第四話「美女と魔獣と猪と俺」
いつもお読み下さり有難う御座います。
一先ず今週分は今回投稿分で終了です。
剣戟の音が森に響く。鬱蒼とした森の中に、そこだけ誂えたかの様な広場が広がっている。
その広場で二人の女性が剣を打ち合わせている。
1人は金色の髪をショートに纏め、身の丈よりも巨大な剣を片手で振り回している。
その双眸は緑色の光を放ち、真剣で斬り合っているにも拘らず愉しそうに嗤う少女。
もう1人は同じく金色の髪をしているが、こちらは波打つ様な緩いウェーブが掛かっている。
腰まで届くその長さと相まって、とても豪奢な雰囲気を纏っている。
こちらの獲物は身体の半分を隠す様な菱形の盾を持っており、もう片方の手には何の変哲も無い剣を握っている。
その蒼い双眸は眠たげに下がっており、表情にもあまり覇気が見受けられない。
だがしかし・・・・・・二人の戦いは鬼気迫るものがあった。方や嗤い、方や眠たげであると言うのにだ。
正しく歴戦の戦士の戦いと言えよう・・・。
「だって剣戟の音が「カン」とか「キン」じゃなくて「ゴッ」とか「ガッ」とかだよ?
ないわー、マジでないわー。俺が交じったら5秒で弾かれるね。」
「そんにゃ情けにゃい事言わにゃいで欲しいですの。それでも私のご主人様ですの?」
「メアリーよ、仕方あるまいて。方や天使。方や人造人間の戦いじゃ。元々の身体能力を考えれば並では交じれんよ。」
「身体能力で言えばご主人様も同等程度は備えているはずですの。」
「いやいやいや、ベルの方が身体能力値は上だよ?確か俺の1.5倍位あるはず。」
「え?そうだったんですの?従者の方が上と言うのは主として面目が立たにゃいのでは御座いませんの?」
「いいんだよ。ベルは盾って言う役割もあるからさ、簡単に負けない様に並以上にして貰ったのさ。ま、要望が通るとは思ってなかったけどな。」
相変わらず普通じゃない剣戟の音が響いてるが実はこれ、かれこれ1時間は戦い続けてる。
連続戦闘可能時間が長いのは分かったけどさ・・・いつ終わるんだ?これ。
と、思ってた所でベルの剣が弾き飛ばされた。これは終了って事で良いかな?
「いやー、ベル様のガード、硬い事硬い事。思わず熱くなっちゃいましたよー。」
実際・・・5号ちゃんの剣と言うよりかは鉄板じみたアレを盾でいなすとかおかしいんじゃなかろうか・・・。
確か5号ちゃんの身体能力って常人の10倍位はあるんじゃなかったっけ?
そんなこんなでベル達が目覚めてから3日程が経過してる。各々、戦闘に関する経験値を少しでも上げる為、
5号ちゃんに稽古をつけて貰ってたんだ。後は連携の訓練もだね。
ある程度、形が付いたら後は実地で実践を繰り返しながら経験を積んで行くしかないよね。
◇◇◇
そして訓練をしつつ過ごしていたある日、唐突に5号ちゃんがこう言った。
「そろそろ食料の備蓄が無くなるので狩りに行きましょう!」
例の向日葵のような笑顔でそう言う。狩りか。誰か弓なんて使えたっけ?そもそも弓ってあったっけ?
「5号ちゃん。弓ってここにあるの?」
「へ?そんなのありませんよ?」
「じゃどうやって狩るの?まさか剣で斬り掛るの?」
「そのまさかですよ?」
「・・・・・・それ近付いたら普通に逃げられるんじゃないの?」
「大丈夫ですよ~。近付いたら反対に襲ってきますから!」
「 怖いわっ!」
なんでも狩りは狩りでも鹿とか兎とかじゃなくて熊とか熊とか熊をターゲットにするらしい。解せぬ。
いや、普通、狩りって言ったら鹿とか兎とか鳥じゃないの!?え?1匹で十分な量が取れる熊の方が効率良いだろうって?
