衝突
更新しました。
宜しくお願いいたします。
「それじゃあ、文化祭まで残り4日頑張って行こー!!」
「「「「おーー!!」」」」
唯の言葉にクラスメイト全員が応える。
夏休みが終わった後、時間はあっという間に過ぎて行った。
今週の金曜日から文化祭が始まろうとしている。
この学校は文化祭まで残り一週間を切ると授業が全て無くなり文化祭の準備の時間となる。
授業をしなくて済む、文化祭が近い、その二つの理由により生徒達のモチベーションはかなり高かった。
「キャストは体育館で練習、道具係はまだ完成していないものを作っていってください」
唯は全体に指示を出す。
演技のコーチングを行う吉田さんは体育館に向かう。
吉田さんに貴方は練習する必要がないと言われてしまうほどの出来映えだった佑真は唯の代わりに道具係に指示を与える。
唯はあっちこっち忙しそうに駆け回っていた。
準備が始まってから三時間、キャスト達も体育館から戻ってきていた。
キャスト達は教室の隅で互いに改善点を話し合い、道具係は小道具の作成に当たっている。
だが、作業ばかりの道具係の生徒にはストレスが溜まるのだろう、話しているキャスト達の方を睨むような視線を向けながら作業を行っていた。
「佑真、そろそろお昼にしよう」
俺は場の空気を変える為、佑真に休憩を入れるように提案する。
「そうだね。皆、少し早いけどお昼にしよう。今十二時前だから再開は一時。わかった?」
佑真は声をあげてくれる。
「ありがとう。それと、買い出しに行く。唯を借りるから」
俺は作業を止め佑真に告げて教室を去った。
「唯、買い出しに行くぞ」
俺は唯を見つけ声をかける。
「え?何か足りなくなったの?」
唯は言いながら教室に戻ろうとする。
「ああ、何が必要なのかわかってるから行くぞ」
「ちょ、ちょっと!!」
俺は唯の手を引っ張って買い出しに無理矢理連れて行った。
☆☆☆
「で、無理矢理連れ出しておいてこれは何?」
駅前のクレープ屋さんの前でクレープ片手に不機嫌な表情を見せる唯がいた。
「疲れてるだろうから甘いものいるかな~と」
俺は言い訳を口にする。
「皆が作業してるのに?」
唯はキレかけていた。
「今、お昼休みだし・・・」
俺はさらに言い訳を口にする。
「ま、良いけど。バレたらどうするのよ、もう!!」
唯は口をプクッと膨らませながら睨んでくる。
だが、やっといつもの表情が見えたので安心した。
「気負い過ぎだよ。一人で何でもかんでもやろうとするなよ。あのままだと文化祭前に倒れちゃうだろ?」
俺はクレープにかぶりつきながら告げる。
「大丈夫に決まってるでしょ?」
唯は何をバカなといった様子で応える。
「中一の頃のこと忘れたのか?」
実は、唯は過去にも文化祭のクラス委員を行っていた。
その時に疲労困憊で倒れてしまったのだ。
「倒れた時滅茶苦茶心配したんだからな?」
俺は呟きながら最後の一切れを口にする。
「無理はしないよ。でも、ありがとう」
唯は少し弾んだ様子でクレープを食べ終え立ち上がる。
「早く帰ろう」
「おう」
俺達は言い訳の為の道具を買って学校へと帰って行った。
学校で何が起きているか知らずに。
☆☆☆
「きゃあ!!」
一人の女子生徒が転んでしまった。
ただ転んだだけなら良かったのだが、生憎舞台で使う道具の一つを下敷きにしてしまった。
下敷きになったのは舞台で頻繁に使う大きなお城の絵だった。
「ふざけるなよ!!それ作るのにどれだけかかったと思ってるんだよ!!どうしてくれるんだよ?」
一人の男子生徒が大声で叫ぶ。
一生懸命作っていた物が故意ではないにしろ壊されたのだから仕方がない。
「そんな言い方無いでしょ?」
一人の女子生徒が転んだ生徒を庇うような形で立ちながら男子生徒に言い返す。
「うるせぇ!!てめぇらキャストの中で道具を作ってるのは新藤だけじゃねぇか!!自分達は演技してるだけでこっちの苦労もわからねぇだろ!!」
男子生徒が口にした途端、道具係の生徒のストレスが限界を超えて爆発した。
今まで作業ばかりでかなりのストレスが溜まっていた中に油が注がれてしまった。
「何を偉そうに!!貴方達当日は何もしなくていいんだから準備ぐらい頑張りなさいよ!!」
キャスト側の生徒も声をあげてしまう。
ここからは言葉の殴り合いだった。
互いにヒートアップしていく。
「どうすれば・・・・・・」
僕はそっと呟く。
僕が口を出すと悪化してしまう恐れがある。
どうすればいい?
佑真が解決策を考えていた時、
「ごちゃごちゃうるせぇんだよ」
教室の扉が開かれ、篠原澪が帰ってきた。
「どっちとも頭冷やせよ」
俺は呟きながら教室に足を踏み入れる。
「あ?今までサボってたやつが何偉そうに言ってるんだよ?」
男子生徒の一人が声をあげる。
確かに唯と一緒におサボりしていたので言われて当然だろう。
唯は何か言おうと口を開こうとする。
だが、唯が言葉を口にする前に止める。
「いいから静かにしてろ」
俺は小声で唯に告げて唯から距離を取る。
この場面でリーダーの唯が誰かに味方したらこのクラスは総崩れとなる。
「別に休憩時間だから外に行ってただけだろ?それにほら、これ見える?おめぇらが誰もいかないから買い出しに行ってたんだよ。全員楽な事ばかりしやがって。どっちもどっちなんだよ」
俺は挑発するように告げていく。
「お前ら全員邪魔なんだよ。帰れよ」
俺は重く低い声で呟く。
「あ?今なんて言った?」
男子生徒の一人が言い返してくる。
「帰れって言ってんだよ!!てめぇらみたいな足を引っ張る役立たず必要ねぇんだよ!!」
俺は叫ぶ。
中学時代の時に鍛えた凄みを効かせた声だ。
何人かは普段とは全く違う声にビビっていた。
「ちっ!!もう言いわ。俺は帰る。なぁ、カラオケでも行こうぜ」
男子生徒の一人が荷物を持って仲間に呼び掛ける。
それに従って道具係の男子は帰っていってしまう。
「澪・・・・・・」
唯は俺の名を呟く。
「私も帰ろうかな?」
キャストの一人が呟く。
他の皆も荷物を整理して帰っていく。
「三人とも帰りな。俺と居ると敵意向けられるか怯えられるぜ?」
俺はおどけたように笑いながら唯、佑真、一城さんに告げる。
「でも・・・・・・」
一城さんはこちらの真意を測るように視線を向けてくる。
「片付けしたら俺も帰るからよ。先生には俺から伝えとく。お前らは疲れてるだろうから先に帰れ」
俺は早口でまくし立てる。
「う、うん。それじゃあ、また明日ね、澪」
「おう」
俺は唯に言葉を返す。
佑真と一城さんは何も言わず去っていった。
「それじゃあやりますか」
俺は誰もいない教室で一人呟いていた。
太陽はまだ空高く上がっていた。
文化祭=トラブル(違う)
ということで文化祭編スタートです。
宜しくお願いいたします。




