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あの日起きた事

更新しました。

宜しくお願いいたします。


「あの日のこと。父さんと母さんのこと、話すよ」

 

 俺は覚悟を決め、あの日、あの事故のことをゆっくりと語り始めた。


☆☆☆


 あの日は雨が強く降っていた。

 俺は、父さんと母さんに車で練習試合の会場である学校まで送って貰っていた。


「こんな日に練習試合をすることはないだろ」


 父は愚痴を溢しながら車を走らせる。


「本番は雨が降ってもやるんですから良い練習になるわよ。ね、澪」


 母は父の愚痴に苦笑いを浮かべながら隣に座る俺に同意を求めてくる。


「俺もそう思うよ。父さん車出してくれてありがとう」

  

 俺は同意してから父に感謝を述べる。


「別に大丈夫だよ。父さん今日は午後から出勤だから」


 父は笑いながら告げる。

 その後、いつも通りの他愛もない会話を続ける。


「危ない!!」


 そんな中、運転中の父が突然大声を上げた。

 車の前を運転していたトラックがスリップして車に突っ込んできたのだ。

 

 母は俺を庇うように動く。

 俺は母に抱かれ視界が真っ暗に染まった直後、とてつもない衝撃が身体を襲う。


「きゃあ!!」


「くそ!!」


 母が悲鳴をあげ父が吐き捨てるように叫ぶ。

 俺は母に庇われながら衝撃が止むのを待った。


 衝撃が治まったので目を開くと、目の前には血だらけの母が居た。

 割れた窓ガラスの破片がいくつも母の背中に突き刺さっていた。


「澪、大丈夫?」


 母は俺の頬に手を触れさせながら呟く。

 その声は今にも消えてしまいそうなほど弱いものだった。

 直後、母は意識を失った。


 後から知った事なのだが母は意識を失ったのではなくこの時、息を引き取ったらしい。



「大丈夫だよ、母さん」



 俺は涙が出そうになるのを堪えながら意識を失った母に言葉を返す。

 そして、父の方を振り向く。

 父は運良く大きなケガはしていなかった。

 だが、意識を失っていた。


「今、助けるから」


 俺は恐怖に震える身体を叩き、呟くとシートベルトを外して母を車から出そうと試みる。

 だが、母は事故の衝撃によって歪んだ車体に下半身を挟まれ動かすことが出来なかった。


「スマホ、連絡、救急車呼ばなきゃ。俺じゃ、無理だ」


 俺は混乱しながらもやるべきことを考えスマホを取り出す。

 スマホは画面がバキバキに割れており使える状況ではなかった。


「電話、電話は」


 俺は辺りを見回す。

 だが、それがいけなかった。

 恐怖の為か自然と後退していってしまっていた。

 気づいた時には反対車線にいたのだ。

 

「バカ!!避けろ!!」


 一台の車の運転手が叫びながらクラクションを鳴らす。

 俺はその音でやっと現状を把握する。

 車は必死にブレーキをかけていた。

 だが、間に合わないと本能で理解した。


「ごめん、母さん」


 俺は死を覚悟して意識を失った母に向かって呟く。

 直後、誰かに体を押された。

 押した人物は父だった。

 

「お前だけは絶対に死なせない」


 父は俺を押しながらそう呟いていた。


「父さん!!」


 そして、父は俺の代わりに車に跳ねられた。


☆☆☆


「俺、ずっとこのことを話すのが怖かったんだ。俺がいたせいで父さんと母さんは死んだ。俺がいなければ助かってたかもしれないんだから。俺が父さんと母さんを殺したんだ」


 話終えた後、俺は静かに呟いた。


「お前がこの事を知ったら、お前が俺から離れていったら、そう思ったら言えなかった」


 鈴音は俺の言葉を静かに聞く。


「お前がじいちゃん達と暮らすってなった時、お前と離れるってなった時、ホッとしたんだよ。おかしいだろ?」


 俺は自分が引きつった笑顔を浮かべていることに気付きながら言葉を続ける。


「お前に話さなくて済むかもって、そう思ったら、思い出さなくていいかもしれないって考えたら・・・・・・」

 鈴音は俺のことを見つめていた。

 彼女の表情は母を思い出させる優しいものだった。


「話してくれてありがとう」


 鈴音は一言だけ呟き俺のことを抱きしめた。


「ごめん、おにぃはずっと一人で苦しんでたんだね。私は自分のことで精一杯で気づいてあげられなかった。でも、さ、私はおにぃが居てくれて良かったと思ってるよ。今日だって、今までだっておにぃは私のことを助けてくれたんだから」


 鈴音の言葉を聞き視界が濡れる。


「でも、俺は、俺は」


 言いたいことが言葉にならない。

 

「もういいよ、おにぃ」


 鈴音も泣いていた。


「もういいから。私はおにぃの傍にいるから。ずっといるから」


 鈴音は告げて俺のことを強く抱きしめる。


「あり、がとう」


 俺達は涙が枯れるまで泣き続けた。

 今まで泣いてこなかった分まで。




「父さん、母さん、まだ、あの事は話せない。俺にはその勇気は無いから。でも、いつか話すからさ」


 俺は一通の手紙を見つめながら呟く。


 父は車に跳ねられた後、生きていた。

 医者が言うには即死でもおかしくなかったらしい。

 父は俺に最後の言葉を託して息を引き取った。

 

「あの事を話すまで、もう少しだけ時間を・・・・・・」


 それが俺の思いだった。



「ごめん、おにぃ、父さん、母さん」


 私は勇気を振り絞って告げてくれた兄のことを思い出しながら呟く。

 おにぃはずっと父さんと母さんのことを背負っている。

 だけど、私は両親のことを聞いた時、二人に感謝してしまった。

 おにぃが助かって良かった。

 兄があの日のことを苦しそうに告げる中そう思ってしまった。

 そして、兄がまだ何か大切なことを隠していることは兄が先に告げていたこともあり直ぐに気づいた。


 事故後数ヶ月間、兄が私の顔を見て苦しそうな顔をしていた事とも関係があるのだろう。


「いつか、全部話して欲しいな。その時には私の気持ちも・・・」


 私はまだ何かを抱えているであろう兄のことを想いながら眠りに着いた。

 

今回は暗い回だったと思います。

こういう話が苦手な皆様申し訳ございません。



さて、突然ですがキャラ投票を締め切りたいと思います。

投票してくださった皆様ありがとうございます。

期限としては16日の午前0時までとさせていただきます。

 まだ投票していない皆様よろしければ参加していただければと思います。


次話は明日更新の予定です。

宜しくお願いいたします。


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