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白雪姫


「よし、行こう」


 俺はメールの送信ボタンを押すと同時に立ち上がった。

 向かう先は北棟。

 俺は震える足に力を入れながら1歩1歩しっかりと道を踏みしめていった。


☆☆☆


 ピロン。

 携帯の着信音が聞こえた。

 恐る恐る画面を見る。

 差出人は澪だ。


『ごめん。今までありがとう』


 メールの文面はそれだけだった。

 

「私、一城さんに負けたんだね」


 事実だけを口にする。  

 悲しみが込み上げてくる。

 自分の思いは願いは彼には届かなかった。


 気づいていた。

 澪は彼女を特別視していた。

 まるで、お姫様を扱うみたいに。

 だが、あの日。

 文化祭三日目、澪が彼女の事を名前呼びした時、その表情を見たとき、気づいてしまった。

 彼の本当の気持ちに。

 文化祭を澪と一緒に回った時、キスをしてしまったのも一城さんを抜きたかったから。

 自分の存在を強く刻みたかったからだ。


「何で幼なじみだったんだろうな~」


 だけど、彼の幼なじみであったことに後悔はない。

 幼なじみであったからこそ得た想いがあるから。


「一城さん、澪を幸せにしてあげてね」


 夜空の下、想い人への気持ちを彼女に託した。


☆☆☆


「美姫・・・」


 決めた人の前に立ち、想い人の名を口にする。  

 彼女の肩は震え、表情は緊張に包まれていた。


「俺と付き合ってください」


 すらりと言葉は出た。

 俺は彼女に相応しい男ではない。

 だけど、彼女への想いだけは誰にも負けない自信がある。

 最初は唯への気持ちの方が大きかった。

 だが、彼女と一緒にいる内に彼女への想いが何倍にも膨れていった。

 最初はとても遠い存在だった。

 自分とは住む世界の違う人間だと考えていた。

 だが、今は違う。

 相応しくなくとも彼女の横に立ちたい。

 共に並んで歩きたい。

 彼女の隣に相応しい人間になりたい。

 そう考えていた。


「はい」


 一城さんは美しい笑顔で応えてくれた。


「澪君、私を選んでくれてありがとう。必ず貴方を幸せにしてみせるね」


 何か俺より男らしい。

 

「美姫は今のままでいいよ。俺がお前を幸せにしてみせるから」


 俺は呟くと彼女の唇に自分の唇を重ねた。

 数瞬の触れあい。


 顔を離すと彼女は顔を真っ赤に染め上げていた。


「前回は美姫からさせちゃったから」


 俺は照れ隠しにポツリと呟く。


「嬉しい。ありがとうね」


 美姫は照れ笑いを浮かべながら口にする。


「あ、雪だ」


 その時、雪がポツリポツリと空を舞い始める。


「そう言えば、何で美姫は白雪姫って呼ばれてたんだ?」


 雪と彼女の美しい銀色の髪が同時に視線に入った時、疑問に思っていたことを口にしていた。


「え?今聞く?」


「美姫のことは出来るだけ知っときたい」


 少し恥ずかしくなるが耐える。


「他の友達が教えてくれたんだけど」


 合っているか分からないよ?と前置きしてから言葉を続ける。


「私が告白を全て断ったのは私が眠っているから。いつか私を起こす王子様が現れるから。だって」


 美姫は少し恥ずかしそうな表情を作る。


「ってことは、俺は白雪姫を起こした王子様って所なのか」


 俺は苦笑しながら呟く。


「私にとっては本当の王子様だけどね」


 美姫さん、顔を真っ赤にしながらそんなこと言わないで。

 照れ死にしちゃうから。


「なるほどな~」


 俺は今まで疑問に思っていたことが解けたことにほんの少しの嬉しさを覚えていた。

 正直、銀色の髪だから白雪姫と安易なネーミングだと思っていたのだ。


「そういうことで宜しくね、私の王子様♥️」


 9999のダメージを喰らった。


 キャラ崩壊させないで。ギャップ萌え辛い(良い意味で)。

 お願い、照れた顔で言われると辛い(良い意味で)。

 やめて、僕のライフはもうゼロよ(精神的に)。


 コンティニューしますか?


YES or  NO


 俺はYESを選んだ。

 おっとヤバい、死にかけた。というか萌え死んでた。

 よくラノベとかで萌え死ぬとか言ってるがあれは本当だったらしい。

 美姫が彼女になって(さっき)から色々ヤバい。

 この様子だと彼女の手製弁当を食べる前に死にそうだ。

(彼女の手作り弁当には即死効果が付与されています)


 それからは互いに黙りこんでしまった。

 だが、その静かさが妙に心地良かった。

 暫く経ち、イルミネーションが一旦消える。

 

「美姫、これからも宜しく」


「私こそ」


 暗闇の中、そっと唇を重ねた。

 顔を離した時、イルミネーションが辺りを照らす。


 温かな光が俺たちを照らしていた。

 

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