第一話「天使と向日葵と剣と俺」
お待たせ致しました。
楽しんで戴けると幸いです。
まるで水の中に居る様な不思議な浮遊感と共に暖かな温もりに包まれている気がする。
何故か目を開ける事が出来ない、と言うか体の自由が利かない?いや、体に力が入らないのか。
どうしよう?マリアージュ様に別れを告げて、あの黒い空間を進んでいるうちにいつの間にか意識を失っていたらしい。
で、気が付いたらこんな状況。いったい何が起こったと言うのか。
あーでも気持ち良いな。何て言うか温い温泉に浸かってのんびりしてる時に似てる感じかな。
恐らく害は無いんじゃないかとは思うけど、体の自由が利かないのは心配だなぁ・・・。
まさか転生に失敗したとかじゃないよね?
そんな事を色々と考えているうちに瞼の向こうから眩しい光が差し込んでくる。
それに伴ってガコンガコン音が聞こえてくる。
良かった、耳はちゃんと聞こえてるみたいだな。でもなんだろう?まるで水の中に居るみたいな聞こえ方だな?
そして暫く・・・漸く体に力が入る様になってきたから瞼を開けて見ると。
そこに居たのは、金髪をショートカットにした緑の瞳の女の子だった。
「おはよう御座います!真一様!体の加減はどうですか?」
あぁ、この話し振りからするとこの普通の女の子に見える人も例の『天使ちゃんズ』って事か。何号なんだろ?
「おはよう、まだ目が覚めたばかり?だから何とも言えないけど・・・多分問題は無いと思いますよ。ところで・・・天使ちゃんで良かったですかね?」
「はい、僕は天使ちゃん5号です!これから少しの間ですけど、宜しくお願いしますね」
うは、僕っ娘ですかそうですか。あの管理者様も何を狙ってこんな設定を・・・。え?アニメを視た時に自分で使い始めた?あ、さいですか・・・。
「お体に問題が無ければ部屋を移動しましょうか。こちらに着替えを置いておくので服を着たらあちらの部屋までおいで下さい。」
そう言って俺が寝ていたベッド・・・ベッド?ってこれ、近未来タイプの映画とかで出てくるカプセルみたいなやつじゃん。
あれ?ここって確か時代的には中世時代に似通った時代背景じゃなかったっけ?これどう見ても時代背景がサイバーパンクじゃん・・・。
そして置いて行かれた服を見ると、普通のバスローブみたいな真っ白いガウンだった。
◇◇◇
「あ、真一様。どうですか?服に不都合は無いですか?」
そう言ってコップを渡してくる天使ちゃん5号さん。改めて見ると天使ちゃんにも色んなタイプがあるんだなぁ。
今目の前にいる天使ちゃん5号さんは、身長は150位かな?ぱっと見た感じ中学生位の女の子で金髪をショートカットにしてて、
瞳は緑色、若干垂れ目だね。そして肌は真っ白でほっそりした感じ。ちなみに僕っ娘。
笑ったトコなんかは例えるなら向日葵みたいな感じかな。なんだかこっちまで元気が出てくる笑顔をしてた。
「あ、そうだ。ここって時代背景は中世時代ですよね?なんかサイバーパンクなカプセルがあった・・・って言うかそこで寝てたみたいですけど?」
「サイバーパンク?が何かは分からないですけど、真一様の言う時代背景で合ってますよ?
あ、あのベッドは元々此処に在ったアンブロッサム文明のモノです。稼動してる遺跡を探すのほんとに苦労したんですよー。」
そう言って脱力する天使ちゃん5号さん。いや長いな・・・なんか個別に名前とか無いんだろうか?
「あぁ、そう言う事ですか。アンブロッサムって魔法だけじゃなくてこう言う機械的な物も発達してたんですねぇ。」
「ですねー。真一様の体を創造するに当たって、こう言った調整槽が設置されてる遺跡を確保に動いてたんですけど、中々稼動してる遺跡が無くって・・・
更には後から追加で調整槽が4つ設置されてる遺跡って言われて・・・もうほんとどうしようかと。」
「あぁ、それは・・・・・・申し訳無いです。俺のせいですね。」
「あぁ、いえ、大丈夫ですよ!そんな申し訳無さそうな顔をする必要は無いですから!ちょっと愚痴っちゃっただけで!」
慌てて手と顔を振る天使ちゃん5号さん。いやホント長いなこの呼び方!
