おまじない
「「「「やった~~~」」」」
チームメイト達が声を上げて喜んでいた。
体育館で行われていたバレーボール決勝戦、二セット先取で行われたこの試合を私達は2-1で何とか勝利した。
三セット目は相手チームに疲れが見え始め、終始私達有利で試合を進めることができた。
「ごめんなさい、後お願いします」
「え、一城さん?」
試合を終えて相手選手との挨拶を交わした私はチームメイトに告げ体育館を飛び出していた。
「ハァハァハァ」
息を切らしながらも走り校庭へと向かう。
この学校は敷地が大きい為、移動が大変なのだ。
大きいお陰で球技際的な体育祭二日目があるからあまり文句は言えないのだけれど・・・・・・
「よかった、間に合った・・・・・・」
校庭が見える位置に着くと私は息を整えながら呟いていた。
校庭では、丁度、サッカーの試合が行われようとしていた。
「え?」
私はグラウンドに立つ彼の姿を見て思わず呟いていた。
彼、篠原澪がキャプテンマークを巻きフィールドに立っていたからだ。
「一城さん、お疲れ様。バレーボール優勝したんだってね?」
何故か校舎裏の方から出てきた宮内さんに声をかけられる。
「あ、ありがとうございます。宮内さん、何で篠原君がキャプテンマークを巻いているんですか?」
私は宮内さんに問う。
「え、一城さん知らなかったの?」
宮内さんが驚いた表情を見せる。
「何をですか?」
私は何もわからない為、素直に彼女に問う。
「私、知ってて勝負を受けたんだと思ってた。まあ、見てたらわかるよ」
彼女は言いながら物凄く優しい表情を見せる。
女子の私ですら思わずドキリとさせられる表情だ。
そして、その表情が誰に向けられた物なのか私は一瞬で理解できた。
「わかりました」
宮内さんが自分の知らない篠原君を知っていることに少しヤキモチを妬きながらも彼女に言葉を返しグラウンドに立つ篠原君を見つめる。
開始を告げるホイッスルが鳴り響き、試合が始まりを告げた。
☆☆☆
試合開始より少し遡る。
「くそ、なんでこんなに緊張してるんだよ。あの時ですらここまではなってないのに」
俺は校舎裏で吐き捨てるように呟いていた。
自分が緊張していることに気付き、顔を洗うのと人目を避けたかった為に校舎裏に来ていた。
いつもは顔を洗うだけで緊張は解れていたのだが、今回は解れないどころか更に悪化していた。
体は自分の物ではないと思えるほど重く、心拍数は否応なくあがる。
今にも心臓が爆発してしまいそうな程心音は鳴り響いていた。
「こんなところでなにしてんのよ?もうすぐ試合でしょ」
「ゆ、唯」
唯の声が聞こえ俺は動揺して思わず彼女の名前を呟いた。
緊張してるのを悟られないように必死に表情を作る。
「なんて顔してるのよ」
彼女はどこか呆れたような表情で呟く。
「もとからから顔は良くないですよ」
俺は何とか軽口を返す。
「話してみなよ」
だが、俺の軽口を唯は無視して真剣な顔で話しかけてくる。
「急に緊張しちゃってな、落ち着く為に誰もいないここに来た」
誤魔化せないと悟り理由を話す。
「そうだったんだ」
唯は優しい笑顔を浮かべながら呟く。
「ねぇ、自分で何で緊張してるかわかってるの?」
唯はまるで母親のような優しい口調で俺に問う。
「わからないから困ってるんだよ!!」
だが、俺は緊張の為か彼女に強い口調で言い返してしまう。
自分が精神的に追い込まれているのを思い知る。
「たぶん、澪は勝ちたいって強く思いすぎてる。そして、一人で背負い過ぎてるんだよ。それと、ここ二、三日で何かあったんじゃない?少しいつもと様子が違ったから」
彼女は俺の言葉を気にせず落ち着いた口調で告げてくる。
この時私は澪が緊張しているであろう一番の理由を知っていた。
一城さんと澪が二人で会話していたのを盗み聞きしていたから。
だけど、一城さんが澪の心を動かしたのが悔しくて、二人の会話を盗み聞きしていたのをバレることを恐れて言葉をはぐらかした。
「澪はどうしたいの?」
唯は俺に問う。
