く嬉しかった。だけど、ごめん。俺はあいつを選ぶ」


 告げると、俺はその場を走り去った。

 自分の答えを彼女に伝える為に。



「まさか、二人とも振られるなんて」


「うん。考えてなかったね」


 私の言葉に唯さんが同意する。

 だけど、何となくわかっていた。

 彼が私達と彼女を見るときの視線の違いを。

 家族だからじゃない。よく見知った目。

 自分や唯さんが彼に向けていた目だ。


「唯さん、この後二人で失恋パーティでもしません?」


「いいね。折角だからいっぱい話そう」


 私達は歩き出した。

 想い人に振られた。

 事実は残酷な筈なのに自然と悲しさはなかった。


☆☆☆


「(頑張れ鈴音ちゃん)」


 私は心の中で彼女に向かって声をかけていた。


「(貴女の想いはちゃんと届いてたよ)」


 私の想いは彼には届かなかった。

 彼女が、いや、彼女と彼が待ち受ける運命は過酷なものだろう。

 だが、終着点には幸せがある。

 

「鈴音ちゃんを守ってあげなよ」


 自分の最愛の人にそっと呟いていた。


☆☆☆


「鈴音!!」


 俺は家の扉を開き彼女の名を呼ぶ。

 だが、返事はない。

 玄関に俺の服が置かれていた。


「あそこか!!」


 俺は家を出ようとする。

 だが、一度立ち止まり自分の部屋へと戻る。


「父さん、母さん、鈴音は必ず俺が幸せにする」


 俺は、机の引き出しの奥深くにずっとしまっていた一通の手紙を持って家を出た。


☆☆☆


「私は選んだよ、おにぃの妹でいることを。だから、だから・・・・・・」


 自分の決意と裏腹に感情は悲鳴を上げる。

 大好きな人が違う人の元に行ってしまうことに心が耐えられない。

 どんなに心を偽ろうとも本心は変わらない。

 私だけを見て欲しい。


「おにぃ」


「やっぱりここにいたのか」


 そして、おにぃが現れた。

 まるで私の願いを聞いたかのように・・・


☆☆☆


「やっぱりここにいたのか」


 俺は彼女の姿を見てホッとしていた。

 彼女は幼い頃、何かあると訪れていた公園にいた。


「何で?何でここにいるの?」


「それは・・・」


 言葉に詰まる。


「何でよ!!おにぃは美姫さんか唯さんを選んだんでしょ。何でここに来たの!!」


 鈴音は涙を流しながら叫ぶ。

 その声には多くの感情が含まれているように聞こえた。


「鈴音にどうしても言わないといけないことがあるからここに来たんだよ」


「何言ってるの?そんなのいつでもいいじゃん。おにぃは二人の所に行きなよ!!」


 鈴音の声は悲鳴だった。


「今、お前に言わないといけないんだよ!!」


 俺は強く告げる。

 鈴音はこちらを不安に揺れている目で見つめる。


「鈴音、俺はお前との約束を守れなくなった」


 俺は言い聞かせるように呟く。


「俺は、もうこれ以上お前の兄として居られない」


「え?」


 鈴音の体が震え始める。

 俺も彼女に拒絶されのではないかという恐怖に身を包まれる。

 だが、伝えなければならない。

 彼女達の好意を断ってまでここに来たのだから。


「鈴音、俺の彼女になってくれ」


 俺は告げた。


「な、何言ってるの?私とおにぃは家族なんだよ、兄妹なんだよ」


 鈴音は震えながら呟く。

 表情は嬉しさと苦しさが混ざったような表情だった。


「違う、俺とお前は兄妹じゃないんだ」


 俺は手に持っていた手紙を渡す。


「え、嘘でしょ?」


 彼女は手紙を読んで唖然とする。

 

「事実だよ。ずっと隠しててごめん。俺はお前の兄じゃない。言ってしまえば、家族としての縁が切れたらお前との繋がりが切れてしまうんじゃないかって怖かったんだ」


 手紙にはこう書かれていた。


 俺は父さんと母さんの本当の息子ではない。

 両親の親友の夫妻の息子だった。 

 本当の父さんと母さんも事故で亡くなってしまったらしい。

 産まれたばかりの俺を二人は引き取ってくれた。

 この手紙は事故後に渡された。

 義父さんが何かあった時の為に書いていたものだった。

 俺は事故直後、義父さんが死ぬ前に兄妹ではないことは直接聞いていたが。


「そうだったんだ。私は何も知らなかった。おばあちゃんが時々呟く言葉の意味が分からなかった。おにぃが苦しんでたのはこれが理由だったんだね」


 鈴音は何度か祖母の行動、言葉に疑問を感じていた。

 葬式の時、『貴方が鈴音の家族を殺した』と言っていたこと。

 『あの子が呪われているんだ』と呟いた時。

 澪への当たりが自分に比べられないほどキツイこと。

 その全てに僅かな疑問を感じていた。


「嫌、それは俺の問題だよ」


 俺は鈴音の言葉に自嘲気味に答える。


「告白の答え聞かせてくれないか?」


 俺はありったけの勇気を振り絞り呟く。

 もう元の関係に戻ることは出来ない。

 前に進むためにも今の関係(兄妹)を断つ必要があったから。


「うん」


 鈴音は呟き俺へと視線を向ける。


「私はおにぃと付き合いたい。私をおにぃの彼女にして」


 彼女は答えると同時に俺に抱きついてきた。

 雪がそっと降り始める。

 まるで俺達を祝うかのように。


「ありがとう」


 俺は一言鈴音に呟く。


「おにぃ、ううん。澪、もう兄妹には戻らないからね」


 鈴音は強い決意を秘めた視線を向けてくる。

 彼女の宣言はとても頼もしいものだった。


「ああ。今日から恋人だ」


「じゃあ、もう遠慮しなくていいね」


「そうだな」


 俺達は一歩距離を詰める。

 兄妹としての距離じゃなく恋人としての距離へ。


「んっ・・・」


 雪が舞う中、俺達は唇を重ねた。

 今まで経験したどんなキスよりも熱く、優しいものだった。


「義父さん、義母さん、鈴音は俺が守る。俺が幸せにする。だから見守っててくれると嬉しいよ」


 顔を離した後、俺は、空を見上げながら呟いた。

 鈴音は俺の腕に自分の腕を絡ませる。


「澪、私を幸せにしてね」


 鈴音は悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げる。


「ああ」


 俺は再び唇を重ねる。



 この日、俺達は兄妹から恋人になった。

 もう戻ることは出来ない。前に進み続ける。

 例え、どんなに険しい道だろうと・・・ 

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