「あー、それはそれとしてですね。なんと呼べば良いですかね?『天使ちゃん5号さん』はちょっと長い気がするんで、
何か固有の名前とかあればそっちの名前で呼びたいなー、なんて。」
「む?そうですねー。特に個人名を表す呼称は無いですねー。まぁ5号と呼んで頂ければ。」
「5号さんですね、じゃこれから「・・・・・・ちゃん」そう呼びます・・・はい?」
「さん呼びは何だか距離が遠いです。ちゃん呼びを希望します!」
そう言って精一杯背伸びをしながら、更に右手を高々と挙げる天使ちゃん5号さん。
ふむ?まぁ見た目もあるし本人が望むならちゃん呼びでも良いのかね?本人が望んでるんだし今後はそうしますか。
「分りました。5号ちゃん」
「はい。大変結構です!」
うーん、やっぱり向日葵みたいな眩しい笑顔だなぁ。
◇◇◇
「と、言う訳でですね。こちらは真一様の調整槽だけが設置されてる施設になります。お仲間さんのベッドがあるのは別の施設になっちゃいました。」
5号ちゃんの話を要約すると、元々は俺の体を作るだけだったからとりあえずは稼動してる調整槽のある施設を探して地上を探索してたそうだ。
で、それは結構あっさり見つかったらしい。それが今いるこの施設。
ところが、俺が「仲間」を必要としてる事からマリアージュ様から更に3体分の調整槽を新たに探索する様にと言われた5号ちゃん。
これが難儀した。全部で4体分の調整槽を見つけ、更にそれが稼動してる施設となると中々に見つけるのは難しいだろう事は想像に難くない。
実際、2体分の稼動してる施設は見つかったけどそれ以上は無かったそうだ。
あまり探索に時間を掛けすぎると俺が地上に降りるのが遅くなると言う事で、最初に見つかっていたこの施設で俺だけ先行して体を作ることになった。
で、完成を待つ間も5号ちゃんは更に施設を探してくれてたんだけど、先日、何とか3体分の調整槽が稼動してる施設を見つけたんだそうだ。
とまぁ、こんな感じで仲間達と合流する為にはもう一つの施設に向かう必要が出てきたって訳だ。
ちなみにそっちの施設の方が設備も充実してるし広いから地上での活動拠点と言うか研究所と言うかは、そちらの施設になりそうだね。
「ここから近いんですか?歩いていける位の距離じゃないと。合流に時間掛かり過ぎても問題があるんじゃないですかね?」
「あ、それは問題無いです。距離的には歩いたら3ヶ月から4ヶ月位掛かっちゃいますけど、今回は僕が抱えて飛んでっちゃいますからっ!」
「・・・・・・お手柔らかにお願いします。」
「大丈夫ですよー!ちゃんと防護用に結界も展開しますから!落とさない様にちゃんと命綱もしますから!」
あぁ、命綱。落とす心配はあるんだ・・・。いい笑顔でそんな事宣言されても嬉しくは無いんだが・・・。若干遠い目をしながら諦めた様に頷く俺。
「それはそうと、真一様は元の世界では何か武術は嗜んでたんですか?」
「ん?武術ですか?んー・・・子供の頃に空手道場には通ってた事はありますけどね。もう何10年も前だし経験にはカウント出来ないかなぁ。」
「そうなんですか?それじゃ素人って事で間違いないですかね?それなら不詳、この僕が!剣の手解きを致しましょー!」
「剣・・・ですか?いやまぁ、自衛手段が無いと困るのは理解出来ますけど、仲間とかほっといて良いんですかね?」
「はい!まだまだ完成まで時間があるので今直ぐに移動しなくても大丈夫です!それに手解きと言ってもそんなに時間は掛かりませんしねー。」
ん?そんなに簡単に覚えられる様なものでも無いと思うんだが・・・。そう思って聞いた所、この体はそもそも普通の体では無いと言われた。
何が違うのかと言うと、俺が望んだ能力にも関係して来るんだけども。
この体を構成してる組織と言うか、構造と言うか。筋力的な能力は最大で常人の3倍程の力を発揮できるらしい。
それに合わせて耐久力(骨格とか筋繊維とか)もそれに合わせた能力値になってるんだけど、普通の人間の組織ではそんな負荷に耐えられないそうだ。
なので、見た目は普通の人と同じだけど実際に使用されてる体細胞組織とかは例の古代文明時代の人造人間の物を使用してるんだって。
人造人間と来たか。鉄の悪魔とか素手で倒せるのかね?閑話休題。
で、俺の要望した特殊な能力についてはマリアージュ様が用意してくださった神器を体の中に埋め込んで、それを使用してるそうだ。
あれ?変な自爆機構とか無いよね?