幾らなんでも熊は無いと思うんですよ。あれは狩りの対象じゃなくて討伐の対象ですよね?態々狙いに行く対象じゃ無いと思います。
と言う俺の必死の?抵抗も空しく、熊を対象に狩りを行う事に決定した。
そらまぁ弓も無いのに小動物は狩れんわな。いやまぁ、ランディが居るってのは分かってるけどさ。
それだとランディ1人?に負担が掛かる訳で。まぁここは皆で仲良くイベントって事で。
「とりあえず熊は分かったけどさ。どうやって狩るの?適当に斬りかかって倒すって訳でも無いと思うんだけど。」
「へ?そのまま、その通りですよ?真一様達の能力を考えれば特に作戦が必要になる相手では無いと思いますけど?」
「熊・・・だよね?」
「熊・・・ですよ?」
おかしい。なんか相互不理解がある気がする。と思って詳しく話をしてみた所。
ベルの防御テクニックがあれば熊程度、と言うより原生生物程度の攻撃ではびくともしないそうで。
加えて俺には魔力剣がある。この魔力剣、魔獣に対する有効手段ではあるが、実際には切れ味そのものも向上してるらしい。
だから熊程度、いや、原生生物程度は簡単に切り伏せられるとの事。
よくよく考えてみれば常人の3倍とか5倍とかの身体能力を持ってるんだからそりゃ可能か。
これは対魔獣に対処した結果の嬉しい誤算ってやつなのかな?
ただまぁ、もう一つ利点もある。俺の持つ【アナライズシステム】と【マップシステム】の連動機能に関する話だけど、
熊の生態データを取り込んで記録すれば限られた範囲だけだけど【サーチシステム】によってマップ内に熊の在所がわかると言う物だ。
まぁ野営中にいきなり襲われるよりかは存在を感知できた方が便利ではあるし安全だよね。
と、言う訳で早速、森の中を探索だ。
先頭がベル、後列に俺と5号ちゃんで並んで三角形の陣形を組む。メアリーはベルの腕の中だ。解せぬ。
ちなみにランディには高空から索敵して貰ってるけど流石に木が邪魔でそれほど効果は見込めなさそうだな。
そうやって小一時間も歩いた頃、それは見付かった。
下顎からは鋭い牙が2本、天を突けとばかりに伸びている。体毛は茶色、鼻息も荒くこちらを睨み付けている。
後ろ足は地面を蹴っていて今にも突っ込んで来そうだ。
そう。それは紛う事なき猪だった。
「って猪かよ!」
「フゴオオオオ!」
突っ込んで来た!と思ったらベルのカイトシールドで弾き飛ばされてあっけなく気を失った。足がぴくぴくしてるよおい・・・。
「まぁ、ついでだし『アナライズ』で記録しときますか。」
「猪って~、食べられるんでしたっけぇ?」
「まぁ食べられるね。俺は食べた事無いけど。」
「持ち歩くには嵩張るので僕が収納して持っていきますね。」
「生肉か、興味はあるんじゃがのぅ。まぁ機会があったら食べてみたいもんじゃの。」
野生か。野生の血が騒ぐのか!
そして更に歩く事1時間半。俺の視界にアラートが表示された。
「皆ストップ。魔獣の反応が来た。いま位置を確認する。」
そう言ってマップを起動し、現在地と魔獣の位置を確認する。ってすぐ近くじゃねぇか!
慌てて尺度を拡大し、広域から詳細表示に切り替えた瞬間、それはやってきた。
「近い!各自最大警戒!って右だ!」
以前にも見たイヌ科に酷似した真っ黒な獣。まるで影そのものの様な体毛に白く発光する何も移さない眼。
大きさは以前と同じ、牛か何かと同じ位大きい・・・。
あ、そうだ!前は初対峙だったからすっかり忘れてたけど『アナライズ』しておかなきゃ!
