五十四話
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宜しくお願いします。
「暑いな~」
旅行二日目、今日は朝から海に来ていた。
海は太陽の光を反射して輝いている。
強い日差しが肌を焼くのを感じながら海を眺めていると
「お待たせ~」
水着に着替えた女子三人が姿を現した。
「じゃあ、泳ぎに行くか」
俺は早く冷たい水の中に入りたくて仕方がないので提案する。
「ちょっと待って。ねぇ、日焼け止め塗ってくれない?」
唯は上目遣いでお願いしてくる。
「自分でやれよ」
俺は冷静な態度を心がけながら断る。
惜しい、実に惜しいが、日焼け止め塗るのはヤバい。
理性が持つか分からない。
「背中とか上手く塗れないの。ねぇ、お願い」
唯は顔を赤く染めながら言ってくる。
「ゆ、佑真、お前がやって・・・・・・」
先程まで佑真が居た筈の場所に視線を向けながら告げるが佑真はいつの間にか姿を消していた。
「ダメかな?」
上目遣いが辛い。
可愛いからな。
「わかったよ」
俺が諦めて日焼け止めを受け取る。
すると、今まで静かにしていた一城さんが無言で近づいてくる。
圧力が凄い・・・・・・
「私もお願いしてもいいかな?」
一城さんは笑顔で俺に日焼け止めを渡してくる。
笑顔だけど怖い。
「あ、ああ。いいよ」
俺は本能に従い答える。
隣ではうつ伏せで塗って貰うのを待っている唯がジト目を向けてくる。
「先に唯からな」
俺は手に日焼け止めクリームを付け唯の背中に触れる。
手に柔らかい感触が伝わってくる。
「ひゃっ!!」
唯が声を溢す。
「冷たかったか?」
「ううん。大丈夫」
唯は耳を真っ赤にしながら答える。
俺は心を落ち着かせながら唯の背中にクリームをまんべんなく塗っていく。
「んっ!!ん~~~~!!」
唯が必死に声を我慢する。
お願いだから止めて欲しい。
めっちゃエロい。
「終わったよ」
俺は唯に告げ息をゆっくり吐き出す。
「ありがとう。先に海に行っとくね」
唯は顔を真っ赤にしたまま告げ砂浜を駆けていく。
「じゃあ次は一城さんの番だな」
俺は深呼吸して気持ちを整える。
「お願いします」
俺は一城さんの背中にもクリームを塗っていく。
一城さんの白い肌が日焼けしないようしっかり塗っていく。
「んっーーーーー!!」
一城さんも声を必死に堪え、両足をバタバタさせる。
お願い、その声止めて、悪いことしてる気になる。
俺は心の中で叫ぶ。
「は、はい。終わった」
俺はどっと疲れたのを感じながら終了を告げる。
「ありがとうございます。ちょっと熱くなっちゃったんで海に入らせて貰いますね」
一城さんは言いながら海へと走って行った。
「お疲れ様。大変だったね」
佑真は涼しげな顔で言いながらこちらへ近づいてくる。
「ったく。逃げやがって」
俺は呟く。
「彼女達が君に塗って貰うことを望んでたから少し離れただけだよ」
佑真はそれだけ言って海へと向かっていく。
「鈴音、日焼け止め塗るか?」
俺は無言で立ったままの鈴音に声をかける。
朝のこと以降、ほとんど言葉を交わしていない。
一応謝ったのだが「おにぃは悪くない」と言ったきり黙ってしまった。
「・・・・・・」
鈴音は無言で首を振る。
「わかった。俺も海に入るから。お前も入りたくなったら入れよ」
俺は鈴音が頷いたのを確認すると海に泳ぎに向かった。
☆☆☆
遊び始めてから三時間程経過した。
女子三人は誰が早く泳げるか競争していた。
俺は佑真に声をかける。
「もうすぐ一時だ。そろそろご飯にしないか?」
「そうだね。お昼は砂浜で食べよう。バーベキューでもしようか?」
佑真は俺の言葉に同意し意見を出してくれる。
「いいな。じゃあ道具と材料取りに行こうぜ」
「力仕事と行きますか」
俺と佑真が海を出ようとしたその時、
「あれ?鈴音ちゃんは?」
唯が慌てた様子で言葉を溢した。
「さっきまで同じくらいの速度で泳いでたのに」
一城さんは辺りを見回す。
俺は全身から血が引く様な気がした。