まぁそれはともかく、その神器の中には一度得た知識や経験を別の記録媒体に記録して何時でも閲覧出来るようなる能力を発揮する物がある。
それが今回の手解き云々になるんだけど、この『経験』と言う物を肉体に連動して記録するから一度でも体験すれば体が勝手に覚えて動けるようになるらしい。
なんとも不思議で不可解な能力だが、まぁ便利だし良しとしよう。元々は名前を覚えるのとかが苦手だから望んだ能力なんだがなぁ・・・。
◇◇◇
そうして外に出てきた俺達。いやー、びっくりしたよ。何がってあの施設、地下数百メートルの所にあったんだから。エレベーター的な機能で出てきたんだけどさ。
地上に着くまで一分近く掛かったからね。そりゃぁ施設が無事に残ってても不思議は無いかなぁ?いやそうでもないか?
ちなみに今の俺は麻で出来た半袖のシャツ、チェニックって言うんだっけ?それに下は同じく麻で出来たボトムス。
麻ってゴワゴワしたイメージあったけど、これはそうでも無いな。んでもって足元はサンダル。足首に紐で結べるタイプのやつね。
「ここは、所謂未開地に当たる大陸中央部の西の端に位置する所でして。範囲数キロ圏内には人の反応はありません。
だから思いっきり暴れちゃっても問題はないです!」
相変わらず向日葵の様な笑顔でそう言ってくれる5号ちゃんなのだが・・・その背中の大剣は何なんですかね?そんなんで殴られたら普通に死ねるぞ!?
対して俺が持つのは刃渡り60センチ位の片手剣。確かククリとか言う剣だったかな?刃の方に湾曲してるし。
そしてこの剣であの大剣を相手にしろと・・・。いや、一体どうしろと?
「それじゃまずは型を披露するから僕の後に続いて同じ動きをして下さい!」
と言いつつ何処からか俺が持つのと同じ剣を取り出す。って今どっから出した!?何も無い所から・・・あぁ、これが所謂アイテムボックスか・・・
これは確かに人前で使えないな・・・。掌に収まる物なら問題無いだろうけど、ちょっと大きめの物になると誤魔化せないわ。
ここは森の中なんだけど、その中のちょっと開けた場所になっていて、5号ちゃんが予め周りを伐採したりして広場としての体裁を整えてくれてたそうだ。
そんな広場で、暫くは5号ちゃんが見せてくれる型に従って俺も同じ型をまねて一緒に動く。そのまま一通りの型をなぞり終えたら今度は1人で最初からやる様に言われた。
あれ?何だろうこの感覚・・・。確かに一度やった型は体が勝手に動いてくれる。これが経験と体験を体が覚えてくれるって奴なのかな?
「うんうん。型の動きはばっちりですね!今度は模擬戦形式での訓練に移行しましょう!あ、勿論ちゃんと寸止めしますので安心して下さいね!
とりあえずは僕が襲い掛かるので何とか防御出来るように頑張って動いて見て下さい!」
と、言って何の合図も無くいきなり切り掛かってくる5号ちゃん。いやほんといきなりだな!うおっ!?掠った!掠った!寸止めするんじゃ無かったのかよ!?
そんな感じで切り掛かってくる5号ちゃんの剣を或いはかわし、或いは受け止め、何とか防御に成功する。と言うか体が勝手に反応して防いでくれる。
ある程度、俺が防御出来る事が分かった5号ちゃんは今度は反撃もして来る様に指示する。
俺は何とか防御し、防御後に体制を崩さない様に意識をして反撃できる時は反撃を行う。
暫くそんな訓練を続けていたら日が暮れて来ていた様だ。
「それじゃ日も暮れてきた事ですし、そろそろ訓練は終了して施設に戻りましょうか。」
「はい、有難う御座いました。」
「へ?なにゆえお礼を言われたのでしょう?」
「え?だって訓練を付けてくれたじゃないですか。指導して貰ったら御礼を言うのは当然だと思いますけど?」
「やだなー、これはだって必要だからしてる事ですし、マリアージュ様からも言われてる事ですし」
「それでも、ですよ。どっちにしろ自分がして貰った事にはちゃんとお礼は言わないと。」
「いやー、お礼なんてされたの初めてですよー。何だか照れちゃいますねー。」
ふむ、まぁ確かにあの管理所?だか管理室だかで活動してる限りは俺みたいにお礼を言う相手なんて居なかったんだろうなぁ。
「ところで・・・。その背中のブツ、使えるんですか?やたらとでかいですけど・・・・・・。」
「え?これですか?そりゃぁ使えますよー、僕のメインウェポンですもん!」
そう言って笑顔でブンブン振り回す5号ちゃん。あ、それ片手剣だったんだ?明らかに本人より重そうだけど片手で振り回すんだ?
もう色々台無しだよ!?
主に4話で章を構成する様な書き方となっております。
どうぞ宜しくお願い致します。