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延長戦、そして決着へ


「あんた、そんなところで何してるの?」


 声を掛けられ、驚きつつ振り向くとそこにいたのは妹の鈴音だった。


「なんでお前がここにいるんだよ・・・・・・」


 久しぶりに再開した妹への第一声がそんな言葉だった。

 本当にどうしようもない兄である。


「来年受験するかもしれない学校の体育祭を見に来ただけじゃん。文句ある?」


 鈴は苛立ちを含んだ声で答える。

 

「そうか。佑真ならあっちだぞ~。お前の目当てはあいつだろ?」


 俺は、鈴音は佑真に好意を抱いていると思っている。

 中学の頃、良く二人で話していた。

 サッカー部でも二人のことはたびたび噂になった。

 俺が鈴音と疎遠になってからも二人は関係を持っていた。


「違う」


 鈴音は何やら小言で呟く。

 

「ハァ~」


 俺はため息を溢しながらその場を去ろうとする。


 すると、彼女は俺の服を掴み止める。


「靴脱いで」


「は?」


「いいから靴脱いで足見せて」


 鈴音は言いながら俺を睨む。


「なんだよ?俺そろそろ行かないと行けないから行くぞ?」


「いいから!!」


 彼女は叫ぶように言い放ち俺の靴を無理矢理脱がせ、靴下も脱がされる。


 そして、真っ赤に腫れ上がった俺の足が姿を現す。


「やっぱり。バカじゃないの?真っ赤じゃん」


 鈴音は涙目で怒りを向けてくる。


「気づいてたのかよ・・・・・・」


「気づいてるっての。ずっと見てたんだから。二回のファール、あれあんたの足を潰しに来てたのぐらい見てたらわかる。そのあともマークに付く振りをしながら右足何回も踏まれてたでしょ。なんで我慢してるの?怒らないの?」


「俺が怒って暴力でも振るってみろ、即効負けになるぜ?それに足が腫れてるだけだから審判や先生に言ったところで聞いてもらえない可能性もある」


「本当にどうしようもなくバカで優しいよね」


 鈴音は何故か優しく微笑みながら俺の足に氷を当てる。


「試合まで時間ないし、このままプレーを続けるなら冷やさない方がいいかもしれないけど・・・・・・」


 彼女は言いながらも足に氷を当て続ける。


「正直有難い。もう、シュート打つのですらキツかったから」

 

 俺はポロリと本音が出てしまう。


「やっぱり最後のシュートを外したのはこれが原因だったか」


「まあな」


 俺が言葉を返すとそれっきり互いに黙りこんでしまう。


「もうそろそろ行かないと不味いか。無理しないでよね」


 彼女は氷をバッグの中に入れ立ち上がる。


「ありがとうな、鈴」


 俺は感謝を告げる。

 俺は久しぶりに妹のことを愛称で読んだ気がした。


「一つだけ教えて、何であんたは痛い思いをしながら試合に出るの?」


 鈴は俺に問う。


 ここ数日、同じようなことを何人かから聞かれたよな・・・・・・


「わからねぇや」


 俺は二人の質問を思い出しながら答える。

 今の自分は何で試合に出ているかわからなかった。

 自分や誰かの為にではなくなっている気がした。


「そう。私ね、おにぃが楽しそうに笑ってるの久しぶりに見たよ」


 彼女は背中を向けたまま告げ、走り去っていく。

 鈴の言葉が答えな気がした。


「そうかよ」


 俺は呟きながらグラウンドへと戻った。


 そういえば、久しぶりにおにぃって呼ばれたな・・・・・・


☆☆☆


「遅いよ澪」


 佑真が少し不機嫌な表情で呟く。


「悪い、鈴と話してた」


 俺は言い訳をする。


「え、鈴音ちゃん来てたんだ。良かったじゃん久しぶりに話せて」


「まぁな・・・・・・」


 俺は呟きながらグラウンドへと目を向ける。

 グラウンドは大勢の生徒に囲まれていた。


 今年の体育祭最後の試合だ。

 しかも、この試合の結果によって優勝クラスが決まるとなると見に来ている人達の気持ちもわからなくはない。

 

「全員、勝って終わるぞ!!」


 延長戦が始まる直前、普段はあまり声出しなどをしないが雰囲気に飲まれて声を出してみた。


「「「「おう!!」」」」


 俺の声にチームメイト全員が答えてくれる。


 そして、延長戦開始のホイッスルが鳴り響いた。


 俺達はパスを繋いで上がって行く。

 