「魔獣って~、食べられるんでしたっけぇ?」
「いや食えねぇよ!」
「流石に魔力の塊は僕も食べられないと思いますよ?」
「残念ですねぇ」
「あんにゃ不味そうな物体を食べるのにゃんて私は御免ですの。」
ベルさんや・・・随分と余裕だな・・・。後メアリーもな!
「とりあえず片付けるぞ。ベルは前に出てシールドで牽制、メアリーは下がって周辺哨戒。ランディは・・・そのままで良いや。」
「なんぞ、おざなりな気がせんでも無いが・・・まぁワシも周辺哨戒でもしておこう。」
「それで頼む。5号ちゃんは何かあった時のサポートで基本手出し無用って事で。」
「はーい、後ろで応援してますね!ふぁいとー!おー!」
思わず肩から力が抜ける。ま、まぁいいや。とりあえず目の前の敵に集中しよう。
以前は俺1人だったから時間掛かったけど、今回はどうなるかねぇ。まぁその前にアナライズだな。
アナライズ起動・・・目前の対象に対してアナライズ開始・・・
対象:魔獣種‐獣及び魔
含有魔力:C
推定STR:C
推定INT:C
推定AGR:C
推定VIT:C
推定DEX:C
ふむふむ、これが魔獣の能力値になるのか。てかオールCですかそうですか。普通と言うか何と言うか。
ベルがシールドを構えた瞬間、魔獣もベルをターゲットに選んで噛み付いてきた。
その横っ面にベルのカイトシールドがヒットする。って・・・10メートル位吹っ飛んでったんだけど・・・あれ?
魔獣は力が入らないのか立ち上がろうにも立ち上がれて居ない。これはチャンス?
回復される前に決着を着けるべく魔獣に向かって駆け出す。そしてククリ刀で首を刎ねる事に成功する。
あれ?こんな簡単なの?てかベルさんが強すぎる件について・・・。
◇◇◇
「これで目標は達成ですね。では拠点に戻りましょう!」
結局、熊も問題無く狩れた。問題無く。うん、結局ベルの盾で横殴りに殴るだけで熊も猪も、あろう事か魔獣も対処可能だった。
ベルさんパネェ・・・。狩りの成果は熊1、猪2、魔獣1、鹿1。
うん、鹿も襲って来たんだよ・・・。大きさが牛とかと同じ位あったけどな!
そんなこんなで拠点まで帰って来て狩って来た獲物を食材用のストレージに投入。
これで暫くは食料に関して心配は無くなった。
でもこれ、拠点に戻って来れる間は良いとしても、離れた場所まで行く時はその場で処理しないと駄目だよな。
それに野菜と言うか野草と言うか、食用に適した食材の入手も考えないと駄目だろう。
「はぁ~沢山歩いて疲れましたぁ。シャワー浴びて来ますねぇ。」
「あ、真一様、僕も先にシャワー浴びて来て良いですか?」
「どうぞ~、2人とも先に浴びておいで。」
「「ではお言葉に甘えて~」」
「ランディとメアリーはどうする?」
「ワシは結構じゃ」
「私も結構ですわ。」
「ふむ。じゃご飯の準備でもしておくか。って言っても調理機でメニューを選ぶだけだけどな。」
今日は皆、ハンバーグ定食が食べたいと言っていたからメニューでハンバーグ定食をセット。完成時間を待機にセットして
メアリーはいつもの如く焼き魚だ。じつはこの焼き魚、日替わりで何が出てくるか分からないんだよね。
メアリーは選ばずとも色んな魚が食べられるから結構、お気に入りらしい。ちなみにこれも待機にセット。
後は2人がシャワーから出て来たら開始すれば良い。自分で作らなくて良いって楽で良いね~。
こりゃ、確かにこんな生活送ってたら誰も働かなくなるわ。
「ふぅ~、お先に頂きましたぁ~。さっぱりほわほわですぅ~」
「真一様、お先に頂きました!どうぞ!浴びて下さい!」
「あ、俺はご飯食べてから浴びるよ。皆、ご飯にしようか。」
その夜。俺はベッドの中で1人、思考を続けていた。って言うと格好良いんだけどな。
実際には今日、遭遇した動物や魔獣なんかの情報を【アーカイブシステム】で確認しているだけだ。
後はフォルダ分けだな。魔獣に関しては前回遭遇した個体と今回遭遇した個体を見比べたりしてたんだけど
違いは確認出来なかった。全部が全部、あれと同じ個体になるのかねぇ?