その口調は、優しく、だが俺の答えを聞くまで待つという強い意思を秘めたものだった。
「俺は・・・・・・、自分の、いや、違うな。俺の代わりに怒ってくれた、俺のことを好きになってくれた唯と一城さんの為に勝ちたい。」
俺は自分の頬が熱くなるのを感じながらも、恥ずかしさに耐えながらも自分の答えを告げる。
「うん、それでこそ私が好きになった澪だよ」
彼女は微笑みながら俺の近づく。
そして、俺の頬に軽く唇を触れさせた。
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、唯?」
俺は咄嗟のことにメチャクチャ動揺する。
柔らかかった、柔らかかった、柔らかかったんですけど~~
ヤバい、ヤバい、ヤバい、メチャクチャ唯が可愛く見えるんだけど。
思考が暴走する。
「緊張解けたでしょ。ちょっとしたおまじないよ・・・・・・」
唯は顔を真っ赤にして、告げる。
「早く皆のところに行きなさい。試合でしょ」
彼女は俺の背中をバンと押す。
「唯、ありがとうな」
俺は彼女に感謝を告げて校庭の方へと向かう。
もう、緊張はなく、あるのは試合への気持ちだけだった。
校庭に戻るとチームメイトが全員揃っていた。
「どこ行ってたんだい?皆心配してたんだよ」
「悪いな、おまじないをしてもらってきた」
「ふ~ん」
佑真はニヤニヤしながら俺を見る。
「おい、篠原、一城さんをかけて戦っていることを何故黙っていた?」
「え?」
俺と佑真の会話を止めたのはサッカー部男子の桜井だった。
俺は話していないはずのことを問われ気の抜けた声をだしてしまう。
「え?じゃねえよ、どういうことだって言ってんだよ」
桜井は苛立ちながら問う。
「どうして、桜井君がその事を知っているんだい?」
佑真は桜井に確認する。
「金本のヤローが公表してたんだよ。恐らく学校にいる半分以上の生徒が知ってるぜ」
「そうか、ありがとう」
佑真は顔をしかめながら桜井に礼を告げる。
「わかった。全部話すよ」
俺は、勝手に事に巻き込んでしまったこともあったためあったことを全て話した。
「まったく、篠原には勿体ない女達だぜ」
桜井の俺の説明を聞いた後の第一声がそれだった。
「本当にそう思うよ」
俺は二人の笑顔を思い浮かべながら同意する。
「水くさいぜまったく。最初から話しとけよ」
桜井は先程までの怒りを一瞬で鎮めて笑顔で呟く。
「みんなには体育祭を普通に楽しんで欲しかったんだよ」
俺は、言わなかった理由を告げる。
「まぁ、いいけどよ。そんじゃあ、チームを勝利に導いてくれよキャプテン」
「キャプテン?俺は今日一度も試合に出てないぞ?俺じゃなく佑真やお前がやった方がいいだろ?」
「皆、お前が練習終わった後も自主連してたことを知ってるし、今日の何試合かはお前がベンチから誰よりも大きな声で叫んでくれてたお陰で勝てたんだよ。だから、皆お前にキャプテンをやって欲しいんだよ」
桜井は俺へと告げながらチームメイトの顔を見回す。
俺も彼と同じように見回すと、全員が頷いてくれた。
「わかった」
俺は今にも泣きそうになるのを我慢しながらキャプテンマークを受けとる。
「用意できましたら校庭に来てください」
受け取った瞬間、体育祭委員の生徒が呼びにくる。
「みんな、絶対に勝つぞ」
俺はみんなに感謝の意味も込めて叫びグラウンドへと踏み出した。
試合が始まらなくて本当にごめんなさい。
試合終了まで書くと長くなりすぎるので途中で切りました。
次は本当に試合が始まります。
試合を楽しみにしてくださった方、本当に申し訳ございません。
最初を一城さん視点で、一ヶ所を唐突に唯視点を入れて書いてみました。
話の最中に違う人に視点を入れてみたかったで試してみたのですが読みづらいなどございましたらコメントをいただければと思います。
次話は明日更新の予定です。
なんか、後書きで本編関係のことを書くときって半分ぐらい嘘になっちゃってる気がするな~
プロットはちゃんと書いてるのに・・・