「チッ」


 だが、途中でパスカットをされてしまいそのまま攻め込まれる。


「ヤバイ」


 俺は思わず呟く。

 金本が一人、一人と仲間を抜いて行く。


「行かせるか!!」


 桜井は叫びながらスライディングする。

 だが、金本は桜井のスライディングを避ける。

 そして、そのままシュートを放った。

 威力、コースともに完璧だった。

 俺は、ボールがゴールに入る姿を幻視する。


「届けーーーー」


 キーパーでバスケ部員の太郎がボールに向かって飛ぶ。


 そして、ボールに手の先を触れさせて弾いた。

 しかし、太郎はそのままゴールポストへと肩をぶつける。


 太郎はそのまま倒れてしまう。

 だが、運悪くボールは相手選手の方へと転がる。


「もらった!!」


 守る者のいないゴールへとボールが蹴られる。


「れーーーーい!!」


 いつの間にか戻っていた佑真が俺の名を叫びながら顔面でシュートブロックする。

 佑真はボールを俺の方へと流す。

 そして、ボールは俺の足元で止まる。


「みんな、ありがとう」


 俺は小声で呟き一気に攻め上がる。

 相手選手の大半が金本について来ていた為守りは少ない。

 俺は、一歩走る、蹴るごとに伝わる痛みに耐えながらドリブルしていく。

 使える技を惜しみ無く使う。

 股抜き、シザーズフェイント、マルセイユルーレット。


 そして、守備をしていた相手選手を全員抜き去る。

 ゴールキーパーと一対一になる。


「たぁっ!!」


 シュートを放つ。

 自然と声が漏れていた。


 ボールはキーパーの微か上を通り、ゴールポストに当たる。

 

「もう一発!!」 


 ボールは綺麗に上へと上がりこちらへと向かってくる。

 その間にキーパーが立ち上がる。

 俺は、跳ね返ってくふ角度的にヘディングではシュートを決められないと判断して、地面を足で蹴る。

 そして、バイシクルキックを放った。

 オーバーヘッドキックだ。


 キーパーは反応出来ず、そのままボールはゴールネットへと触れた。

 そして、試合終了のホイッスルが鳴る。


「痛!!」


 俺は上手く受け身が取れず背中からコートに落下する。


「「「「うぉーーー!!」」」」


 観客から大声援が上がる。


「篠原君!!」


 何処からか一城さんの声が聞こえる。

 俺は腰を擦りながら立ち上がる。

 瞬間、一城さんに抱きつかれた。


「ちょ、ちょっと、一城さん?」


 俺は動揺のあまり声が裏返る。


「良かった。勝ってくれて良かった」


 彼女は涙を流しながら喜ぶ。

 恐らく、彼女は不安だったのだろう。

 

「勝ったよ」


 俺は一言呟き彼女の銀色の髪を撫でる。


「あのー、挨拶がまだ終わってないんですけど・・・・・・」


「「っ!!」」


 俺と一城さんは顔を真っ赤にして離れる。

 自陣に戻ると仲間達から睨まれた。


「お前は一緒に戦った仲間より女を取るんだな」


 桜井の言葉がみんなの気持ちを物語っていた。


「「「「ありがとうございました!!」」」」


 俺らは挨拶を終えるとクラスメイトを中心とする面子に取り囲まれていた。

 

 その後、サッカーのことについて根掘り葉掘り聞かれる。

 辺りを見回すと一城さんと唯は遠くで俺達のことを見守り、妹の鈴は一度こちらに笑顔を向けると口パクで何かを呟き去っていった。


「よーし、みんなやろう!!」


 佑真が悪巧みを思いついた少年みたいな表情になって呟く。

 俺は、佑真の顔を見た瞬間背筋に悪寒が走る。


「やろうぜ!!」


 桜井はニヤニヤしながら叫ぶと俺の体を持ち上げる。

 

「あ、おい、離せ!!」


 胴上げされた。

 高所恐怖症の俺には恐怖でしかない。

 その後三分間は生き地獄だった。



 このあと、体育祭の表彰式が行われた。 



 俺達一年A組は僅差で優勝を勝ち取ったのだった。






 

 



 体育祭遂に終了しました。

 あとは後日談的なものが少し続きます。 

 さて、現実では暑い日が続いております。

 皆様、熱中症に気をつけてお過ごしください。


 次話は明日投稿予定です。

 宜しくお願いいたします。

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