そうだったら楽なんだろうけど、もしそうだとしたら100年後に魔王が生まれるって事に説明がつかない様な気がする。
時間経過と共に強くなって行くのか。それとも変らないのか。時間経過と共に強い個体が生まれるのか。生まれないのか。
突然変異で生まれるってのも違う気がするんだよなー。今はまだ情報が少な過ぎて判断が付かないかな。
メアリーの首筋を撫でながらひたすら思考に没頭する。
あ、ちなみに部屋割りはベルと5号ちゃんで1部屋、俺とメアリーとランディで1部屋で、
メアリーは俺とベッド、ランディは部屋に椅子を持ち込んで、その背凭れに留まって寝てる。閑話休題。
あー、なんか思考が蛇行してるな。纏まらない。
データ整理も終わったし、今日はもう寝るかー。
皆、おやすみー。
そして明くる朝。
「さて!僕はそろそろ天界に戻りたいと思います!」
「唐突だな。」
「そうでも無いですよ?結構長い事地上に滞在しちゃいましたし、そろそろ教える事も無いと思うので。」
言われて見れば確かに。なんだかんだで10日位は一緒に居る。
本来なら俺達を目覚めさせたら直ぐにでも天界に帰らなきゃいけなかったんだろうに。
随分長い事引き止めちゃったな。天界での仕事とか大丈夫なんだろうか?
「長い事突き合せちゃったな。申し訳無い。5号ちゃん、ありがとうな。」
「いやだなー。だからお礼を言われるのは照れるんですってばー!」
そう良いながら頭を掻く5号ちゃん。テレッテレだ。顔も真っ赤にしてる。
「ワシらも助かった。指導、感謝するぞい、5号ちゃん」
「そうですわ。私達の為にわざわざ滞在していて下さったんですもの。感謝に堪えないのですわ。」
「私もお礼を申し上げます~。5号ちゃんのお陰で~真一さんを守れるんですもの~。ありがとう御座います~。」
「ま、そう言う事だな。5号ちゃん、ありがとう。」
「も、もー!もー!恥ずかしいじゃないですかー!」
「それでも、さ。俺達はもう、5号ちゃんには会えないだろうから。」
「・・・あ。そう、ですね。そうなんですよね・・・。あんまり楽しくて忘れてました。
よっぽど特別な任務でも無い限り地上に来る事も無いですし、そうなるともう会えないんですよね・・・。」
一滴、地面に吸い込まれて行く雫。今迄は考えない様にしてたのか、それまで笑顔だった5号ちゃんの顔が悲しみに曇っていく。
湿っぽい別れは苦手なんだけどな・・・。
「俺はさ、5号ちゃんが担当してくれて嬉しかったよ。5号ちゃんってさ、笑うと向日葵みたいだなって思ってた。
短い間だったけど、いつもその笑顔に助けられてたと思うよ。だから天界に帰る時もその笑顔で居て欲しいな。」
その俺の言葉で5号ちゃんは顔を上に向ける。そうして、もう一度俺達に顔を向けた時には
また向日葵の様な、元気の塊の様な笑顔を見せてくれた。
「それでは真一様!皆様!これからの御武運をお祈りしてます!無事、使命を終えられる時をお待ちしておりますよ!」
そう言って5号ちゃんは翼を広げ、天に昇って行くのであった。
いつも読んで下さっている皆様、有難う御座います。
順調にPVが増えているのを見ると励みになります。
さて、次回はまた来週の月曜日から投稿を開始したいと思っております。
ではまた次週、お会いしましょう。