~~afterstory《前》~~
美姫と付き合い始めて半年が経った。
ただただ幸せな日々が続いていたある日、俺は職員室に呼び出されていた。
「篠原君、率直に言おう」
二年になり担任が変わった。
この教師は生徒を見下している所があり好きではない教師である。出来れば今すぐ変わって欲しいレベルだ。
「一城さんと別れなさい」
「は?」
この教師の言葉に俺は苛立ちを含んだ声を溢してしまう。
突然こんなことを言われたら誰でもキレる。
「君は一城さんに相応しい人間ではない」
自分の成績が悪いことは分かっている。
彼女の隣に並べるほどの人間でもないことも。
だけど、彼女への気持ちは誰にも負けない。
「君は気づいているかな?彼女は君と付き合い始めてから成績が下がっているんだよ」
「え?」
俺は知らなかったことを聞かされ動揺する。
付き合い始めてから毎テスト時に勉強を付きっきりで教えて貰っていた。それにより彼女の勉強時間が減ったことが理由だろう。
「君は彼女の足枷となる。彼女の人生を潰したくないのなら考えるんだな」
教師はそれだけ告げて俺を職員室から追い出した。
「何なんだよ!!」
俺は怒りに任せて近くにあった掃除用具入れを蹴る。
用具入れは蹴りに耐えられず大きく歪む。
「落ち着け」
元担任の伊藤先生が声をかけてきた。
「先生・・・」
俺は視線を向ける。
「誰にも文句を言われないようになれ。それがお前に出来ることだよ」
先生は一言告げると去っていった。
「よし」
俺は、次のテストに向け勉強をすることを決め教室に戻った。
☆☆☆
「嘘だろ?」
テストが終わり順位が発表された。
そこで事件が起きた。
「どうしたんだい?自分の成績が上がったことに驚いてるのかい?」
佑真の言う通り俺の成績は上がっていた。
高校一年時ワースト10に入っていたのが今回のテストではトップ20だ。
だが、俺が驚いていたのはそこではない。
彼女の順位が総合二位になっていたことだ。
一部科目では三位や四位になっているものもあった。
多くの人に取って、それは大袈裟に捉えることではないのかもしれない。
だが、今まで全教科一位で居続けたとなると変わってくる。
確実に成績が下がってしまったのだ。
俺のせいで・・・
「ちょっと驚いちった。元々下から数えたほうが早かったからな」
俺は自嘲気味に応え誤魔化す。
「そう。これからも頑張りなよ、一城さんのためにも」
エールとして告げてくれた言葉が心に重くのし掛かった。
一ヶ月後、更に事件が起きた。
一城さんの模試の成績が落ちたのだ。
偏差値が5~10落ちていた。
「ちょっと調子が悪かったな~」
何ともない様子で呟く美姫。
だが、表情には焦燥が現れていた。
「ごめん、俺のせい、だよな」
俺は呟く。
「ううん。そんなことない。私の努力不足だから澪君は気にしないで」
彼女の言葉を聞いても気持ちが晴れることはなかった。
それから数ヶ月が経った。
あと四ヶ月で三年生。
多くの生徒が少なからず受験を意識してきていた。
美姫の成績は徐々に下がっていた。
ほんの僅かづつであるが確実に・・・
「美姫、別れよう」
デートをしていたある日、俺は別れを告げた。
「何でかな?」
美姫の声は震え、目は不安に揺れていた。
「ごめん。話せない」
俺は一言だけ告げる。
「何で?私が何か悪かったの?頑張って治すよ?お願い、教えて」
美姫は今にも泣き出しそうな表情で呟く。
こんな顔をさせたくない。泣かせたくない。幸せにしてあげたい。だけど、ダメなんだ。今の俺じゃあダメなんだ。
「ごめん。美姫、今までありがとう」
俺は一方的に別れを告げ、彼女を置きざりにその場を去った。
『澪、これで良かったの?』
唯が電話越しに訊ねてくる。
唯とは前よりもぎこちないものの会話が出来る程度には仲は修復していた。
「ああ」
俺は答える。
『ここから先は地獄だよ?』
唯は心配そうな声で告げる。
「それでもやるよ。俺は、美姫が好きだから」
こうして、俺の地獄は始まった。