「鈴音!!何処だ!!」
俺は叫ぶ。
「鈴音!!」
俺は少し離れた場所でバシャバシャと何かが動いてるように見えた。
俺は迷わず動き出した。
全力で泳ぎその場に向かう。
最悪の予想通り鈴音が溺れていた。
「鈴!!」
俺は再び叫び手を引き抱き寄せる。
だが、意識はない。
「鈴!!頼む鈴、しっかりしてくれ!!」
俺は呼び掛けながら砂浜へと向かう。
途中から他の皆の助けも借りてなんとか鈴音を仰向け寝転がせる。
「鈴!!しっかりしてくれ!!頼む!!」
俺は鈴音を抱き必死に呼び掛ける。
「お前まで居なくなったら俺は、俺は!!」
思考がメチャクチャになり何も考えられない。
ひたすら名前を呼び続ける。
「澪、ごめん」
佑真の声が聞こえた直後、衝撃が襲った。
俺は佑真に殴られていた。
「落ち着け!!何をするべきか考えるんだ」
佑真の声によってやっと冷静さを取り戻す。
「悪い」
俺は一言だけ謝り行うことを頭で整理する。
鈴音の意識は無く呼吸は止まっていた。
心臓を握り潰されような恐怖に襲われる。
やることだけを頭で考え、俺は心臓マッサージと人工呼吸を始めた。
数回行った後、鈴音は呼吸を再開させた。
「ゲホゲホ」
鈴音は水を吐き出す。
「良かった。本当に良かった」
唯は涙を浮かべながら呟く。
「私、溺れて・・・・・・」
鈴音は何が起きたか理解しているようだった。
鈴音が無事だった。
理解した直後、俺は鈴音を抱きしめた。
「お、おにぃ?」
鈴音は困惑の声を上げる。
「良かった。もしお前に何かあったら俺は・・・・・・」
俺は鈴音が助かったことを確認するように強く抱きしめる。
「大丈夫だよ。心配かけたよね。ごめんねおにぃ」
鈴音は俺の背中に手を回す。
俺達は他の三人のことを忘れてしばらく抱き合い続けた。
☆☆☆
「それにしても、あそこまで篠原君が取り乱すとは思ってませんでした」
一城さんが思い出すように告げた。
現在、鈴音ちゃんは自分の部屋で休んでいる。
澪は鈴音に付き添っている。
鈴音ちゃんの希望もあり病院には行かないことになった。
僕達は泳ぐ気分にもなれず
「仕方がないよ。澪に取って鈴音ちゃんはとても大切な存在だから」
僕は一城さんの言葉に納得していない表情を浮かべる。
「仕方がないね」
今の言葉で宮内さんも澪の家族に何があったのか分かっていることに気づいた。
僕は鈴音ちゃんから澪の両親のことを聞いた。
だから澪があそこまでパニクってしまったのに納得していた。
だが、唯一事情を知らない一城さんは尋常じゃない澪の姿に疑問を感じたのだろう。
「一城さんには僕から話すよ」
宮内さんに小声で告げる。
少し驚いたような表情を浮かべたがその後頷いてくれた。
☆☆☆
私は布団に横になりながら兄の横顔を見つめていた。
溺れた理由は足を吊ったためだった。
おにぃが私を助けてくれた時、おにぃの表情を見て何故誰とも付き合わないのかわかった気がした。
おにぃは大切な人を作ることを、失うことを深く恐れている。
その事におにぃ自身が気付いているのかは分からない。
だけど、おにぃが恋愛をしないのはそれが理由の奥深くにあるのだと思った。
「おにぃ、助けてくれてありがとう」
私はおにぃの手を握りながら呟いていた。
☆☆☆
「皆さんご心配おかけしました」
鈴音が三人に頭を下げる。
「気にしなくて大丈夫だよ。何もなくて良かったよ」
唯は気にしていないという様子で告げる。
「また泳ぎます?泳ぐのが嫌ならビーチバレーとかしませんか?」
一城さんが言葉をかける。
「再戦お願いします。勝負の結果は欲しいですから」
鈴音は二人に好戦的な視線を向ける。
溺れた後なのに再び泳ごうと思える鈴音のメンタルは凄いと思う・・・・・・
こうして、先程のことを忘れるためのように俺達は目一杯遊んだ。
遊び回、だが事故はあった。
皆様、泳ぐ際はお気をつけください。
ブックマーク、評価いただけると嬉しいです。
次話は明日更新の予定です。
宜しくお願いいたします。




